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【小説】酒娘 第壱幕#006

第陸話 アマツカミ

神国日本。神々が創り賜うた神聖なる大地。
大地を、海を、自然を、生物を、そして人間を創造した神々は、彼等を慈しみ、愛し、見守ってきた。
それは無始昿劫、未来永劫普遍の定理、変わる事の無いこの世の摂理。

そして人間は、神々の恵みに感謝し、畏れ、敬い、奉り、酒娘達が醸す奉酒を捧げる事でその感謝を意を伝えていた。

今、その均衡が崩れようとしていた。


「姉さん!!久しぶりだにゃん!」

ひょっこりと現れたのは少年の様な風貌の猫耳バンドを被った子供、彼は姉さんと呼んだ人物に抱きついた。

「あぁツクヨミ、我が最愛の妹。会いたかったわ。少し身長が伸びて?あら、その頭とお尻につけている可愛らしいのは何かしら?」

「おっ!さすが姉さんお目が高い!これは最近のボクのお気に入り、猫耳バンド。そしてこれが尻尾だにゃん。」

そう言って猫コスプレを見せびらかす様にツクヨミはくるりっとその場で回転してみせた。
そして再び姉に勢い良く抱きつくと、たおやかな胸に顔を埋めながら、

「ふぁぁ…姉さんは何時もいい匂いだにゃん。んん?姉さんは何か…神々しさが増したんじゃにゃい?」

「ツクヨミ、それを言って許されるのはあなたが私の妹だからよ?他の女神には決して言ってはダメ。特にアラハバキには。彼女を怒らせたら世界が凍てつくわ。」

アマテラスが優しい笑みを称えたまま、諭すように、しかし何か絶対的な威風が漂う口調で言った。
その様子にツクヨミは急いで姉から距離を取るとペロッと舌を出し、ゴメンゴメンとおどけてみせた。
そしてこの話を続けるときっと10年位はお説教タイムになりそうな迫力を感じ、背中にヒヤリと汗を感じながら、しかしつとめて冷静を装って話題を変えた。

「ところで姉さん、ボクを呼び出すなんて一体何の用にゃ?」

「あぁ、そうね。久しぶりの姉妹の再開を喜んでいる暇はあまりないみたい。」

アマテラスはそこでふーっと一息つき、言葉を飲み込んだ。
溜息、と言っても良いだろうか。
そして…

「スサノオが復活したわ。」

「えっ?兄さんが?」

ツクヨミは黄金色に輝く瞳をキラキラさせ、激しく尻尾を動かした。

「うわぁ、3人揃うなんて何年振り?ボク、最近身体なまってたからさ、スサノオ兄さんにまた稽古つけてもらえるかにゃ?」

浮かれて喜ぶツクヨミを尻目にアマテラスは笑みを湛えた表情さえ変えないものの、ツクヨミの反応を制するように続けた。

「素直に喜べない節があるの。」

そして、自らの思念を壁一面に投影した。
それはアマテラスの能力の1つ、未来予想図。
彼女は近い将来の事象を見通すことができ、この能力で今までも神国日本の脅威を陰ながら取り除いてきた。
もっとも、実際には全国にいる八百万の神々に命じて応対させているのだが。

アマテラスが映し出した映像にツクヨミは真剣な眼差しで見入っていた。

地震、津波、大水害、火山の噴火など天変地異が神国日本中を襲う様子。逃げ遅れた子供達が泣き叫ぶ姿、自然の驚異に命を落とす人間達。阿鼻叫喚の地獄絵図。
そしてその中心に1人の男が神力を解き放つ様子…
映像からでは特定し難かったが、ツクヨミはすぐにそれが兄だと気が付いた。

「まさか…スサノオ兄さんが、これを?」

アマテラスはゆっくりと頷き、しかし困惑の表情を浮かべながら、

「確かにあの子には凶暴な一面があるのは私も知っているけれど…私達が創造し、見守り育んできた大地を壊すなんて考えられない。」

「もしかして…呪詛かにゃにかで目覚めちゃった感じかにゃ?でも、ミチザネもストクもマサカドも最近は大人しくしてるってセイメイが言ってたにゃ。」

セイメイはツクヨミが使役する忠実な陰陽師で、祟り神の様子を随時モニタリングしている。彼女が神事をサボって遊び歩けるのも、優秀な部下のお陰なのである。
アマテラスはそこでまたふーっと大きな息をついた。

「そう、セイメイも何も掴めていないのね…」
セイメイの優秀ぶりはアマテラスも一目置く所があったので、淡い期待をしていたのだが…

(最悪のケースも想定しなくてはならないわね…)

姉の心配を他所に、猫耳の妹の嗅覚は久しぶりの冒険の匂いを感じていた。

「姉さん、ここはボクの出番かにゃ?」

ツクヨミは昂る気持ちを悟られないよう、冷静に上目遣いでアマテラスを見た。
が、抑えられない感情は激しく動く尻尾が物語っていた。
アマテラスは非常に心配になったが、スサノオを止められるとしたらツクヨミしかいないだろう、という事も事実だった。

「ツクヨミ、遊びに行く訳じゃないのよ?神国日本の危機なの。貴女も先程みたでしょう?」

「わ、分かってるにゃ!!このボクにお任せあれにゃのだ!!グフフッ…」

(やはりこの子一人では不安だわ…ミイラ取りがミイラになったら、神国日本は滅んでしまう…)
アマテラスが抱えていた一抹の不安、それはツクヨミが余りにも自由奔放で短慮、本能的に行動してしまうところだった。

(そこが可愛らしいところだけど。
まったく父上も母上も甘やかし過ぎなのよ…)

と、傍から見れば重度のシスコンであるアマテラスは、腹心の部下を同行させる決断をした。


「アメノウズメ、これへ。」

アマテラスがそう言うや否や、華麗に宙を舞いながらツクヨミの後ろにヒラリと少女が舞い降りた。そして、恭しくアマテラスの前に跪いて平伏した。

「アメノウズメ、御前に…」

「ここにいる我が妹、ツクヨミと共に我が弟スサノオ復活の経緯を探って参れ。何としてでも弟の暴挙を止めるのです。」


こうして二人の天津神アマツカミは酒娘を依代にすべく現代の神国日本に舞い降りた。

ー場所は神国日本奉酒グランプリの会場

彼女達の受け皿となる酒娘が集結していた。

続く


第6話完走です‼️

神々の名前は沢山出てきましたが
登場した新キャラは

天照大御神(アマテラス)
月読命(ツクヨミ)
天鈿女命(アメノウズメ)

の3人です✨

表紙はアメノウズメが還俗し、酒娘となった
『鈿女』ちゃんです❣️

いよいよ酒娘達が神々と対峙していきます。
次回もお楽しみに🍶

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