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【小説】酒娘 第壱幕#007

第柒話 トラブルメーカー

ツクヨミは先程からスマホの画面を凝視しながら何やら不気味に呟いている。

「ニュフフッ。なになに?チーズハットクとな?うわぁこれは!!このスイーツも美味しそうだにゃ!」

下界に向かう天馬の馬車の中で、ツクヨミとアメノウズメはスサノオの情報を調べていた訳だが…ツクヨミは完全に浮かれていた。

「ツクヨミ様、お兄様が向かいそうな場所は見つかりましたか?」

「ん?あぁ、ウズメよ、このモンブランを見るにゃ。これは絶対外せないやつだにゃ!」

「モンブラン…ですか?お兄様はモンブランがお好きなのですか?」

「ん?何を言ってるんだにゃ、兄さんは甘い物は食べないにゃ!うぅー、これは限定なのかぁ…並んででも食べにゃければ!」

「はぁ…?」

「ウズメよ!決めたにゃん!!最初はここに行くにゃー!!」

「仰せのままに…」

アメノウズメは元来生真面目な性格で忠実
寡黙で大人しいタイプである。
そのため自分の主人であるアマテラスが絶大な信頼を置いているだけでなく、他の神々にも認められていた。
だからこそ、アマテラスは自分の妹にこの優秀な部下をつけた訳だが…

先程からスマホでグルメスポットを調べ目をキラキラさせている猫、いやツクヨミに完全に主導権を握られてしまっていた。

「ツクヨミ様、アメノウズメ様。間もなく下界、神国日本武道館に到着いたします。」

従者の呼びかけにアメノウズメは頷きスマホに釘付けのツクヨミを見ながら

(私がしっかりせねば…まずは猫…いやもといツクヨミ様のお腹を満たして落ち着いていただこう。)

「ツクヨミ様、そろそろ下界に到着しますのでまずは何か召し上がりま…」

「うわぁぁぁ!!!」

天馬が驚き馬車が転倒しかける程のボリュームで、突然ツクヨミが奇声を上げた。

「どうかされましたか!?」

「この団子は…ジュルル。ウズメよ、まずは何か食べると言ったにゃ?では、この月見スペシャル団子にしようではにゃいか!」

(ちっ、そういう所はちゃっかり聞こえているではないか。)

ふつふつと湧いてくる苛立ちをゆっくりと深呼吸する事で抑えつける事に成功したアメノウズメは、すぐに冷静さを取り戻したが、この先の事を想像すると少々不安が芽生え始めていた。


ー神国奉酒連合、取調室ー

男は、目の前に座り毅然とした態度を崩さず睨みつける様に真っ直ぐとこちらを見ている少女に焦りと苛立ちを感じていた。

(あの方からは決して手荒な真似はするなと言われてはいるが…ここまで強情では埒があかんな…)

そしてつい口を滑らせる結果となった。

「取り調べて調査をするだけだと言っているだろう。レシピさえ出せば君は釈放されるのだぞ?」

男がはっとするのとほぼ時を同じくして
目を一段と大きくさせた少女ー

囚われの十四代は、何故今自分が取り調べと称してこの場で拘束されているのか理解した。

「そういう事、私のレシピが狙いだったのね!」

十四代は一段と激しい視線で目の前の男を睨みつけた。

「いや、その、あれだ。被疑者である君の持ち物はレシピも含めて全て調査させてもらう。そういう意味だ。」

十四代は明らかに狼狽した様子を見せながら何とか威厳を保とうとしている目の前の男に、冷ややかな視線を浴びせながら続けた。

「ふん、江戸小町ちゃんも堕ちたものね。盗作までして…チャンピオンの座に何としてもしがみつきたいって訳?反吐が出るわ!」

その言葉に反応するかのように、男が急に立ち上がり机をドンッと殴りつけた。

「貴様!!今何と言った?
江戸小町ちゃんはそんな事する子では無い!!」

そして最早完全に冷静さを失った男は顔を真っ赤にしながら十四代の胸ぐらを掴み持ち上げた。

「ぐっ!何するん…ぐ、ぐるし…い…!」

男に首を絞められ宙吊り状態になった十四代は必死に足をばたつかせるが、徐々に抵抗する力が弱くなっていった。

「江戸小町ちゃんを侮辱したな小娘が!!あのお方に手荒な事はするなと言われたから大人しくしていたが調子に乗りやがって!!」

十四代は意識が遠のき視界がぼんやりして暗くなっていくのを感じ、男の声も段々と遠くに聞こえ

(あぁ、私死んじゃうのかな…)

そう思った時、取調室のドアが開いて誰かが入って来た様子だった。

「半蔵、すぐに手を離せ。手荒な事はするなと言った筈だが?」

男の声にハッと我に返った男が十四代からパッと手を離した。そして地面に落下する前に誰かに抱き抱えられたようだった。
だった、と言ったのはそこで十四代の意識が途絶えたからである。


「ぐっ!ゲホッ!!ゲホッ!!フーッ…」

首に激しい痛みを感じて十四代は医務室のベッドの上で目を覚ました。

「目が覚めたか。十四代ちゃん、すまなかったね。もう大丈夫だ。」

十四代はその声に聞き覚えがあった。
いや、忘れる筈がない声。
その声に救われ、導かれた記憶。
時にはまるで親のように叱ってくれた…

「せ…先生?蘆名あしな先生?」

「そうだよ、十四代ちゃん。久しぶりだね。苦しくないかい?」

そう言って蘆名は優しく十四代に手を差し伸べた。
尊敬する恩師、蘆名との再開に嬉しさが込み上げた十四代だったが、すぐに先程の記憶を取り戻し、蘆名の手を払い除けた。

「先生…!一体どういう事か説明してください!どうして?どうして先生がここに?」

おどけた顔で両手を広げた初老の男、サケ娘育成学校校長の蘆名は、そうだったねと言いながら続けた。

「まずは君に危害を加えた事謝罪しなければならない。本当にすまなかった。」

蘆名は深く頭を下げ、隣にいた男、先程十四代の首を締め付けた男の頭を掴み無理矢理下げさせた。

「実は彼は江戸小町ちゃんの兄なんだ。妹を悪く言われてついカッとなってしまったらしい。半蔵、君も謝りなさい。」

半蔵は不承不承という感じでゆっくり頭を下げた。衝撃的な事実を突きつけられ、言葉を失った十四代に対して、蘆名は優しい声で続ける。

「十四代ちゃん、君のレシピが必要なんだ。必要なのは江戸小町ちゃんでは無い。この私だ。渡してくれるかい?」

「ど、どうして先生が…ううん、これは例え先生の頼みでも…渡す事は出来ません!!」

何とか冷静さを保ちながら、ギリギリのところで十四代は蘆名と対峙していた。
その様子に、仕方ないといった雰囲気で、そして今まで十四代が見た事の無いギョロっとした恐ろしい目つきで、蘆名はこう切り出した。

「稲田姫ちゃんの命がかかってもかい?」

続く


第柒話、完走しました!

いよいよ、猫…では無くツクヨミが
下界に降り立ちます!
が、これからも色々と問題を起こして
ウズメ達を悩ませて行く事に…😅

そんな自由奔放なキャラを
登場させたかったので、
理想的な絵を作成頂いた
りっちゃんには改めて御礼申し上げます🙇🏻‍♂️

さて、久々登場十四代ちゃん
彼女の運命はどうなっていくのか⁉️

次回もお楽しみに❣️

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