マガジンのカバー画像

連載小説マザーレスチルドレン完結済+番外編

30
本編は一応19話で一旦完結です。が、本編前後のエピソードを番外編として今後ここに掲載します。最終的にマザレスの続編となる予定です。タイトル仮題『マザーレスチルドレンⅡ 烙印の報復…
運営しているクリエイター

#SF

【連載小説】マザーレスチルドレン 第一話 饒舌なるヨシオカの独白【#創作大賞2024 #漫画原作部門 応募作】

本編 「おう、ヒラヤマ。オレだ。例の食堂のガキさらってこい」 「そうだ今すぐに行け。何回も言わせるな馬鹿野郎!」 「ああ、それと、今回も一時間だけ黒服は動かねえ。今からきっちり一時間だ。時間内なら少々派手にやっても構わん」  ヨシオカは携帯電話で今夜の標的を手下に指示している。  ヨシオカは携帯をシートに放り投げると後部座席にふんぞり返り、運転しているヤオ・ミンのヘッドレストに向かっていう。 「しかし、あの政治家もひでえよなあ、自分の娘の同級生だぜ。やることがえげ

【連載小説】マザーレスチルドレン 第二話 廃棄物処理場【#創作大賞2024 #漫画原作部門 応募作】

「君は何故ここでの仕事を選んだんだ?」  ベッド上で上半身を起こしている男が唐突にハルトに問いかけた。  異様に痩せて肌は荒れて見るからにカサカサだが眼光だけは鋭い男だ。 「ここで働いているのは・・・さあ、他にすることもないから」ハルトは正直にそう答えた。 「楽な仕事じゃないだろう、確かに今は大変な時代だ。でも多くの若者は政府の生活支援プログラムで遊んで暮らしてるじゃないか」 「別にそれでもいいんですけどね。ただ人を探してるんです。もしかしたらここで、この施設で働い

【連載小説】マザーレスチルドレン 第三話 お誕生日会の夜【#創作大賞2024 #漫画原作部門 応募作】

「じゃーねー、ユイちゃんまたねー!」 「またねー、リカちゃん、ユウジくん」ユイがリカとユウジに手を振る。 「バイバーイ、ユイちゃん、またテトリスやろうね!」 「うん、ユウジ君、絶対やろうね」 「今日は、子供たちがすっかりお世話になってすみません。それにこんな素敵なお土産までいただいて」  リカのクラスメイトのユイの誕生日会。帰り際、レイコはナカシマ家の玄関先で深々と頭を下げた。  土産に貰ったのは、瓶詰めのキャビアと外国の有名店のものだというマカロン。  ナカシマ

【連載小説】マザーレスチルドレン 第四話 連続バラバラ殺人事件【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

「おーい、ハルト君、今帰りかい?」 そう言うとモリタはロビーを歩いていたハルトを呼び止めた。 「あ、センター長。はい、今終わったところです」 ハルトは立ち止まり、モリタの方に振り返って答えた。 「そうそう、今日身寄りのない女性が搬入されたけど、もう聞いたかい?」 モリタはハルトに近づきながら言った。 「はい、確認してきました。でも違ってました」 ハルトはそう言いながら足元に視線を落とした。 天井の蛍光灯の光が無機質なリノリウムの床に鈍く反射している。 「母は

【連載小説】マザーレスチルドレン 第五話 東和食堂とマスター【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

「いらっしゃい……。おおー久しぶりだねぇ、ハル」 カウンター内の厨房で仏頂面してひとりで何やら仕込みをしていた店主と思われる男、ハルトの顔を見るとパッと笑顔になった。 「どうだ、調子は?」カウンターの中の椅子に腰掛けると店主の男はいった。 「調子っていわれても別に何も変わった事なんかないよ。相変わらず虚しいだけの仕事やって徒労の果てに家に帰ってひたすら寝るだけだよ。マスターの方はどう、忙しい?」  この居住区の中心部に当たる東和町にある小さな食堂、東和食堂。ハルトはこの

【連載小説】マザーレスチルドレン 第六話 I Shall Be Released 【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

The Bandの演奏するアイ・シャル・ビー・リリーストが天井から吊るされた小型スピーカーから流れてきた。ボーカルの搾り出すようなファルセットが淀んだ店内の空気を僅かに震わせた。 僕のとなりにいる見知らぬおとこが オレは悪くないと叫んでいる 僕は一日中そのおとこの叫びを聴いていたいんだ オレははめられただけなんだっていう 悲痛なおとこの叫びを ほら君にも見えるだろう 西から昇る太陽が僕らの顔を照らすのが そのときに僕らはきっと 自由になれるさ  この国の経

【連載小説】マザーレスチルドレン 第八話 ゼンタイシュギシャ?【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

「ねぇーマァマァー、ユイちゃんちのバースデーケーキすっごくおいしかったねー」  リカが楽しそうにレイコに話しかける。月のない暗い夜道。商店街の店舗は早々とシャッターを閉じている。レイコたち親子三人レイコを真ん中にして手をつなぎ並んで家路を急いでいた。  リカは今年でもう十歳だ。最近は急に生意気になって、何気ない会話をしてるつもりが時々レイコを驚かせる事を言う。 「そうねえ、本当に美味しかったわね」左側のリカの方を向いてレイコが言った。 「リカ、また食べたいよぉー」

【連載小説】マザーレスチルドレン 第九話 最悪の食糧難【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

「ねえマスター食糧難のときってそんなにひどかったの?」 「うん、世界的な大不況が来たかと思うと、翌年には異常気象と家畜病の流行で食料難がきて、世の中からあっという間に食べ物が消えた。そう、いきなり。あっという間にスーパーの棚から食べもんがなくなったんだ」 「へえ」 「あの頃、オレはまだ高校生だったし一番腹減る頃じゃん。部活もやってたし……今思い出してもゾッとする。地獄だった、人間食えないっていうのが一番こたえるな、そこら辺に生えてる草は全部食ったよ。犬や猫も食った。酷い

【連載小説】マザーレスチルドレン 第十話 のんだくれカジさん【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

 どんっ!   入り口のドアが勢い良く開かれて一人の男が転がるように入ってきた。大きな黒いショルダーバッグを肩にかけた四十を少しこえたくらいに見える中年だった。  ハンチング帽にヨレヨレの半袖の開襟シャツ、それにかなり汚れが目立つジーンズを履いていた。すでにかなり酔っているようだった。 「いらっしゃ…… なんだカジさんか、また来たの?」 「悪かったね、マスターオレで。でもこの店は客なんて来ねえだろそんなに、だからオレが来てやってるのよ、いつもマスター一人で可哀そうだか

【連載小説】マザーレスチルドレン 第十三話 鬼畜の所業【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

───ヨシオカが経営するラウンジのシークレットルーム 「先天性の重症疾患かなんかで臓器移植を待ち望んでいる子供たちは世界中たくさんいますが、正規のルートでは、脳死になった子供の臓器がなかなか出てこない。倫理的問題で小児臓器の移植を認めてる国もまだ多くはない」 「たとえ提供者が出てきたとしても血液型、HLAのタイプ、臓器のサイズ全てが適合しないと拒絶反応を起こしてしまう。そして全てが適合する都合のいい提供者がほいほい出てくる筈もない。数万人に一人いるかいないかだ。しかし大金

【連載小説】マザーレスチルドレン 第十四話 役立たずの黒服 【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

「ヤマサキ先生、びっくりするじゃないですか! ……驚かせないでくださいよ」  その男はヤマサキという年齢不詳で、でっぷり太った体躯に顔は色白で丸々と膨れ上がっている。見るものにすべてに西遊記に出て来る豚の怪物を連想させた。先生というのはマスターがそう呼んでるので、皆もそう呼んでるのだが、どこの何者か、なにをしてるのかマスターも実は知らなかった。最近になって急にあらわれ今では毎日欠かさず顔を出すこの店の常連のひとりだった。 「そうだ、先生は、早い時間にきて、すぐにトイレに入

【連載小説】マザーレスチルドレン 第十五話 ノセのオジキ【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

「いらっしゃいませ、おしぃとりしゃまですか?」  一歩店内に入ると浅黒い肌をした女の店員が声をかけてくる。ヨシオカはそれには応えずせわしく目を泳がす。雑多な人種の酔客で溢れかえりあちこちで外国語と笑い声が飛び交っている二十四時間営業の低価格だけがうりの居酒屋チェーン。喧騒をかき分け進むといちばん奥のテーブル席で上下白のジャージ姿のノセがひとりジョッキを傾けていた。 「おう、久しぶりだな、ヨシオカ」 「ご無沙汰してます」ヨシオカが頭を下げる。 「かたくるしい挨拶はいい、まあ