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「ATTESA」

「じゃあ、行くよー」

半クラでシフトを繋ぎ、アクセルを踏む。

柚菜が長年の貯金をはたいて買った、
黒色のR32は、綺麗な加速で伸びていく。

昔から運転の上手い柚菜は
シフト動作もスムーズ。

高速に乗れば、その上手さがはっきりと出る。

車もそう。
一般的なやつと違って、
加速した時に後ろからグンとくる感じは
いかにも、スポーツカーだ。

『ほんと、運転うまいよな、柚菜って』
『俺とは大違い』

「そんなことないよー」
「でも正直、オートマだったら変わんないと思うよ?」

『そう?』

「そうだよぉー」

「ほら、こんな感じでさ」
前を見つめながら話す柚菜の目線の先には、
車の列が。

「マニュアルはこれがめんどくさいだよねぇー」

車が止まったり、進んだりする度に
せわしなく操作する。

確かに、これはあまりやりたくない。

「でも、それが魅力でもあるんだよねぇ」

「なんかこう、一筋縄ではいかない感じ?」

「人間でもそうじゃん?」
「素直な人も嬉しいけど、どこか一癖あった方が面白いと思うし」

『まぁ、それは確かにね』

「アテーサって、知ってる?」

『え、何それ?』

「この車の仕組みなんだけどね」
「基本は後ろ2つの車輪が駆動するんだけど、アクセルの踏み具合とか、状況に応じて前の車輪も動いて、車のバランスを保つんだって」

『へぇー』

「ねぇー、明らかに興味なかったでしょ」

『そんなことないけど』
『熱量が凄いな、とは思った』

「引いてるじゃん」

『引いてはないよ』

「じゃあ、車と同じくらい、熱量を向けてるって言ったら、どうする?」

『そりゃ、嬉しいよ』

「そっかぁ」
「じゃあ、そろそろ休憩したいなぁー」

車はいつの間にか、渋滞を抜けていた。

「休憩ついでに、コーヒー飲みたいなぁー」

「もちろん、ホットでね」

熱量が、伝わった気がした。

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