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【小説】酒娘 第壱幕#015

第拾伍話 晴明と頼光

晴明殿せいめいでん
京の都ほぼ中央に位置し、守護者として都の安寧と均衡を保って来たセイメイの居。
今は都各地の神々と宮司、セイメイが使役する式神が集結し、都を脅かす謎の勢力に対する会議が行われていた。

セイメイは焦っていた。
京の都に放っている彼の式神からの応答が次々と途絶えていたからだ。

「セイメイ様、通信も通話も一切ダメです!各所にあるカメラモニターも映りません!」

(いったい何が起こっているのだ…ストクは何とか抑え込んだが明らかに様子がおかしい。この様に電波障害を起こさせる程の妖力を持つのは上級神の中でも限られている。月読命ツクヨミ様とも一切連絡が取れなくなってしまった…)

「セイメイ様!英勲えいくんちゃんが戻りました!!」

その声にセイメイが振り返ると傷を負い満身創痍の少女が苦しそうな表情と重い足取りでセイメイの元へ近づいた。

「セ、セイメイ様…」

「英勲ちゃん!どうしたその傷は!いったい何があった?」

「グッ…謀叛にございます。宇治よりハシヒメが魑魅魍魎の軍勢を率いて伏見に襲来。その数およそ…5万。何度かセイメイ様への通信を試みましたが、どういう訳か通じず…現在スザク様と共に防戦しておりますが当軍劣勢のため、スザク様の命で援軍の要請に参じた次第です…」

「何と!ハシヒメごときが5万だと?その様な妖力は彼奴あやつに無いはず…!」

「はい、我等も始めは合点がいかず…しかし物見に行ったキントキ様が気になる事を申しておりました。宇治の街はもぬけの殻だった…と。
兎に角、話の通じる相手ではございません。万一伏見が落ちる事あらばこの京が危うくなります!直ちに援軍をお遣わし下さい!!
…うぅっ…」

そこまで言い放つとふっと意識が飛ぶように英勲ちゃんはその場に倒れ込んだ。

「英勲ちゃん!!早く医者を呼べ!!」


英勲ちゃんが医務室へ運ばれて行った後もしばらくの間、清明殿に集まった宮司、式神らは動揺し騒然としていた。
深く考え込んでいたセイメイだったが、グッと顔を上げて虚空を睨みつけた。

「皆の者静まれい!緊急事態である!ライコウ殿、貴殿に頼みがあり申す。直ちに3000の男神及び式神を引連れ伏見の援軍に向かわれたし!」

「セイメイ、お主ならワシを指名すると思っていたぞ!ゲンジの力、怨霊共に見せてくれるわ!」

身長2mはあろうかという大男、ライコウは古より京の守護者であり、セイメイが最も信頼を寄せる軍神である。セイメイが陰であるならばライコウが陽。知と力。相反する二人は何故か昔から気が合った。
屈強な男神達を引連れ出ていこうとするライコウに、1人の少女が声を掛けた。伏見サケ娘衆を束ねる玉乃光たまのひかりちゃんその人である。

「お待ちくださいライコウ様。私達もどうか一緒に連れて行って下さいませぬか?」

「玉乃光ちゃんよ、伏見はお主の実家であったな。気持ちは分かるが戦に女は足でまといだ。スマンが連れては行けぬ。」

「お言葉ですがライコウ様、我等には悪霊を退散させる神酒と神々に賜うた特殊能力があります。魑魅魍魎相手の戦、必ずやお役に立てるかと。」

玉乃光はそう言ってセイメイに向き直った。

「セイメイ様、我等伏見サケ娘衆にもどうかお下知を!」

セイメイはしばらく困惑の表情を見せたが、ライコウと視線を交わした。
ライコウが軽く頷きながら両手を広げたのを見て言った。

「あいわかった。伏見サケ娘衆の同行を許可する!」


ライコウ、伏見サケ娘衆一行を見送ったセイメイは次なる指示を矢継ぎ早に出していく。
未知なるものとの戦い。セイメイは徐々に湧き出す気持ちの昂りを感じていた。

(こんな感情、人間であった時以来であるな。関白様、ライコウ殿と鬼退治に行った時を思い出すなど…私にもまだこんな感情が残っていたとは…ライコウ殿、お互い無事であったなら1000年振りに酒でも酌み交わそうではないか。)

そしてセイメイは宮司達を従え長い祈祷を始めた。


清明殿を出立したライコウ一行は十条通から既に鴨川を渡り伏見目前であった。

笑みを浮かべながら爆進するライコウに背負われていた玉乃光。

「ライコウ様、これから戦だというのに何故そんなに楽しそうなのですか?」

「ハッハッハ!ついニヤけてしまっておった!いやぁ、あのセイメイの清々しい表情よ。我等がとうの昔、人間だった頃を思い出してな。やつは肉体が朽ち果てたのちも神となり長きの間この京を守護してきた。そのせいか人の情が欠落してしまっていたのだ。ワシはヤツの死んだ魚の様な目を見るのが辛かった。それが見たかあの光の戻った目を。いやぁ愉快愉快。」

「ライコウ様はセイメイ様とお親しいのですか?」

「親しいも何も大親友だ。関白様のもと、日々帝をお支えするために命懸けで働き、夜は宮中の女子との恋沙汰を肴に酒を酌み交わしていたものだ。鬼退治にも行ったぞ。」

「鬼退治…!そんな過去がおありだったのですね。フフフッ。何だか緊張が解けました。」

「それは何よりだ。無事に戻り久しぶりにヤツと酒を酌み交わしたいものだ。」

「素敵なお話。その時は是非私の醸したお酒を差し入れさせていただきますね。」

「それは重畳なり!よし、玉乃光ちゃんに鬼退治の話付き合って貰うとするか。」

「はい!是非!…その前に…見えて来ましたね。ここまでどす黒い感情が伝わってきます…!」

「玉乃光ちゃん、しっかり捕まっていろ。飛ぶぞ!!」

そう言ってライコウは地面を蹴り上げ上空へ飛び上がった。残りの男神達もそれに続き、伏見サケ娘衆を乗せた式神と上空で合流した。

「スザク様を見つけました!!」

先方にいた式神が魑魅魍魎に囲まれ呑み込まれる寸前のスザクを見つけ叫ぶ。

「よし!者共遠慮はするなよ?とことん暴れようぞ!!」

続く


長らくお休みしていましたが
「京都編」で再開しました🙌

このシリーズにリアリティ感を出す為
京都に行こうと決めてから1ヶ月以上
ようやく先週京都で実際に
晴明神社や伏見稲荷などを巡り
想像を膨らませて来ました

今回の登場のサケ娘は
英勲ちゃんと玉乃光ちゃん
それと伏見サケ娘衆

今後続々登場予定⬇️

セイメイが使役する陰陽道四神
北面の守護者「玄武神」に仕える
伊根満開いねまんかいちゃん
京都のベネチアと呼ばれる伊根町のお酒です
東方の守護者「青龍神」に仕える
神蔵かぐらちゃん
鴨川の東にある松井酒造が醸す銘酒です
南面の守護者「朱雀神」に仕える
英勲ちゃん
今回伝令として決死の役目を果たしました
西方の守護者「白虎神」に仕える
脱兎だっとちゃん
北山エリアを代表する羽田酒造の銘柄です

そして伏見は京都の南に位置し
酒蔵が集結する酒造りのメッカです

伏見サケ娘衆を束ねるのは
玉乃光ちゃん
その他の娘達も登場させたいなぁと
思っていますのでお楽しみに✨

さて、表紙はセイメイです
日本一有名な陰陽師
「安倍晴明」がモデルです
晴明と言えばこの人

映画「陰陽師より」


野村萬斎さんがかっこいいですね😆
大河ドラマ「光る君へ」では
ユースケ・サンタマリアさんが
不気味な呪術師の様に演じておられます
実際は道長よりも30歳以上年上なので
道長からすると信頼は出来るが
得体の知れない爺だったのかもしれません

平安の昔より都を守護してきたセイメイ
本小説では月読命の部下という設定です

そしてもう一人、ライコウ
こちらは「源頼光みなもとのよりみつ」がモデルです

大河ドラマ「光る君へ」で
主人公まひろとの関係が気になる
「藤原道長」が関白になると
殿上人となったほど
道長と関係が深かった人物です

晴明の命令で「酒呑童子」の退治をした人物
としても有名ですが
何よりこの方
武士の元祖とも言われています

本小説では関白道長の元で
晴明と頼光が親友であったとしました

セイメイがライコウを殿付けで呼び
ライコウがセイメイを呼び捨てにする事に
違和感を持たれる
歴史好きの方がいるかもしれません
年齢はセイメイの方がずっと上ですが
位階はライコウが上ですし
「知」と「武」のイメージも付けたかったので
この設定にしています🙇🏻‍♂️

実際はどうだったかは分かりませんが
「光る君へ」でもどういう人物で描かれるか
という視点で見ると面白いと思います

あとがきが長くなり過ぎましたが
それだけこの「京都編」には
気持ちが篭っていますので
楽しんで頂けたら嬉しいです

次回はいよいよ伏見合戦
お楽しみに

高評価♡励みになります🙇🏻‍♂️

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