#004 人生における「多動」の重要性について

最近、モーツァルトをあらためて聞き込んでいるのですが、昔はよくわからなかった「闇」が少しずつ味わえるようになってきて、やはり良いですね。

で、音楽を楽しむのと同時にモーツァルト関連の書籍も読んでいるのですが、あらためて面白かったのが「モーツァルトの手紙」です。読めば色々なことを感じると思います。本当にお金に苦労していたんだなとか(人に借金を頼む手紙がたくさん出てくる)、意外と努力家だったんだなとか(実はとても地味な努力を続けている)、色々と感じるところがあるのですが、今回は「多動」という点について書きます。


ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト。「天才」の代名詞としてよく名の上がる作曲家ですが、モーツァルトの創造性を単に「天才だったから」で整理してしまっては後世に生きる私たちにとっての学びはありません。

実際には、モーツァルトの創造性は「生まれ持っての才能」と「生まれた後の環境」によって育まれたと考えるべきです。確率論で考えれば、モーツァルトと同様の才能を持って生まれた人物はかつて数え切れないほどにいたはずですが、彼ほど恵まれた環境にあった人物は一人もいなかった。それがモーツァルトという人物を孤高の存在にしているというべきで、つまりは「環境の産物だ」と考えた方が良いということです。ではどのような環境要因がモーツァルトの才能を伸ばしたのか。

モーツァルトの生涯を俯瞰してあらためて感じられるのが、その「旅」の多さです。モーツァルトは36歳で没していますが、旅の期間を合計してみるとその累計は十年強となります。つまり、人生のほぼ三分の一は旅の途上にあったということです。

これはモーツァルトの創造性に決定的な影響を与えたと、僕は思っています。というのも「旅」と「創造性」には極めて強い関係があるからです。例えば世界的に活躍されている建築家の安藤忠雄氏は、まだ建築家としてデビューする前にヨーロッパの名建築を巡るツアーを敢行して、その後の建築の糧となる感性を磨いています。

あるいは我が国の吉田松陰もまた、「旅」を学びの場として考え、書物による勉強は一定の年限で止めてしまい、その後はことごとく「人に会って人から学ぶ」ということを徹底した人物でした。

これは経営学の世界でも同様に認識されていることらしく、たとえば先般対談させていただいた早稲田大学の入山教授は、僕からの「創造性を左右するキャリアの要因は何ですか」という質問に対して「この人はすごいなと思う経営者は旅をしている人が多い。個人の創造性はその人の累積移動距離に比例するのではないか」という、とても興味深い仮説を述べておられました。

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