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【小説】酒娘 第壱幕#014

第拾肆話 封印解除

ー古の都 京ー

パラレルワールド神国日本においても
古くから政治・文化の中心であり、近代化が進む現代においても世界遺産に認定された寺社仏閣が街そのものを演出するかのように建ち並ぶ。そのため海外の観光客からも人気のスポットで、有名な寺社は今日も人で溢れかえっていた。
しかし、彼等は知らない。荘厳で崇高な街並みはある陰陽師の力で均衡を保っている事を。

「セイメイ様!大変です!白峯神宮の結界が何者かによって破られました!」

「申し上げます!大徳寺の結界も同様に破られました!」

(この気配…スサノオではない?一体誰が…クソ!このままでは京の街が…)

「皆の者、良いか!お前達は大徳寺結界の修復に全精力を注げ!私はストクを抑え込む!!」

京という街は多くの歴史がある。血塗られた歴史、封印された歴史も同様である。
いや、むしろそういった数多あまたの怨念の上に築かれた街であると言っても過言では無い。

その日は突然に訪れた。
古より封印されし魑魅魍魎ちみもうりょうが街に解き放たれ、生きとし生けるものを呑み込んでいった。

「のんちゃん!1人で行くとはぐれるわよ!ちょっと待ちなさい!!」

観光客と地元の学生で賑わうとある小路。
この時間帯は車の通行が禁止され、歩行者天国になっていた。とはいえのんちゃんと呼ばれた少年の歩くスピードは速く、人混みをすり抜けることを楽しんでいるかのような華麗なステップで器用に進んで行く。
そしてふと立ち止まり、さきほど並んで買ってもらった鯛焼きを1口頬張った。

「お母さん、この鯛焼きおいしいね!」

少年はそう言って母を探そうと後ろを振り返った。
しかしそこには母どころか先程まで歩くのも困難な程に溢れていた観光客すら1人もいなかった。
あるのは闇。
ただ闇だけであった。

「お、お母さん?」

その時、少年は見た。
いや、見てしまった。
この世の終焉を。


愛山は頭を抱えていた。
彼の目の前にいる猫、のコスプレをした少女は自らを神と言った。その少女に従属している少女もまた、神を自称している。

十四代ちゃんと五百万石を見事に救出して帰還した刈穂一行と共に司令部を訪れた部外者に向けて、密かに亀泉が特殊能力『玉亀之鏡ぎょくきのかがみ』を発動した際、突如亀泉が卒倒し医務室に運ばれた。
亀泉が意識を取り戻したという報告を受けた愛山が面会に訪れ、亀泉から話を聞いたのだが…

『はい、このお2人を含め皆さんウソはついておりません…しかし…』

亀泉はそこで言葉を切り、青ざめた表情で身体を震わせた。

『どうした?しかし、何だ?』

『こんなにおぞましい経験は今まで無かったものですから…兎に角、あの猫の少女と羽衣の少女は只者ではありません。』

亀泉はただただ恐怖するだけであったのでしばらく休ませる事にして、愛山1人で得体の知れぬ少女達と対面する事になった。

「今一度問う。貴女がたは何者だ?」

「さっきから何度も言っている通りだ。こちらにおわすのは月読命ツクヨミ様、天津神三貴神あまつかみさんきしんの御一人、月神農耕神の権現で在らせらる。そして私は天鈿女命アメノウズメ、天津神三貴神太陽神であり創造主、そして月読命様の姉君である天照大御神アマテラス様の侍女である。と。」

「疑り深い奴だにゃ。さっきこやつの後ろにいた女、ボクの心の中を覗こうとしたにゃ。だからちょっと脅かしてやったにゃ。」

愛山は徐々に高まる威圧感に耐えながらも、努めて冷静さを保ち表情を崩さないようにしていた。
そこへ、十四代の容態を確認していた菊水と伯楽星が戻ってきた。

「愛山よ、貴殿のおかげだ。十四代ちゃんは今は眠っとるが命に別状は無い様子。暫くしたら目覚めるだろうて。」

そして菊水は、愛山に対峙している二人の少女を見るや否や、その場に跪いた。

「天鈿女命様、お久しゅうございます。またお目にかかる事が出来ました事、この菊水幸甚の至り。しかも我が姪御の命までお救い頂いたとの事、何と感謝申し上げて良いのやら。」

「菊水、堅苦しい挨拶はよせ。私とそなたの仲ではないか。私もまたそなたに会えて嬉しいぞ。」

天鈿女命は頬を赤らめながら続けた。

「何年振りか…しかし人間にとって『時』というものは誠に残酷なものだ。いや、それは言うまい。今のそなたも充分に魅力的である故。」

「うにゅ?何にゃのだ?ウズメよ。このじいさんと知り合いか?」

空気の読めない猫を完全に無視して、2人は会話を続けた。

「天鈿女命様、有り難きお言葉なれど、この通り菊水はすっかり年老いて見る影も無しでございます。」

「そ、そんな事はないぞ?私はすぐに気が付いた。そなたが菊水である事に。」

「天鈿女命様…」

「菊水…」

「こらー!!ボクを無視するとはいい度胸にゃ!!ウズメよ、まさかお主、人間に恋慕の情を抱いているのではあるまいにゃ?」

月読命は単に自分が蚊帳の外に置かれている状況が気に入らないのだが、人間離れした菊水の神力を感じ取り警戒を強め、何時でも飛びかかれる様な臨戦態勢を整えていた。
殺気を感じた菊水がふと月読命に向き直り深く頭を垂れた。

「月読命様、大変失礼致しました。天津神三貴神の御一人、夜の食国、滄海原の潮の八百重の支配者で在らせらる御前にて、とんだ御無礼を。申し訳御座いませぬ。」

「お、おう。分かっているにゃらもういいにゃ。表を上げい。」

「ははっ。」

「菊水とやら、この分からずやの軍服さんがボクたちの事を全く信用してないにゃ。お主からも説明してくれにゃ。」

「はっ、仰せのままに。」

このやり取りには流石の冷静沈着な愛山も唖然としてあんぐりと口を開けて固まっていた。

「愛山よ、聞いた通りだ。ワシはこちらにおわす天鈿女命様に40年前に命を救われた。伯楽星から話を聞いた時はまさかとは思ったが、一目見てすぐに確信した。その時のお美しいお姿そのままだ。
そして天津神がご降臨されるという事は…しかも三貴神の御一人で在らせらる月読命様まで…余程良からぬ事が起きているに違いない。これ以上罰当たりな行動は慎むのだ。」

「司令、私もまだ信じられぬ気持ちがありますが、この御二方がいなければ我々はこうしてここに戻ってくる事は無かったかと。」

いつの間にか菊水の後ろに控えていた美山錦が付け加えるように言った。

「…分かった。まずは話を聞こう。」

不承不承という感じではあるが、張り詰めていた空気が緩み、愛山は皆に座るよう促した。

「名古屋が壊滅した事はご存知でしょうか?」

天鈿女命のその言葉に愛山は目を丸くした。

「な、何故その事を?」

数時間前、東海地方に巨大な津波が押し寄せ甚大な被害が出ているという報告があった。
原因は不明。数多くの死傷者が出ており軍を派遣して救助活動に当たっているが、被害の状況が分からないため政府はマスコミに対して箝口令を敷いている。
何処にも報道されていない情報を目の前の少女が知っている事に驚きを隠せずにいた。

「あれは天災ではありません。荒ぶる神の仕業、『厄災』…と呼ぶのが相応しいかと。」

続く


第十四話、完走しました!

京都の街を舞台にしたストーリーは
必ず入れたいと思っていました。

そしてまさかの菊水爺のラブロマンス
40年前、二人の間に何があったのか…!

機会があればアナザーストーリーとして
書き下ろしたいと思います🙌

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