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論文No.2 歩行中の前庭系情報の関与について

タイトル

歩行中前庭情報が重要なのはいつか? 

Bent LR, Inglis JT, McFadyen BJ: When is vestibular information important during walking? J Neurophysiol 92: 1269―1275, 2004

内容

要約

被験者の踵接地、立脚中期、つま先離地のそれぞれにおいて、ガルバニック電気刺激(*)で前庭覚を刺激することにより、前庭覚情報が歩行周期中重要であった時期の調査をする事ができた。

結果は上半身と下半身の制御において前庭調整の違いが示された。

異なる時期に適応されたGVSに対する上半身の反応は、頭部の振幅と変わらなかった頭部(p= = 0.2383), 体幹 (P = 0.1473), 骨盤(P = 0.1732) 。歩行サイクルを通じて上半身のアライメントへの前庭情報に関する同様の依存性を示している。

足部の位置の変化はヒールコンタクト時に(両足支持期の間)立脚中期(歩行周期の片脚支持期P = 0.0193)に刺激がされた時より優位に大きかった。 結果からヒトの歩行中の前庭情報の制御に依存する相が初めて根拠として示された。

*直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:GVS)。GVSは,両側の乳様突起に貼付した電極から微弱な直流電流を通電し,前庭器官を刺激するものである。GVSはカロリック刺激と異なり,刺激強度を調節できるため,眩暈や嘔気などを生じることなく,前庭器官を刺激することが可能。    

序文

うまく行っている歩行は単純そうに見えるが実はそうではなく、視覚情報、体性感覚入力(皮膚や筋肉からの)そして前庭の寄与を含む全身の協調性の複合体を必要とする。視覚と体性感覚情報が、歩行のようなダイナミックな課題中の姿勢制御に影響する依存的な相を示す事が証明されている。

歩行中の前庭システムの役割は十分に理解されていないが、主に操作のためにこの感覚システムを分離するという課題が原因である。ごく最近のガルバニック前庭刺激(GVS)の技術により、歩行への前庭の寄与についてよく研究されるようになってきた。

ネコにおける前庭脊髄路ニューロンの腰部脊髄との連絡では、トレッドミルでの歩行中の前肢において踵接地時の発火の増加が観察された。これらのデータは抗重力活動の促通と歩行の立脚期中の後肢の推進力への前庭の寄与の増加を示しているとして解釈された。

本調査の目的は、人の定常歩行中の上半身と下半身の制御における前庭情報の寄与の性質を調査することである。

2つの特別な疑問が提起された。
1つ目は定常歩行中のGVSに対して、相に依存的な反応は 存在するか?
2つ目はこれらの反応は上半身と下半身で異なるのか?

方法

8人の健康な被験者(男性5、女性3)年齢25.5±6.98歳、身長177.9±6.2cm、体重70.6kg±11.9kgが集められた。

オプトトラックシステムを使用して、3次元の運動力学データ(100Hzにおけるデジタルサンプル)を収集し、直線的な分節的姿勢を決定して、身体のCOMを推定した。

次に、それぞれのセグメントの特別な解剖学的基準や人体測定の尺度を使用し、運動学的分析のソフトウェアの一部として 、COMやそれぞれのセグメントの主軸が推定された。

最後にカスタムソフトウェアを使用して、それぞれのデータサンプルの上半身の代表的なCOMの位置(身体重心の2/3と説明されている)を頭部、体幹、骨盤のCOMの位置の重みの合計として推定された。

AMTI社の床反力計2つは、被験者が安定した状態で前進して歩いて横切るよう(左右の足のそれぞれにおいて)床に沿って段違いに設置された。

両耳用のGVSの両極は、2つのカーボンのラバー電極が、耳の前の9㎠の2つのエリアに設定された。

それぞれ個々の被験者の立位中のGVSへの反応の閾値は、データの収集前に測定され、刺激の強度はそれぞれの被験者によって変えられた。

テストの手順

参加者は最初の床反力計から3歩距離を取って立つ。

視覚を排除して歩く間、自然なスピードで快適さを確立するためにデータ収集の前に3〜5回の練習が与えられた。

右脚から歩行を開始するように、また停止の指示があるまで前進するよう(4.3mまで、もしくは7〜8ステップまで)指示が与えられた。

光が入ってくるのは可能に、しかし輪郭や物体の判定はできないよう特別に作られた不透明なゴーグルで、視覚は排除された。被験者はゴーグル内で目を開けておくよう指示された。

GVSの混乱は試行の間続いた(3〜4秒)。5回の試行がそれぞれ6回の刺激の状態より収集された(陽極右、陽極左、足先離地、立脚中期、踵接地)。これらの30の刺激試行に加えて、刺激のない9回の試行が収集された。

結果

GVSの刺激の結果、頭部、体幹、骨盤は陽極電極の方へ向かって回転した。頭部の回転は体幹より有意に速かった、その後に体幹と骨盤の回転が生じた。頭部と体幹と骨盤のHC, MS, およびTOの3つのGVSイベント間で、最大回転反応の大きさに有意差はなかった(図1)。

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                 図1

足の位置については、GVSの配信後のステップ1においては、いずれの歩行イベントにおいても、有意な変化見つからなかったが、ステップ2において刺激のない試行との比較によって観察された図2。GVSがHC時に送電されたときに、陽極の右(14.9 cm)と左(-9.8cm)の両方で刺激なしと比較して、足の配置に有意な変化があった。

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                    図2

HC時の左右への刺激後の平均絶対値足位置変化は、MS時の刺激後より有意に長い事が示された図3A。

位置の変化の有意な差は、ステップ2の足の位置の変化が観察された点で見られた。HCの試行のCoMの偏移の平均は(8.5cm)、MSの試行(4.2cm)よりも有意に大きく、TOにおいてはCoMの偏移は大きいが有意ではないことがわかった図3B。

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                図3A.B

臨床への糸口

前庭系の働きとして、頭部や眼との関係、四肢への影響に加えて、歩行中の姿勢制御に対し体幹や骨盤へも影響している事を改めて知った。

適切な前庭情報とその後の足の位置を意識して、立位や歩行といった場面で、特にヒールコンタクトをしっかり作ることが改めて重要。

感想

今回の論文は、英語が得意ではない私にはちょっと難しく感じました。

ちょっと大変でしたが、読み終わって素朴な疑問が沸々と湧いてきました。

前庭脊髄路の速度って速い!ってイメージでしたが、今回の実験の足の位置の変化は随分遅いなぁとか。

立位でも踵に荷重すると、前庭情報の影響が下肢に影響するのかなぁとか。

ネコの前足の接地もヒールコンタクトっていうの?トゥコンタクトじゃないのとか(笑)

次は少し長い論文を読むつもりなので、今回よりも気持ちを強く気合を入れてチャレンジします💪





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