2023.7.27 A.Scriabin 5Preludes Op.74
藝大に入学して4年間取り続けた副科ピアノの、最後の前期試験が終わりました♪
今年の春に病気をして、学校から選んでもらった交換留学に行けないというアクシデントの後、何がなんだか分からなくなって無気力になっていた私に、もう一度、自分の音楽の原点に向き合う機会を与えてくれたのがこの授業でした。
自分のルーツは実はクラシック音楽で、それは自分がどんな創作表現をする時にもいきていると思っていますが、今回初めてここまで大きく調性を逸脱した作品を、暗譜で!弾くという挑戦をしました。
演奏したのは、先生に教えていただいたスクリャービンの人生最後の遺作である5つのプレリュードOp.74 という作品です。
最初聞いた時は正直、本当に何もかもがわかりませんでした。
スクリャービンという作家は前から興味を持っていましたが、これまで弾くのに挑戦したのも、聴き好んでいたのも前期から中期の作品ばかりでした。
なのでまずこの作品が好きになれるのかも、弾けるようになるかも最初はとても不安でした。
が、これはそのおよそ5ヶ月後の試験直前の最後に練習室で撮った動画ですが、この演奏を聴いていただけるのならもちろん完璧とはずっとずっと言えないのですが…この作品に対する想いと愛を少しばかりは感じていただけるのではないだろうか、という自信はあります。
それほど、最後には大好きな作品になりました!
正しい解説にはおそらくなりませんが、以下この作品に向き合った私自身の考えと想いを、自分自身の大事な思い出として一曲ずつ綴らせていただきます!
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Op.74-1
不穏な響きから始まる一曲目。楽譜と向き合うにつれ、あらゆる発見を重ね、思いも高まっていったが、最後までどこか謎のヴェールに包まれていた作品だった。
スクリャービン特有の耽美で恍惚とする感じではなく、(本人はこの曲を物理的ならぬ神秘的酷暑の悶えと形容したようですが…)何かずっと苦しく、不気味な印象を表現しなければならない。
一音目から、複雑微妙な感情を表すのが難しい曲でしたが、徐々にその独特の掴めなさの虜になっていきました。
Op.74-2
瞑想的で本当に美しい二曲目。
大大大好きなのに、とても難しく、うまく行ったり、行かなかったりで苦戦した。5曲の中で1番シンプルでありながら奥の深いこの曲は、1番最後まで悩んだ曲かもしれません。5度の連なりが奇妙な心地で、その上に覆い被さるメロディーは本当になんとも言えないほど、痺れるほど美しいのですが、そういった肉体的エクスタシーを拒絶するような印象もあって、文献を読むと、本人はこの曲を通して「死」を表現したかったというような記述があって腑に落ちました。
エロスとタナトスの絶妙な臨界点に立つような表現の探究がとても難しい作品です。これから先成長した時、もっとうまく弾けるようになることを祈っています。
Op.74-3
5曲の中で1番衝動的なエネルギーに溢れた印象を受ける作品。
途中のフォルテでは”叫び声のように”、という指示があり、動物的な本能の表現と、それでいてものすごく繊細な感性が必要とされる曲だと感じます。
練習しはじめの時は、この曲が1番速度もあって、弾いていて華やかで何だか格好が付くところもあって、とにかく勢い任せに弾いていましたが、よくよく向き合うとこの曲の表面的な激しいエネルギーだけではなく、内省的な深さの次元に気がついていきました。
しかしこの曲の難しいところは一度始まってしまうと、歯止めの効かない何かに飲み込まれてしまい、毎回の演奏で、緊張感とボルテージの高揚の間でものすごく揺れ動き、安定した演奏ができず少し反省が残ります。必要なだけの必然的なエネルギーで演奏したいですね、精進です。
Op.74-4
私が5曲の中で、1番共感できる音楽は何かというとこの曲です。このOp.74という連作の中で、この曲は唯一、甘さ、情感的なロマンチシズムを表現することが許される音楽だと思っています。しかし、そこに至るまでの昇り詰めていく苦しさも表現しなければなりません。
“長短の奇妙な結合”という本人の記述がありますが、特にこの曲の最終音の配置の美しさは驚愕で、スクリャービンの切り拓いた独特の世界に慄きすら感じるほどです!ぜひこの曲はフルで聴いていただきたいです。
Op.74-5
跳躍がふんだんに散りばめられた恐ろしくスケールの大きな、この連作の最終曲に相応しい作品。
もはや人智を超えた宇宙的な存在を感じるような… 要求されるテクニックも何だか規格外というか単に技術的というより、散らばった音を繋ぎ星座を描かせるような…不思議なエネルギーが必要です。
激しさゆえにミスも大事故になりかねず正直ものすごくヒヤヒヤするし、最後の最後でこれほどかというほどのエネルギーの爆発を余儀なくされ、身体的にも息が上がりますが、スリルを乗り越えた後に響く最後の余韻の中では、スクリャービンの世界に浸れたことを幸せに感じます。
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ここまで読んでくださった物好きの方々には、感謝を贈らせていただきます❤️🔥笑スクリャービンという偉大な作家を通して、改めて音楽とピアノに夢中になって向き合えた時間が幸せでした。
いつまでも新しい発見に出会える音楽の旅を続けたいです!
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