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Squawk77

鈴木絢音ちゃんを、絢音ちゃんも大好きな飛行機ネタで書いてみました。
文章の特性上、専門用語が多数出てきます。
飛行機をあまりよく知らないという方向けに、解説を用意しています。
一緒に見ながら、本編をお読みいただければ幸いです。

<解説>https://note.com/shrakusai_saka/n/nab8441d913e5

'Japan Air 574,Wind 240 at 6,Runway 34R,Cleared to land.'
(日本航空574便、風は240度の方角から6ノット。滑走路34Rへの着陸を許可します。)

'Runway 34R,Cleared to land.Japan Air 574.'
(滑走路34Rへ着陸します。日本航空574便。)

白い機体が、ゆっくりと滑走路へ降りていく。

私は車輪がきちんと地面に着いたのを目視して

'Japan Air 574,expedite vacating C-7.We have Departure.'
(日本航空574便、急いでC-7より滑走路を離脱してください。出発機がいます。)

'vacating C-7,Japan Air 574.'
(C-7より滑走路を離脱します、日本航空574便。)

機体の端が滑走路の境目に描かれた線から出たのを確認したら、

'American 176,inbound 5miles on final.Wind 230 at 5,Runway 34R,Cleared for take-off.'
(アメリカン航空176便、着陸機が滑走路端から5マイルの位置にいます。
風は230度の方角から5ノット。滑走路34Rからの離陸を許可します。)

'Cleared for take-off,34R,American 176 heavy.'
(滑走路34Rからの離陸を許可、アメリカン航空176便。)

私が個人的に大好きな、銀色のボーイング787が飛び立っていく。

'American 176,Contact departure 120.8.'
(アメリカン航空176便、ディパーチャー管制120.8にコンタクトしてください。)

'120.8,さよなら!'

'さよなら'

飛び立つ機体と交信を終えるとすぐに、

'All Nippon 456,Wind 280 at 7,Preceding B787 departing,Caution wake turbulence.Runway 34R,Cleared to land.'
(全日空456便、風は280度の方角から7ノット。先行機のボーイング787が離陸しました。
後方乱気流に注意してください。滑走路34Rへの着陸を許可します。)

'Runway 34R,Cleared to land.All Nippon 456.'
(滑走路34Rへ着陸します。全日空456便。)

最混雑時は2分間隔ともいわれる、東京・羽田空港の離着陸。
飛行機を適切な間隔で離着陸させ、風などの細かな情報も忘れない。

一見、淡々と見えるかもしれないが、想像以上に激務だ。

羽田空港のような、24時間動き続ける空港なら尚更だ。
3交代制なので、夜勤もある。

前の勤務地もそうだったので、ある程度は慣れていたが
地方と都会では勝手が違う。

幼いころからの夢を叶えられた一方で、
もう一つの夢は、相変わらず置き去りのままだ。

そう、幼い時に同じ夢を見合った彼。
向く方角は違えど、同じ業界に入った彼と出会えないか。

期待したけれど、そう上手くはいかないらしい。
特に、今年のクリスマスは。

なんで、よりにもよって乗務訓練の日がクリスマスなんだろう。
しかも、地元の秋田と羽田の間を2日間かけて1往復。

とは言え、これも大事な仕事だ。
現役のパイロットさんと直接交流できる機会は限られる。
ましてや、パイロット目線からの管制を学べる貴重なチャンスでもある。

私は頭を仕事モードに切り替え、家路を急いだ。

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乗務訓練当日の朝、1本の電話が入る。

`もしもし、鈴木絢音さんのお電話でお間違いないでしょうか`

『はい、そうですが』

`私、全日空の森下と申します。いつもお世話になっております`

『お世話になっております』

`本日の乗務訓練について、1点お伝えしたいことがございまして、ご連絡いたしました`

『はい、何でしょうか?』

`本日から2日間、ご搭乗いただく予定の便の機材が、機材繰りの関係で急遽変更となりまして…`
`事前にお伝えしていた機長・副操縦士と異なることとなりましたので、事前にご連絡差し上げました`

『承知しました。わざわざご連絡ありがとうございます。』
『ちなみに、使用機材は何でしょうか?』

`ボーイング777-200となっております`

『ありがとうございます。』

なんで機材を聞いたのか、それは彼が操縦する可能性が出てきたからだ。
しかも、彼が操縦できる機材と同じだ。

完全な仕事モードの頭に、一縷の日差しが差し込んだ気がした。

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いつもの通勤経路で羽田空港に着くと、
いつもとは違うルートへ進む。

関係者用のエリアから第二ターミナルへ向かい
ANAのグランドスタッフさんにご挨拶した後、65番スポットに入る。

誰もいないボーディングブリッジを渡って、青と白のボーイング777に乗り込む。

どんな人なんだろう?
少し緊張しながら、私はコクピットの扉をノックした。

『失礼します』

コクピットの中に入ると、

優しそうな顔をした機長さんが出迎えてくれた。
副操縦士さんは、何か作業をしているのか、顔を伺うことができない。

"初めまして。機長の前田と申します。本日はよろしくお願いします。"

『乗務訓練に参加させて頂きます、鈴木絢音と申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします。』

ご挨拶をすると機長の前田さんが

"おい、手を止めてご挨拶しなさい。"

と副操縦士さんに声をかける。

「あ、すいません」

私を向いた副操縦士の人の顔には、見覚えがあった。

そう、ずっと会いたかった、彼だった。

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思わず、固まってしまった2人の様子を見て察した前田さんが

"ん、お知り合いですか?"

と声をかけてくれる。

『はい、学生時代の同級生なんです』

"おお!それは良かった!なぁ?"

と彼に声をかける。

すると彼は、ゆっくりと

「絢音、久しぶり。」

『うん。やっと会えたね。』

機長さんが、何かを察した顔でこちらを見てくるので
勘違いがあってはならない、と

『あ、あの。実は学生の時にお互いの夢を知っていて』
『それで、いつか君が操縦する飛行機に乗れたらいいね、できれば訓練で、って話をしてたんです』

"そうでしたか。じゃあ夢が叶ったわけだ。"

『そうなんです!だから嬉しくて!』

ニコニコと笑う彼。

「あ、そうだ、絢音。今はどこの所属なの?」

『羽田。最近はタワー中心かな。』

「そうなんだ。前は札幌コントロールだったけど、結構大変そうだったもんな」

『いやー。正直今の方が大変かな。エンルートはエンルートなりの大変さがあるけど、
羽田は発着本数が多すぎて他と比較にならないもん。』

「まぁ、確かにそうか…俺たちパイロットにはわからない世界だもんな…」

『そんなこと言ったら、私たちから見たらパイロットの世界もわからないよ…』
『どう考えても大変そうじゃん…』

「いやいや…」

そんなやり取りを繰り返していると

"あの、盛り上がってるとこ申し訳ないんだが、時間もあるんでな。チェックリストを始めてくれ"

「機長、すいません。」

『申し訳ありません。』

"ああ、いえ、お気になさらず。"

「Start Check list」

機体の状態などを細かくチェックしていく。

出発準備は順調に進み、
乗客が乗り終える直前ぐらいに

"じゃあ、デリバリーにクリアランスをもらってくれ。"

「はい」

'Tokyo Delivary,All Nippon 2145,to Akita,FL270,spot65.'
(東京デリバリー、こちら全日空2145便 秋田行、巡航予定高度27000フィート、65番スポット。)

'All Nippon 2145,cleared to Akita airport via ROVER TWO B DEPARTURE,
BRUCE TRANSITION,then flight planned route. maintain flight level 150,
expect flight level 270, squark 4646.read back.'
(全日空2145便、秋田空港への飛行を承認します。ROVER TWO B DEPARTURE、BRUCE TRANSITION
を経由、その後は飛行計画通り。離陸後15000フィートへ上昇後維持、その後27000フィートまで上昇。
識別信号は4646。復唱してください。)

'All Nippon 2145,cleared to Akita airport via ROVER TWO B DEPARTURE,
BRUCE TRANSITION,then flight planned route. maintain flight level 150,
expect flight level 270, squark 4646.'
(復唱のため省略)

'All Nippon 2145,Read back is correct. Contact ground 121.7 when ready.'
(全日空2145便、復唱は正確です。準備が出来次第、グランド管制 121.7にコンタクトしてください。)

'Contact ground 121.7 when ready.All Nippon 2145.'
(準備が出来次第、グランド管制 121.7にコンタクトします。全日空2145便。)

当たり前といえば当たり前だが、流暢かつ丁寧に話す彼。
私はノートにメモをすることも忘れて、彼の姿に見入ってしまった。

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'プッシュバックリクエスト。'

「はい」

'Tokyo Ground,All Nippon 2145,spot65.Request push back.Infomation India.'
(東京グランド、こちら全日空2145便、65番スポット。プッシュバックを要求します。インフォメーションは「I」を受領。)

'All Nippon 2145,Push back is approved.Runway 34R.'
(全日空2145便、滑走路34Rへのプッシュバックを許可します。)

'Push back is approved.Runway 34R,All Nippon 2145.'
(滑走路34Rへのプッシュバックを許可。全日空2145便。)

飛行機がゆっくりと押され、南を向く。

'Tokyo Ground,All Nippon 2145,Request taxi.'
(東京グランド、こちら全日空2145便。地上滑走を要求します。)

'All Nippon 2145,Taxi to E-5,C-TWY,Hold short of C-1.'
(全日空2145便、E-5、C誘導路を経由し、C-1手前で待機してください。)

'Taxi to E-5,C-TWY,Hold short of C-1,All Nippon 2145.'
(E-5、C誘導路を経由し、C-1手前で待機、全日空2145便。)

滑走路に向けてゆっくりと動き出す。
ただ、時間帯的に混雑は避けられないと思う。
操縦席から見ると、何機もの飛行機が誘導路に連なっているように見える。

'All Nippon 2145,Contact tower 124.35.'
(全日空2145便、タワー管制 124.35にコンタクトしてください。)

'Contact tower 124.35.All Nippon 2145.'
(タワー管制 124.35にコンタクトします。全日空2145便。)

'Tokyo Tower,All Nippon 2145,on C-TWY.'
(東京タワー、こちら全日空2145便。C誘導路を走行中。)

'All Nippon 2145,You are No.5.Hold short of E-2.'
(全日空2145便、あなたの離陸順は5番目です。E-2手前で待機してください。)

離陸順は5番目と、間に入るであろう着陸機を考慮すれば、遅延は避けられない。
混雑する時間帯ならではのあるあるかもしれない。

飛行機に乗っている立場からすればイライラするかもしれないが、
管制する立場になって、操縦席から見て改めて思った。
1機1機の安全を守るために、私たち管制官がいるのだと。

'All Nippon 2145,Hold short of Runway 34R.'
(全日空2145便、滑走路34R手前で待機してください。)

'All Nippon 2145,Runway 34R,Line up and Wait.'
(全日空2145便、滑走路34Rに進入して待機してください。)

何機もの発着を見送って、ようやく順番が回ってきた。

'All Nippon 2145,inbound 6miles on final.Wind 350 at 8,Cleared for take-off,Runway 34R.'
(全日空2145便、着陸機が滑走路端から6マイルの位置にいます。
風は350度の方角から8ノット。滑走路34Rからの離陸を許可します。)

'Cleared for take-off,Runway 34R.All Nippon 2145.'
(滑走路34Rからの離陸を許可、全日空2145便。)

エンジンが急激に動き出し、回転を上げていく。
飛行機が加速し、わずかに座席に押し付けられる。

「80」

"check"

「V1」

「Rotate」
機体が浮き上がる。

「V2」

"ギアアップ"

「ギアアップ」

普段は管制塔から見ている景色も、
内側から見ると新鮮だ。

'All Nippon 2145,Contact departure 120.8.'
(全日空2145便、ディパーチャー管制120.8にコンタクトしてください。)

'120.8.All Nippon 2145.'
(120.8にコンタクトします。全日空2145便。)

'Tokyo departure,All Nippon 2145.Leaving 2000 for FL150'
(東京ディパーチャー、こちら全日空2145便。2000ftを通過、15000ftまで上昇中。)

'All Nippon 2145,Tokyo departure Rader contact.Climb via SID to FL150.'
(全日空2145便、こちら東京ディパーチャー。レーダーで捉えました。制限に従い15000ftまで上昇してください。)

'Climb via SID to FL150,All Nippon 2145.'
(制限に従い15000ftまで上昇します。全日空2145便。)

"結局20分遅れか"

「そうですね。上の風は比較的穏やかですし、少しでも巻けるといいんですが」

"まぁ出発時間が時間だけに、これは想定内だしな。少しエンルートで速度を稼げないか交渉してみよう"

「はい」

私が札幌コントロールにいた頃、パイロットから高度や速度の上昇・減速のリクエストは多々あった。
もちろん、頭では理解していたけれど、
操縦や機内の状況など常に色々なことに対応しながら、時間通りに飛行させるのは
生半可なことではない。

改めて、パイロットの凄さを理解した瞬間だった。
そして、その中に彼もいるということの凄さも実感していた。

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幸い、上空の風は穏やかで、速度上昇のリクエストも承認され、
コントロールの管轄も、東京から札幌へと移り、

約10分ほど遅延を取り戻して、秋田空港近くまで進んできた。

'All Nippon 2145,Direct KENDI.Contact Akita Tower 118.6.'
(全日空2145便、KENDIに直行し、秋田タワー管制118.6にコンタクトしてください。)

'Direct KENDI.Contact Akita Tower 118.6,All Nippon 2145.'
(KENDIに直行し、秋田タワー管制118.6にコンタクトします。全日空2145便。)

'Akita tower,All Nippon 2145.Direct KENDI.with you.'
(秋田タワー、こちら全日空2145便。KENDIに直行中。あなたの管制下に入りました。)

'All Nippon 2145,Akita tower rader contact.'
(全日空2145便、こちら秋田タワー。レーダーで捉えました。)

"あ、ウインドチェックしてもらえないか?"

「はい」

'Request Wind Runway 28,All Nippon 2145.'
(滑走路28の風の状態をリクエストします。全日空2145便。)

'Wind 350 at 31.'

'Thank you'

"まずいな…"

「ですね…」

私でも事態は一瞬で理解できた。横風が強すぎる。
しかも制限値ギリギリだ。

「どうします機長…どこかでホールドするか、進んでダメならゴーアラしますか?」

"そうだな…"

私はふと、あることを思い出した。

『あの。カンパニーさんにお伝えして、ACARSで気象データを送っていただけませんでしょうか?』

"え?"

『私の方で、情報を分析してみます。もしかしたら、降りられるタイミングがわかるかもしれません。』

"いや、お手伝いいただく訳には…"

「機長、ここはおまかせしましょう。」

"うーん…ではお願いします。ACARSに打ち込んで"

「はい」

しばらくして、データが送られてきた。

私は、彼から感熱紙を受け取り、書かれたデータをノートにメモする。

私が出した結論は、

『もう少ししたら、降りられると思います。』

"本当ですか?"

『3時間ほど前から、周期的に西風に変わる瞬間があります。』
『あと15分もすれば、西風に変わるはずです。』

"今がKENDIの南、10マイルだから、少し速度を落とせばいけるな。"
"減速をリクエストしよう"

「はい」

正直、この私の読みは当たるかどうか微妙だった。

でも、その賭けにのってくれた2人を、尊重するべきだ。

私の読みは、

'All Nippon 2145,Wind 110 at 11,Runway 28,Cleared to land.'
(全日空2145便、風は110度の方角から11ノット。滑走路28への着陸を許可します。)

'Runway 28,Cleared to land.All Nippon 2145.'
(滑走路28へ着陸します。全日空2145便。)

的中した。

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絢音と会えた日の夜、俺たちは居酒屋に来ていた。

『お酒飲めないのに、こんなところ来て良かったの?』

「いいのいいの、せっかく絢音と会えたんだし。」

学生時代の昔話に花を咲かせる。

「いやー。でも今日は本当に助かった。あの読みは凄いよ」

『ううん、あれはたまたま。』

「たまたまな訳あるか!普段勉強してる成果だよ」

「えー…」

返事に困ってしまったのか、絢音は梅酒ソーダをゆっくりと飲み干した。

お酒の所為か、絢音の顔がいつもより赤みがかっている気がした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日は、まさに順調といえるフライトだった。

そう、途中までは。

異変があったのは、到着まで20分くらいのところだった。

ピーピーピー

音とともに警告ランプが点灯する。

「左側のエンジンが止まりました」

"了解。スコーク77。エンジン故障のチェックリストを。"

「スコーク77。Engine failure checklist」

その時だった。

ピーピーピー

「右側も停止しました!」

"わかった、落ち着け。チェックリスト続けて。"

「はい、燃料供給スイッチオフ、続けてオン」

反応がない。

「管制に連絡します」

'Mayday,Mayday,Mayday.All Nippon 2145.We have thrust of both engines.'
(緊急事態発生。全日空2145便。両エンジンの推力を失いました。)

'All Nippon 2145,Mayday copied.Fly heading 190.'
(全日空2145便、了解しました。方位190度へ旋回してください。)

'Fly heading 190.All Nippon 2145.'
(方位190度へ旋回、全日空2145便。)

「チェックリスト続けます。発電機スイッチ、オン」

しばらくすると、

「左側エンジン、回転数上がってきました!」

思わず、安堵の息を漏らす彼。

"おい、息ついてる暇ないぞ。管制に連絡"

「はい」

'Tokyo Control、日本語で申し上げます。1番エンジン再起動しました。All Nippon 2145.'

'了解しました。お時間のある時に搭乗人数と残存燃料をin timeでお願いします'

'搭乗人数は216人、残存燃料は22分'

'216 and 22.ありがとうございます。'

冷静に対処している機長の前田さんに対して、
一生懸命、目の前の事態に応じている彼。

その手は、わずかながら震えていた。

それを見た機長の前田さんが

"絶対に大丈夫だと思えばいい。願った人間に、幸運は訪れるから。"

「はい」

彼は目の前をしっかり、見つめるようになった。

幸い、片側のエンジンが復活したおかげで、
私たちは、無事、羽田空港に着陸することができた。

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後日、俺たちは霞ヶ関まで呼び出されることになった。

重大インシデント扱いとなった、この前のことの事情聴取だ。

その帰り道。

「絢音、この前は本当にありがとな。お前がいなかったら、きっと俺、パニックになってたと思う。」
『ううん、普段君が訓練したり、努力してたからだよ。』

「いや、そんなことない。」
「あの時、前田さんが言ってただろ。"絶対に大丈夫だと思えばいい。願った人間に、幸運は訪れるから。"って」
「きっとあの時、前田さんはエンジンは絶対に復活するから大丈夫、って意味で言ってくれたと思うんだけど」
「俺は、別の意味でもとらえてたんだ。」

「絢音、お前のことが、ずっと好きだった。」
「いつか、パイロットになる。その夢が叶ったら告白しようと思ってた。」
「でも、絢音も航空管制官という夢を叶えて、お互い中々会えなかったから…」

「でも、今回のことは神様が与えてくれたチャンスだと思ったんだ。」
「もし良かったら、付き合ってくれませんか。お願いします。」

頭を下げ、右手を差し出す。

次の瞬間、俺の目に写ったのは、
涙目になりながら、俺の右手を握る絢音の姿だった。

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