見出し画像

【小説】酒娘 第壱幕 #001

第壱話  終わりの始まり


「今年の全神国日本奉酒グランプリ金賞は…
お見事三連覇達成!!江戸小町ちゃんっ!!」

司会の男が芝居がかった身振りのオーバーリアクションでそう叫ぶと、5万人の観衆から割れんばかりの歓声と賞賛の声がアリーナ中に響き渡った。


「全くどいつもこいつも…やってらんないわ!」
透き通るような白い頬を真っ赤に染めながら吸い込まれそうな大きな茶色の瞳をうるませ、絶世の少女は吐き捨てるように呟くと控え室のソファに倒れ込むように身を投げた。

「いつまでこの茶番に付き合わされるのかしら?審査員のアイツら、いったい幾ら包まれたの?アンフェアにも程がある!!」

氷が溶けかけたアイスティーを一気に飲み干し、今日のために新調した黄色が鮮やかなリボンで2つに結った髪を解きながら十四代は深い溜息をつく。

「ちょっと十四代ちゃん、声が大きいぞ。誰が聞いてるか分からないぜ?」

憤慨する美少女を宥める長身の男、彼の名は五百万石という。洗練された顔つき、切れ長の目、ウェーブがかった前髪を掻き分けながら落ち着かない様子で周囲の様子を伺う。

「ちょっと五百万石!あの茶番が許せるわけ?私たちがどれだけ頑張っても連合のヤツらは自分達の利益になる事しか考えていないじゃない!」

「おっとそれ以上はは言うなよ?お前の気持ちは分かるが俺だってその連合の1人なんだからな」

「ふん!何さ!結局連合にビビって何にも出来ない臆病なコメ男子のクセに!!」

十四代が空になったグラスを五百万石に向かって投げつけようとしたその時、けたたましく控え室のドアがノックされた。

「お取込み中悪いんだけど、少しよろしいかしら?」

そう言って数人の黒服の男共を引連れ、部屋の主の許可を得るつもりは全く無いのであろう不敵な笑みを携えながら、洋靴(ヒール)の音をコツコツと鳴らして十四代に近寄る1人の少女。
全神国日本奉酒グランプリ三連覇中のサケ娘、江戸小町その人である。
育ちの良い上品な雰囲気とどこか怪しげな妖艶さを身に纏い、真っ赤なルージュを引いた口元には余裕すら感じさせる。
その雰囲気に圧倒され、五百万石は十四代を庇うように後ずさった。

「十四代、今日はあなたに大事な話があって来たの。」

「私はあなたと話す事なんてないわ!」
十四代はそう言うと、頬を膨らませぷいと横を向いた。

「ふふ、だいぶご立腹のようね?表彰式まで余り時間が無いから手短に言うわ」
そしてスっと細い手を上げ黒服達に何やら合図を送る江戸小町。
その刹那、黒服達は素早い身のこなしで十四代と五百万石を拘束した。

「ちょっと!どういうつもり?」

十四代が必死の抵抗をしながら叫ぶが、黒服達の力に適う筈も無く両サイドから腕を掴まれた状態で足をばたつかせている様子を、軽蔑の眼差しで見つめながら江戸小町が口を開く。

「あなたに不正の疑惑があるの。そしてそこのコメ男子にも。大人しく取調べを受けなさい。」
そう言い放って部屋を出ていこうとする江戸小町の背中に向かって十四代が激しく睨みつけながら
「私に不正?何を馬鹿な事を言っているの?むしろ真っ黒なのはあなたの方じゃない!!」

この言葉を聞いた江戸小町が歩みを止め振り返った。およそ人間のものとはかけ離れた残虐で冷酷な表情で十四代を睨み返す。

「私を侮辱したわね?まぁ良いわ。そう言っていられるのも今のうちだけ。もうあなたは二度と神酒グランプリに出場する事は出来ないの。この意味、分かるかしら?あなたの足りない頭では理解出来ないかもしれなくて?」

江戸小町はそう言うとキッと踵を返し颯爽と部屋から出て行った。
江戸小町の捨て台詞を聞き呆然とした表情に変わった十四代は、同じく拘束されて身動きが取れなくなっている五百万石の顔をゆっくりと見た。

「いったい、どういうこと?私、もう二度と神酒グランプリに出れないって」

五百万石は先程まで熟した桃のような頬をしていた筈の蒼白になった少女を見つめながら必死に今日までの出来事に思考を巡らせていた。

(なぜ江戸小町はこのタイミングでこのような愚かな行動をするんだ?まさか…)

五百万石の思考を遮るように黒服の男達が無気力になった十四代を連行していく。

(冷静に考えるんだ。とにかく今は誰が信用出来るか分からないが、菊水先輩と何とか連絡を取る方法を考えよう)

こうして全神国日本奉酒グランプリの最中、
1人のサケ娘と1人のコメ男子は連合直下の諮問委員会によって取調べを受けるために秘密裏に連行され、アリーナを後にする事となる。

今思えば、これが終末に向けた序曲の開演だった事は、誰も知る由も無かった。

続く


酒娘 第壱話
完走しました!

この物語は、X(旧Twitter)で日本酒好きとして仲良くなったAI絵師のりっちゃんと日本酒の銘柄を娘化したら面白くない?
という話になり作成して貰った事が発端で始まった、#勝手に日本酒娘化プロジェクト の物語です。
実在する日本酒の銘柄と酒造好適米を擬人化しておりますが、実際の団体、製品とは全く関係ありません。
また、第1話で登場した江戸小町ちゃんは完全に空想の銘柄である事ご了承ください。

このペースだとかなりの長編になりそう💦
楽しんで頂けたら幸いです✨
また、感想もいただけると励みになります🙇🏻‍♂️

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?