チームの魂はセットプレーに宿る
快進撃
イングランドサッカーFAカップ4回戦、ブライトン対リヴァプール。
後半アディショナルタイムに入ってからの得点で2-1と劇的な勝利をおさめたブライトン。
試合の内容としては、終盤にブライトンが繰り出したセットプレーが秀逸だった。
このシーンを見れば、サッカーにおけるセットプレーの重要さがわかる。
さらに、三笘選手の現在の立ち位置とブライトンというチームがとても野心的であることが伝わってくる。
得点シーンのフリーキックを得た位置については、攻撃時に侵入するエリアとして頻度は高く、練習でも取り上げられることが多い。
守る側からしてもこの形の経験値は十分で、対応の仕方はある程度心得ている。
したがって、攻撃陣はプレーに工夫が必要になってくるので、ヘディングで劣勢に立たされるチームにとっては単純にボールを放り込むことは避けたい。
セットプレーはチームカラーが色濃く反映されるので、実はサッカー観戦するうえでもとても面白い。
プレーがいったん止まるので、じっくり見られるのもポイントだ。
相手をフリーズさせる
ここで取り上げるブライトンのセットプレーの肝は両サイド。
大外に位置する4人の選手だ。
狙いは相手ディフェンダー陣を左右に振り回すこと。
ブライトンは左サイドには大外にエストゥピニャン選手、一つ内側にダンク選手が陣取っていた。
一方、右サイドは大外から三笘選手にデニズ選手という並びだった。
サッカーでは、180度左右に視界を振り回されると対応が遅れやすい。
脳の処理が追い付かず、体が反応できないからだ。
攻撃時のボール回しでよく利用されるセオリーとされている。
ダンクとデニズのサンドウィッチ
まず最初のポイントは、キッカーのグロス選手が低めの弾道でエストゥピニャン選手にボールを蹴るところ。
低めの弾道で蹴ることで、相手ディフェンダーは反応して競り合おうとジャンプする。
その際にダンク選手がジャンプしなかったのが重要な点。
エストゥピニャン選手がフリーでボールを受けられるように相手ディフェンダーの進路をブロックするタスクに専念していた。
結果、エストゥピニャン選手はフリーでボールを反対サイドに蹴ることに成功する。
反対の右サイドでも同じように、今度はデニズ選手が相手ディフェンダーをブロックして三笘選手をフリーにさせる。
このセットプレーは、状況を判断してパスの出し手やシュートの判断を瞬時に変えられるように、あらかじめ優先順位を付けて選択肢を設けていたと考えられる。
ここではファーストチョイスがうまくはまった形だった。
セカンドチョイスはグロス選手からのボールをエストゥピニャン選手がダイレクトで折り返すか、キープしていったんボールを下げるといったところだろう。
このゴールにおいてのダンク選手とデニズ選手の役割は非常に大きい。
プレッシャーの激しいプレミアリーグにおいては特に、フリーでボールを持つことは最重要だ。
ゆえに試合中の駆け引きのほとんどはこの点に集約されている。
三笘トラップ
最後のフィニッシュは三笘選手の個人技が光ったが、最初のトラップが面白かった。
決して珍しいプレーではないが、ここぞという本番でできることではない。
このゴールシーンで重要なのは、彼はボールをトラップする前に、ボールを一度切り返すことを決定していたという点だ。
右足のアウトサイドで右側に、あえて角度が厳しい方向へトラップしたのは、相手を釣るため。
本命のシュートスペースを邪魔されないための選択だ。
このトラップの瞬間、彼の頭の中は切り返すボールのことでいっぱいだったはずだ。
他のことは事前に頭の中で描き終わっていたので、あとはどれだけ繊細なタッチができるか。その一点に集中できていた。
このプロセスが三笘選手のスーパーゴールにつながっている。
何より重要なのは、この一連の動作は彼の中で感覚的なものに昇華されているということ。
ここで言語化したような一連のプロセスを、彼は頭で一つ一つ認識してプレーしてはいない。
サッカー選手のみならずアスリートは皆、理解したことが感覚的に発揮できるまで動きを体に叩き込む。
言語化できる選手が一概に優秀という見方はできない。
選手皆が監督になれるわけではないのと同じだ。
とくに攻撃的な選手にこの傾向は多く、
例えばメッシのプレーをある程度言語化することは可能だが、誰かがメッシになることはできるだろうか。
できないという答えが大半だろう。
これは、スポーツには言語化の先の世界があるということを示している。
サッカー経験者にしかわからないことがある、というのは事実で、
メッシのことはメッシにしかわからないのだ。
ゆえにスポーツは面白い。
「凄い」ということはわかるが、凄すぎて理解できないから皆、熱狂する。
上位キラー
大の大人が、ゴールのために体を張って役割を全うする。このプレミアリーグというエゴイスト集団に対して、監督によるチームマネジメントが確立できていることも特筆すべき点だ。
選手を評価する基準、選手起用の合理性も感じられる。
バリエーション豊富な準備はイタリア人指揮官の志向が反映されているのもあるが、現在好調なブライトンはチームの指揮が高いことも要因だ。
移籍市場でも名をはせ、上位チーム特有の主導権を握り始めている。
ブライトンにおける三笘選手の序列も上がり、パスが集まりだしている。
本人も、「いいパスを受けられている」という発言から、ブライトンで充実しているさまがうかがえるとともに、ここで結果を出さないと先へは進めないという強い意志を彼は抱いている。
今後は三笘選手とコンビを組む左サイドバックの補強が必要になってくるかもしれない。
エストゥピニャン選手の疲労を考えると、どこかで休ませたいだろう。
チームは上向きだが、リーグとカップ戦の両方をフルに戦う戦力はまだない。
後半戦に失速することも十分考えられる。
FWのファーガソン選手が怪我をしたり、移籍市場に多少振り回されたことで補強に支障が出た可能性はあるが、まだまだ見どころ満載のブライトンと三笘選手に要注目だ。
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