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ブライトンと日本代表の距離

2022年の大晦日に行われたサッカープレミアリーグ第18節アーセナル対ブライトンの試合。
三笘選手は先発、冨安選手も途中出場を果たし、日本人マッチアップが実現した。

結果は2-4でアーセナルの勝利。
試合に臨む戦術の差が結果に反映された内容で、サッカーの醍醐味が分かる一戦となった。

今回も三笘選手の評価は高かった。
前節とは違い、得点に直接からむことに成功。
それによって、内容よりも結果を出してアピールできた試合と言える。
随所に彼らしいドリブルも披露し、相手に脅威を与えていた。

成果と課題

この試合、懸念していた問題も露出した。
それは、ブライトンが左サイドから攻める際に、三笘選手を起点としたボール回しに効果的なパターンが少ないことだ。
とはいえ両チームともに、持ち味を出すことには成功していた。
この試合のポイントを三つ切り取ってみた。

サイドの攻防


一つ目のポイントは両チームともに左サイドに強力なドリブラーを配置している点。
結果的にアーセナルに軍配が上がった。
先に述べたように、ブライトンは三笘選手で起点を作ることがなかなかできず、特に前半は良くなかった。
攻めるパターンが少なく、アーセナルのディフェンダーも彼との間合いに気をつけていれば難しいタスクではなかった。
それによってブライトンは徐々に後手に回ることになる。

また、両チームはともに、右サイドに左利きのドリブラーを配置していたが、ブライトンはここを起点に攻撃を進める回数が多かった。
比較的テンポを落としてパスを回しながら攻めることで、アーセナルの左サイドのドリブラー、マルティネスを少しでも自陣に下がらせる狙いもあった。

もともとブライトンのサッカーはこの形なので目新しさはない。アーセナル相手でも十分機能すると監督も計算していたのだろう。

ただこの試合では、アーセナルの左サイドアタッカーであるマルティネスのパフォーマンスと、彼へ供給されるパスのクオリティが高かった。
ブライトンは攻守において自陣右サイドの負担が予想より大きくなってしまった。
前半の肝はこの右サイドの攻防だった。

パサーは現代も存在する


二つ目のポイントはゲームコントロールだ。
特にアーセナルの心臓部ともいえるウーデゴー選手のプレイが光っていた。
チーム戦術が緻密になり、このポジションの要求レベルは上がっている。
試合中に狙うポイントを瞬時に判断し、ラストパス。
そのクオリティ、そしてチームメイトとの意識の共有も仕上がっていた。

ゲームコントロールが良いと選手たちに迷いがなくなる。
迷いがないと走り出しの一歩目が鋭くなる。
この「一歩」がことごとく試合に影響した。
ブライトンとの大きな差だった。

戦術的僅差


実はこの試合、ブライトンの方がボール保持率が高かった。
アーセナルの狙いの一つはプレスによる守備からのカウンター。
特に奪ってからの展開が速い。おまけに前線からのプレスだけでなく、自陣に引いて守ってからもカウンターが鋭い。
格上のチームにこれをやられるとボールを余計に持たされることになり、リズムを崩す。

ブライトンはもともと最終ラインからボールを回して展開してゆくチームだ。
アーセナルも似たチームコンセプトで、この2チームはかみ合わせが悪い。
アーセナルのアルテタ監督は、それを逆に利用した。
「守→攻」によるポジティブトランジションを強調した戦術を採用し、この切り替えの早さでブライトンに勝った。

サッカーでは、局面の戦術を個々の選手の特徴に落とし込み、個人技を100%発揮させる。このアプローチの精度が現代では非常に高くなっている。
あらかじめデザインされた形を試合で披露することが求められ、このデザインも緻密かつ多彩になった。
試合中での対応力が求められ、チームとして戦い方をいくつも「可変」させることが戦術の一つとして定着している。
サッカーのハンドボール化、バスケットボール化と言われるのはこの点だ。

つまり求められるのは「個」の力。とんがった能力の選手が目立つようになっている。
その前提として求められるのは、アスリートとしての身体能力の高さ。
そしてチームプレーを理解する頭脳を持ち合わせているかどうかだ。

ブライトンの狙い

ブライトンはこの試合、後半勝負だったように見える。
三笘選手のコンディションがある程度良いこともあり、前半をしのいで後半に勝ち越すプランが軸。アーセナル相手には有効な手段だったはずだ。
W杯で見せた日本代表のサッカーに似ている部分が多く見受けられた。

そこであらためて感じたのは、三笘選手のようなジョーカーこそ、先発しなければならないということだ。
彼を温存するのは、極端に言えば格下のやり方で、一度披露して研究されればあまり効果がない。リーグ戦では特に薄れる。
先発出場してリズムを作り、相手を抜くポイントを見極めて後半にそこを突くことも重要なゲームメイクなのだ。

アーセナルのアルテタ監督はそれを踏まえた上で、後半に両サイドバックを交代させた。
ディフェンスにフレッシュさを取り戻し、後半にキレを落とした三笘選手のドリブルに対応しようとしたのだ。
しかし彼はちゃんとスタミナをコントロールしていた。
そして後半、ディフェンダーの冨安選手と対峙できたのは、前半からリズムを作ることができていたからだ。
三苫選手には十分に先発できる能力がある。
「ジョーカー」は時に出し惜しみになってしまうといえる。

ブライトンというチームはテクニカルで戦術もある良いチームだ。
三笘選手も連携を高めれば、より良い結果を残せるのは確実だろう。
しかし一方で、彼はステップアップできる段階にある。

サッカー選手が身につけなければならないスキルは、この10年で増えた。
「格上の選手」になるためには、足踏みしていたくないシビアな事情も目の前にある。
細かい部分はさておき、この試合で成果と課題を確認できた三笘選手にとっては、順調にステップアップした内容と言える。

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