キャリアというゲームの構造原理について

先日、昨年から書き進めていた「クリティカル・ビジネス・パラダイム」をついに脱稿しました。かなりの分量の原稿を最終工程で削ぎ落としたので、本が出版されたら、おいおいこちらのNOTEでボツになった原稿を共有していきたいと思います。

さて、ということで、これからは次の書籍の企画に時間をかけていきたいと思います。漠然と考えているテーマは「これからの生き方・働き方」といったもので、前回と同様、書きかけの原稿をこちらにちょこちょこあげながら、一種の市場調査というか、テーマに対する関心の度合いを計りながら進めていければ楽しいかなと思っています。

今日は、掲題にある通り「キャリアというゲームの構造原理」について書いてみたいと思います。次の図を見てください。

つまり、キャリアというのは、
 
時間資本を用いて人的資本を生み出し、人的資本によって社会資本を生み出し、社会資本によって金融資本を生み出すという、超長期にわたる投資の連鎖
 
として定義できるのです。

10〜20代は人的資本を伸ばす時期

10〜20代の働き始めの時期、ほとんどの人は、スキルや知識等の人的資本も、人脈や信用といった社会資本も、まったく持っていません。あるのは余りある時間、つまり時間資本だけです。

この時間資本を「スジの良い仕事」に投資することで、その投資はまずスキル・知識・コンピテンシーといった人的資本に転換されることになります。

この「時間資本→人的資本」の転換効率がキャリアの前半においては非常に重要です。濃密な仕事経験ができるスジの良い仕事に時間資本を投下することができれば、投下した時間資本が高効率で人的資本として戻ってきます。

一方で、この時間をスジの悪い仕事に投下してしまえば、投下した時間資本はそのままドブに捨てることになり、人的資本としてリターンを得ることができません。

本書で後ほどあらためて触れたいと思いますが、キャリアの前半でどのような仕事に取り組むかは、この「時間資本の人的資本への転換」という観点から非常に重要な論点となります。

人的資本には上限があるが社会資本には上限がない

次に、仮に人的資本の蓄積に成功したとすると、この人的資本が高い水準の成果を生み出すことになり、これがやがて周囲の評判や信用といった社会資本を生み出すことになります。

そしてここがポイントなのですが、人的資本には上限がありますが社会資本には上限がありません。スキルや知識やコンピテンシーには必ず上限がありますが、評判・信用には上限がないのです。

ビジネスの世界でもスポーツの世界でも芸能の世界でもパフォーマンスと成功の関係は非対称です。例えばウサイン・ボルトのタイムと他のトップクラスの短距離スプリンターとのタイム差は百分の数秒でしかありませんが、知名度(=社会資本)には雲泥の開きがあります。

これはビジネスの世界でも同様です。たとえば昨今は企業経営者の給料が高すぎることがしばしば問題になりますね。やっている仕事に対してあまりにも給料が高すぎる、というのが批判の主軸ですが、これは別に企業経営者に限った話ではありません。パフォーマンスと社会的成功はどのような領域でも非対称なのです。

よく「俺とアイツで何が違うんだ、大した違いもないくせに」などと遠吠えのように愚痴を言っている人がいますが、こういうことを言う人は、世の中の基本的な原理がわかっていないのです。

金融資本を生み出すのは人的資本ではなく社会資本であり、人的資本と社会資本の関係には極端な非対称性がある

ということがわかっていれば、愚痴を言う前にやるべきことがあるということがよくわかるのではないでしょうか?

お金を産むのは能力やスキルといった人的資本ではなく社会資本

さて、このようにして社会資本が育ってくると、人的資本と社会資本が相まって金融資本を生み出してくれることになります。ここで注意して欲しいのが、図中で「人的資本と金融資本を結ぶ線」が点線になっているという点です。

これは何を意味しているかというと、金融資本を生み出すのは主に社会資本であって、人的資本は間接的にしか影響しない、ということなのです。

私たちは資本主義の社会に生きており、自分たちの能力が労働市場における商品として売買される以上、市場で顧客の購買意思決定を左右しているのは信用や評判や知名度であって、人的資本ではありません。理由は非常に単純で、なぜなら「人的資本は外側から見えない」からです。

これは私たち自身の購買行動を振り返ってみればすぐにわかります。日用品にせよ家電製品にせよ自動車等の耐久消費財にせよ、私たちは商品そのものの物性や性能をつぶさに比較して購入しているわけではありません。

多くの人はその製品やメーカーの信用・評判・知名度等を大きな判断材料にしているはずです。見たことも聞いたこともないようなメーカーの製品は、いくら「ちゃんと作られていています」と説明されたところでなかなか買えるモノではありません。

つまり「金融資本を生み出すのはその人の持っている信用・評判・知名度などの社会資本であって、知識・能力・コンピテンシーなどの人的資本ではない」ということです。これはキャリアを考える上で非常に重要な点であるにもかかわらず、多くの人が誤解している点です。

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