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Squawk77 解説編

「Squawk77」(https://note.com/shrakusai_saka/n/n8608a44d9c92)の解説編です。

解説をお読みいただき、ありがとうございます。
基本的に、ストーリーが進む順に解説しています。

一番最初に用語集をまとめていますので、わからない単語があれば
都度確認していただければ幸いです。

~用語集~
「(便名)heavy」:大型機を表す符号。日本は大型機が大半なので、あまり使われない。
エンルート:「航空路」のこと。発展して航空路を扱う「コントロール管制」を指す呼称にも使われる。
識別信号:飛行する飛行機すべてに割り当てられる4桁の数字。8進数。
プッシュバック:飛行機をバックさせたりすること。飛行機は自分でバックできないので、専用の機材に押してもらう。
インフォメーション:ATISと呼ばれる空港の気象情報を提供するシステムからの情報。
AからZまであり、風などの気象情報が30分~1時間おきに提供される。
地上滑走:発着場を離れ誘導路を経由して滑走路に向かうなど、地上を走ること。
V1:離陸決心速度のこと。これを超えると滑走路をオーバーランするため、離陸しなければならない。
Rotate:引き上げ速度のこと。機体を上昇させるために必要な速度。
V2:安全離陸速度のこと。飛行機が地面を離れ、安全に離陸可能な速度。
万が一1個エンジンが止まっても、十分に安全を確保できる。
ギア:車輪のこと。ギアアップは車輪の格納、ギアダウンは車輪の引き出しを意味する。
SID:標準計器出発方式の略。空港への離陸には、風向や混雑状況に応じたルートが複数設定されている。
「コントロールの管轄」:日本のコントロール管制は、札幌・東京・神戸・福岡の4つに分かれている。
ホールド:上空待機のこと。管制から指示を受けた時などに、特定の場所に行き旋回する。
ゴーアラ:「ゴーアラウンド」の略。着陸をやり直すこと。
ACARS:飛行機と地上の間でデータをやり取りするシステム。

~タイトル~
Squawk77:正式名称は「スコーク7700」。飛行機が緊急事態に陥ったことを表す救難信号。
緊急事態になった時、パイロットは管制官に「Emergency=緊急事態」を連絡しなければならないが
無線が繋がらない時や、連絡する余裕もない時にも、発信すれば管制官に気づいてもらえる。

ー飛行機の管制についてー
飛行機は、予め航空会社から提出され、管制官によって承認された「飛行計画」に基づいて、
「航空路=道路」を飛行します。
飛行機を導く管制官(以下、航空管制官)は、いくつもの分業制で飛行機の運航を支えています。

例:羽田→秋田へ行く場合
・役割
①デリバリー:「飛行計画」を承認する立場の人。
②グラウンド:発着場から滑走路までの誘導や、空港内の交通整理を専門に行う人。
③タワー:飛行機が滑走路に離着陸するのを管理する人。離着陸許可はこの人が出す。
④ディパーチャー:離陸した飛行機を「航空路」へ誘導する専門の人。
⑤コントロール:「航空路」を飛ぶ飛行機を、目的地の空港近くまで誘導する人。
⑥アプローチ:着陸しようとする飛行機を、「航空路」から空港の滑走路まで誘導する人。

関わる順番
①→②→③→④→⑤→⑥→③→②

航空管制官である絢音ちゃんは秋田空港(③)から札幌コントロール(⑤)を経て
羽田空港(①~④・⑤)へとやってきました。
ちなみに、航空管制官は公務員なので、かなりの頻度で転勤があるみたいです。

~絢音ちゃんの管制に関する解説~
絢音ちゃんは日本航空機を着陸させた後、すぐに滑走路を空けるよう指示しています。
これはアメリカン航空機を素早く離陸させるためですが、これには理由があります。
飛行機は、大きさによっても異なりますが、一定の間隔を開けて離着陸しなければいけません。
これは「後方乱気流」と呼ばれる、飛んでいる飛行機の後ろに流れる乱気流の影響を避けるためです。
今回の場合、アメリカン航空の機体は大型のボーイング787型機です。
大型機の場合、最低5マイル(約9km)の間隔を開けなければなりません。
アメリカン航空機への離陸指示の中に「着陸機が5マイルの位置にいます」と絢音ちゃんが伝えていますが
これは最低間隔ギリギリにいる着陸機の情報を伝えることで、
後方乱気流を防ぎつつ、パイロットが焦ってミスしないよう、やんわり急がせている訳です。
逆に、アメリカン航空が離陸した後、着陸しようとしている全日空機には
「後方乱気流に気をつけてください」とインフォメーションを発しています。

細やかな心配りが出来る、絢音ちゃんならではですね。

ー飛行機の免許についてー
飛行機は車と違って、1人が複数の免許を取得することができません。
原則1人1免許=1機種となっています。
つまり、1人で異なる機種を操縦することはできません。
今回の作品の場合、急遽機材が変更になったことで、担当パイロットも入れ替わることになったわけです。

ー飛行機の大きさについてー
当たり前と言えば当たり前ですが、飛ばす路線の需要に合わせて飛行機の大きさを変えています。
今回、絢音ちゃんが乗った路線は、比較的小さな飛行機を飛ばす路線でしたが
機材繰りの関係で、大きな飛行機で運航することになりました。

※補足
日本の航空会社は飛行機を「国内線用」・「国際線用」に分けて運航しています。
飛行時間の長さや提供するサービス、飛ばせる距離の違いなどが理由です。
今回、代打で出てきた飛行機はANA(全日空)のボーイング777-200型という大型機です。

~管制や行動に関する解説(秋田空港着陸編)~
本格的な解説に移る前に、飛行機の離着陸の基本について解説します。
飛行機は基本的に「向かい風」に向かって飛びます。
これは飛行機が浮かぶ力、「揚力」を必要とするためです。
見方を変えれば、追い風や横風には、何らかの制限がかかる訳です。

秋田空港に管制の管轄が移った時、機長は副操縦士に
「風の状態をリクエストしてくれ」と指示しています。

横風が強ければ、飛行機が着陸することはできません。
基本的に、風の情報は着陸直前になってからリクエストする場合が多いのですが、
事前に風が強い予報を把握している場合は、もう少し前倒しになることもあります。

風の制限は搭乗人数や残存燃料、風向や路面状態等にも左右されますが
今回のボーイング777-200型機の場合、30ノットが限界値でした。
管制から情報を得た時点では、横風制限値をオーバーしていたため、
何らかの決断を下す必要があったわけです。

~管制に関する解説(エンジン停止編)~
トラブル発生直後、機長は主人公の副操縦士に「スコーク(識別信号)7700」と指示しています。
飛行機にトラブルが発生した場合、真っ先にトラブルの重大性や内容を管制官に連絡しますが
今回のケースでは、2つあるエンジンのうち、1基が停止してしまいました。
飛行機は原則、エンジン1基でも飛行可能なように設計されていますが、
万が一、両方がほぼ同時に停止してしまったら、管制官に連絡する余裕もないかもしれません。
そこで機長はとっさに、識別信号を緊急事態専用の信号に切り替えることで
管制官に重大なトラブルが発生したことを伝えようとしたわけです。
実際、トラブルシューティング中に、もう1基が停止してしまったことを考えると
適切な判断であったと言えるでしょう。

なお、機長と管制官のやりとりが、途中から日本語に変わっています。
これは、航空管制のルールで許されていることです。
基本的に航空管制は「航空英語」と呼ばれる専用の英語でやりとりされますが、
その国の母国語でやりとりすることも許されています。
ただ、日本で使用される場面は、今回のトラブル発生時のように、
いちいち航空英語に訳す余裕がない時や、あいさつ程度にとどまることが多いです。

途中、管制官が搭乗人数と残りの燃料を聞いています。
これは、万が一に備えて、というのもありますが、
着陸に対する判断が変わるから、という理由もあります。
なぜなら「飛行機の着陸には重さ制限があるから」です。
もし飛行機の着陸時に重すぎると、機体を支える車輪が折れたりするなど、
重大な事故に繋がる危険性があります。
仮に、燃料が想定よりも多く残り、重さ制限を超える可能性が出てきたら
近くの海などへ誘導して、燃料を放出する必要が出てきます。
なので、管制官は搭乗人数や燃料を確認した、というわけです。

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