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マザレス番外編 烙印の報復 雪日の惨劇 没エピ 鳴海ケンイチ編② スピンオフ

 昨夜から降り続く雪は一向にやむ気配がなく、寝巻き代わりのトレーナー姿のケンイチは寒さで今にも凍えそうだった。行くあてもなかったし帰る家もなかった。適当に数時間歩いて気がつくと小学校の正門の前に立っていた。冬休みの校庭には雪が降り積もってグラウンドは一面銀世界だった。真っ白な風景の中での数人の男子たちが雪合戦に興じていた。ケンイチのクラスメイトたちだった。歓声を上げて楽しそうに雪球を投げ合う少年たちをケンイチはバックネットの裏からぼんやりと眺めていた。一人の少年がケンイチに気づいた。そして薄着のケンイチを見て指差し声をあげて笑った。

 ───ヒラヤマ君、ケンイチがこっちみてるよ

 ───ケンイチ! こっちこいよ、一緒に雪合戦やろう

 ヒラヤマ君と呼ばれた体格の良いリーダー格の少年がケンイチに向かってそういった。ケンイチは誘われるがままにグラウンドに入った。皆は一斉に雪球をケンイチに投げつけた。すぐにケンイチは雪まみれになった。五、六人の少年たちからげらげらと笑い声が上がる。逃げ回るケンイチを面白がって追いかける少年たち。逃げながら校舎の方へ走っていくと雪下の花壇の柵に足を取られてケンイチは転倒した。体格の良い少年が投げた雪球がケンイチの顔面に勢いよく当たった。通常の雪球にしては硬く不自然な衝撃があった。額に激痛が走った。ケンイチの額がぱっくりと割れていた。雪球の中にはこぶし大の石が仕込んであった。切れた額からぼたぼたと血が流れておちた。寒さのせいか痛みはほとんど感じなかった。ケンイチは雪の上に落ちた自分の血を見た。血の赤が昨夜握りつぶした金魚になった。母親が大事にしていた赤い金魚。ケンイチが殺した金魚。金魚は雪の上から抜け出すとケンイチを馬鹿にするようにひらりと舞い空中を一周してぱちんとはじけて消えた。そのとき生来感じたことのないほどの激しい怒りがケンイチを支配した。ゆっくりと立ち上がりケンイチは少年を睨みつけた。その視線は強い憎悪に満ちていた。少年はいきなりケンイチにつかみかかてきた。

 ───なんだその目つきはなんだ、おまえ今日はやけに生意気だぞ

 そういうなり少年はケンイチを殴りつけた。立て続け何度も殴った。強く押され背中から倒れこんだ花壇の雪のなか指先に硬い物が触れた。それは雪の中に埋もれていた園芸用のシャベルだった。ケンイチはそれを少年にばれないようにつかんだ。少年は仰向けに倒れているケンイチに馬乗りになると

 ───お前なんて生きていてもしょうがないだろが

 そういって少年はまた手加減なしにケンイチを殴りつけた。さらに殴りかかろうとした瞬間、ケンイチは隠しもったシャベルを両手でしっかり握りしめ少年の顔面めがけ力まかせに突き出した。鉄のシャベルのその尖った先端は少年の右目にぐさりと深く突き刺さり眼球をえぐった。少年の目から噴きだした色鮮やかな血がそれまで真白だったケンイチの視界を真っ赤に染めた。


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