アウトプットが出ない時は「一次情報」をインプットする

期日は迫るのにいいアウトプットがなかなか出ない、というとき、人はどうにかして「アウトプットを出そう」としてもがいてしまいがちです。しかし、そうやってもがいたとしても、状況を大きく打開するようなアウトプットが出ることは、まずありません。

こういうとき、何をさておいてもやらなければならないのは「アウトプット」ではなく「インプットのやり直し」です。なぜなら、いいアウトプットが出ない時というのは、まず間違いなく、いいインプットがされていない時、だからです。

このとき、意識しなければならないのが「一次情報をインプットできているか?」ということです。

強いのは一次情報

いろいろと情報を集めてはみたものの、今ひとつピンと来ない、顧客をハッとさせられるような情報が見当たらない、というときは一次情報が足りていない可能性があります。一次情報というのは、簡単に言えば記事や書籍等の「人手を介した情報」ではない情報のことです。

これは考えてみれば当たり前のことですが、知的生産を依頼している顧客はさまざまな検討を重ねていることも多いわけで、わたしたちがとりあえず手にするような資料や書籍はすでに目を通している可能性が高いのです。

もし彼らがある程度の二次情報をすでに取得済みだとすれば、差別化のためにはどうしても一次情報、つまりは現場を観察したり当事者にインタビューをしたりして直接的に得た情報が必要になります。

知的生産を行うとなると、一般に各種の資料や書籍を読み込んで、というイメージを持ってしまいがちですが、こういった情報源から本当にインパクトのあるヒントが得られることは稀だと考えてください。

質のよい一次情報を入手できるかどうかは知的生産の根幹に関わる問題なのです。

知的生産のゲームの勝利条件

そもそも、知的生産というゲームでは勝ち方が二つあります。

一つは、相手が知らない様な一次情報を集めて情報の非対称性を生み出すというアプローチです。これが相手にとってインパクトのある知的アウトプットになる、ということはおわかりでしょう。

もう一つは、顧客がすでに知っている二次情報を高度に組み合わせて情報処理し、インサイト=洞察を生み出すというアプローチです。

顧客がすでに知っている情報を知的アウトプットとして提案してしまってもゲームには勝てません。知的生産のゲームでは勝ち方は基本的にこの二つのパターンのどちらかでしかありません。

アウトプットが出ないといってウンウン唸っている状況というのは、大概、この図でいう「戦略1」のアプローチを採用しているケースですが、これは非常に付加価値を出すのが難しいのです。

二次情報の組み合わせで付加価値を生み出そうとすると非常に高度なプロセッシングが必要になります。顧客だって優秀な人たちが多いのですから、すでに持っている情報については十分に考察しています。

この二つのやり方のうち、どちらの方が付加価値を生み出しやすいかは、論ずるまでもありません。多くの場合、「戦略2」のアプローチの方がはるかに付加価値を出しやすいのです。

価値ある一次情報を手に入れられれば知的生産のビギナーであってもそれだけでインパクトのある知的アウトプットを生み出すことが出来ます。この点をよく意識して一次情報と二次情報をバランスよく集めるように、こころがけるといいでしょう。 

観察も大事なインプット

一次情報を手に入れるのが大事といわれても、具体的になにをやればいいのかよくわからない、と思われるかも知れません。そういう場合は、とりあえず現場に行って観察することをおすすめします。

観察するだけでなにか打開策が見えてくるのか?と問われれば、それは観察者の力量による部分もあって何とも言えませんが、少なくとも、一次情報を得るためのもっとも有効なアプローチの一つが観察であることは間違いありません。これは知的生産に従事する人であれば肝に命じて欲しい点なのですが、煮詰まったらまずは虚心坦懐に現場を見てみるといいでしょう。それだけでいろいろなヒントが得られるはずです。

リサーチャーが、調査対象者の意識や行動に対して直接的な関わりや介入をせずに、彼らの様子を観察するだけで情報を集めるという調査手法を専門的には「フライ・オン・ザ・ウォール観察法」と呼びます。

これを大和言葉でひらたく表現すれば、要するに「現地現物」ということになります。この「現地現物」を観察するにあたって重要なポイントが「あるまとまった量の時間をかけて腰を据えて見る」という点です。

観察の対象や立証しようとしている仮説の種類にもよりますが、筆者の経験から言えば、少なくとも一日くらいの時間を使ってゆっくりと観察するほうが、細切れに何度も観察するよりも結果的に効率的なケースが多いようです。

というのも、いい仮説というのは、繰り返し観察されるパターンに気付くことで初めて得られるからです。観察する時間があまりにも短いと、目の前の事象が何度も繰り返しておこっていることなのか、その時たまたまおこっていることなのかを判別できないのです。

大型リゾートホテルの再生事例

一つ事例を紹介しましょう。

さる大型リゾートホテルの再生プロジェクにおいて、現場のオペレーション効率の改善の仮説がなかなか得られなかったときに、まずは丸一日かけて虚心坦懐に現場を観察することで打開策が見えてきた、ということがあります。

この場合、一日中ホテルをプラプラしながら観察することで、初めて「忙しい人はいつも忙しそうにしているのに、突っ立って客待ちしている人は団体客が来訪した前後だけ忙しいだけで、八割がたの時間はヒマそうだなあ」ということに気付いたのです。

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