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ペップシティとナーゲルスマンバイエルンが始めた新たなSBのタスク”ピン留めSB”とは

現代サッカーでは同じポジションでもチームによって与えられたタスクが異なるため、同じポジションでも全く違う動きをすることが珍しくなくなった。今回取り上げるSBで言えば、オーバーラップするSBもいれば低い位置でリスク管理をしておくSBもいる。特にSBは攻撃時に様々なタスクが生まれ重要なポジションになってきた。そのSB像を進化させてきたのがペップ・グアルディオラだ。バイエルン時代の偽SBやマンチェスターシティでのカンセロロールなどがある。そして今シーズンの夏にまた新たなSB像を生み出した。それが名付けてピン留めSBだ。ピン留めSBは偽SBと似たようなポジショニングをするが明確な違いがある。今回はピン留めSBについて偽SBとカンセロロールを比較しながら考えていこうと思う。

1.偽SBとカンセロロロールについて

ピン留めSBを偽SBとカンセロロロールと比較するに当たって、両者について定義しておこうと思う。

まず偽SBについて

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偽SBはSBがフロントエリア(相手FWの後ろかつMFの前のスペース)に移動すること(またはその役割)。フロントエリアに移動することでSBを監視している相手SH(又はWG)はついて行くかどうかの判断を迫ることができる。ついてきたら味方SHへのパスコースができ、ついてこなかったらSBがフロントエリアでボールを受けることができる。また、中央に人数が増えるためボールを奪われた時にフィルターとして活用できる。デメリットとしては偽SBはフロントエリアでボランチのようにプレーするので判断力と技術力が求められる。また、偽SBはオーバーラップをするわけではないので味方SHが単独で突破できないと攻撃が停滞してしまう。

次にカンセロロロールについて

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カンセロロロールはSBがハーフバイタル(ピッチ基準で言うハーフスペース)に移動し、さらに二アゾーンランなどでフィニッシュワークに参加すること(またはその役割)。ハーフバイタルに移動することでSBを監視している相手SHはついて行くかどうかの判断を迫ることができる。ついてきたら味方SHへのパスコースができ、ついてこなかったら高い位置に多くの人数を配置できる。デメリットとしてはSBが高い位置でフィニッシュワークに絡むのでボールを奪われた時に、低い位置でフィルターとして機能する人数が少ない。また、SBがもともといたサイドのスペースを使われてしまう。

守備側の原則は基本的に中央を閉じてボールをサイドに追い込むこと。従って偽SBでもカンセロロロールでも基本的に相手SHは、中央に移動するSBについていきSHへのパスコースができることは許容する。つまりSBでもカンセロロロールでも共通して得られるメリットはSHへのパスコースができてSHを活かせること。

2.ピン留めSBのメリットとデメリット

偽SBとカンセロロロールについて定義したのでピン留めSBについて。冒頭にペップがピン留めSBを生み出したと書いたが、実際はナーゲルスマンも第3節のベルタ戦で右SBのスタニシッチをピン留めSBとして使っている。

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ピン留めSBはSBが相手SHの真横にポジショニングすること(またはその役割)。大外レーンにいたSBが内側に移動してSHの真横にポジショニングすると、相手SHはこのSBをマークし、味方SHへのパスコースができる。こうして相手SHをピン留めするのでピン留めSBと名付けた。

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このように味方SHへのパスコースを作れるだけなら偽SBやカンセロロールでも良いので他のメリットもあるはずだ。先述したように偽SBでは中央低い位置なのでオーバーラップなどはできないが、ピン留めSBは偽SBよりも高い位置でなのでオーバーラップも可能になる。また、カンセロロールではビルドアップの初期段階で貢献できないが、ピン留めSBは相手SHから少し離れれば関与することができる。

このように偽SBとカンセロロールの良いとこ取りのピン留めだが、もちろんデメリットもある。それは自分が相手SHにマークされて犠牲になることで味方SHへのパスコースを作るので自らがボールを貰うのが難しくなることだ。また、それに加えて自分もボールを受けようとすると、味方へのパスコースを塞がないポジショニングがかなり難しい。従ってピン留めSBには戦術理解度が求められる。

3.ペップとナーゲルスマンが同時期にピン留めSBを始めた理由

ペップとナーゲルスマンという素晴らしい2人の監督が同時にピン留めSBをやりだしたということは何か大きな意味があるはずだ。

私が立てた仮説は2つあり、1つめは同サイド圧縮守備を回避するためだ。ヨーロッパのトップレベルではハイプレスをかける時に、ボールをサイドに誘導し、後はマンマークすることでサイドに封じ込めてボールを奪う。これを突破するためのピン留めSBという仮説だ。

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バイエルンでスタニシッチがピン留めSBをやる場合、SHにボールが入ると必ず外側に開いてバックパスのパスコースを作る。SHにボールが入ると相手は同サイド圧縮をかけてくる。この時相手SHは相手SBのフォローをしに下がる。そうするとスタニシッチはフリーになってボールを受けることができる。ここでSHがスタニシッチにバックパスをするとスタニシッチから逆サイドに展開することができる。

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2つめは5バックを崩すためだ。シティのピン留めSBであるメンディーやカンセロは、シティがフィニッシュワークの段階に入った時大外からのオーバーラップなどで相手WBに対してWGと数的優位を作ろうとする。5バックに対して5レーンでは崩せなくなってきたので、偽SBのメリットもありつつオーバーラップもできるピン留めSBを始めたのかもしれない。

4.ピン留めSBと従来のSBとの明確な違い

このようにピン留めSBにはいくつかのメリットがありペップやナーゲルスマンがやり始めた理由もある程度は理解できた。しかし自分の中で何か違和感があり腑に落ちないことがあった。

攻撃側選手のポジショニングでよく言われるのは中間ポジションをとるということ。どのポジションでも守備側選手の中間ポジションをとることで、ボールを受けたときに時間とスペースができる。しかしピン留めSBはこの原則を無視したポジショニングになる。これが私が抱いた違和感の原因だと思う。FWがスペースの狭いところで相手DFの近くにポジショニングすることはあっても、ビルドアップに関わる選手があえて自ら相手に近づいていくことはこれまで見たことがない。

これが重要だ。従来の偽SBやカンセロロロールはフロントエリアやハーフバイタルへの移動によって相手に判断を迫ることができる。しかし守備側選手の目線になると、その移動が終わってしまえば迷いは生まれない。つまり偽SBならフロントエリアに移動してしまえば守備側としてはただのボランチと捉えて守備をできる。カンセロロロールならただのIHとして守備ができる。

その一方でピン留めSBは移動した後も効果がある。守備側選手とすると常に自分の近くに攻撃側選手がいるので、この選手をマークするしかなくなる。するとSHへパスを通されてしまう。このようにピン留めSBは相手SHをピン留めすることで確実にSHへのパスコースを確保できる。その分トレードオフでSBがボールを受けれる可能性が下がってしまう。

これが従来のSBとの明確な違いだ。これまでは移動によって相手を迷わせていたが、ピン留めSBは移動後のポジショニングによって相手に有無を言わせずにSHへのパスコースを作ることができる。一見すると偽SBとピン留めSBは同じように見えるが、それはピッチ基準で捉えてるからであって、相手基準で捉えると偽SBとピン留めSBは明確に異なるポジショニングをしている(ピン留めSBがフロントエリアまで中央に行くことはない)。

5.まとめ

今回はペップシティとナーゲルスマンバイエルンのピン留めSBを分析した。しかし両者は全く同じではなく若干違っている。例えばシティの場合はピン留めSBであるメンディーがCBからボールを受けることがあるが、バイエルンの場合はスタニシッチがボールを受けようとしてるようには見えない。

ここまでピン留めSBについて書いてきたが、自分でもまだ完全に理解したわけではない。というのも先述してきたピン留めSBのメリットがあまり大きいようには見えないからだ。もしかしたらもっと大きなメリットがあるのかもしれないし、逆にそんな深い意味はないのかもしれない。ただ一つ言えるのは戦術好きとしてあーだこーだ考えるのは楽しい笑笑。まだピン留めSBについて見ていく必要はありそうだ。

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