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【小説】酒娘 第壱幕#002

第弐話 カメリア

「さぁ皆様永らくお待たせしました!ただいまより第2000回全神国日本奉酒グランプリ、表彰式を開始します!!」

暗転したアリーナに煌びやかで優雅なクラシックの演奏が流れ、色とりどりに回転するスポットライトを浴びながら見事にドレスアップした江戸小町が入場する。

ドレスアップといってもここ神国日本の正装は着物。翡翠色の振袖には所々に椿をモチーフにした豪華な刺繍が施され、深紅に輝く帯がアクセントとなり都会のエレガントさを醸し出している。
その気品溢れる立ち振る舞いと艶やかさにある者は感嘆の吐息を漏らし、ある者は見蕩れながら盛大な拍手を送り、10万の瞳が彼女に注がれた。

江戸小町の後ろからその他の受賞対象サケ娘も入場して行くが、会場で観戦していた菊水はそこに十四代の姿がいない事に気が付いた。

(ん?十四代ちゃん銀賞だったよな…姿が見えないぞ…)

チーム十四代も同様に、十四代の姿がない事に気付き顔を見合わせる。
そんな彼等を他所に会場の盛り上がりがピークを迎えようとしていた。


プレゼンターとして1人の男が登壇すると、一際大きな歓声が上がりアリーナのボルテージは最高潮に達する。

まるで俳優のように整った顔立ち、表情は優しさを湛え見るからに包容力がありそうな落ち着いた雰囲気を携えた男こそ、コメ男子筆頭をつとめる天叢雲あめのむらくもである。彼は両手を広げ深くお辞儀をした後、聴衆を宥めるように口元に人差し指をかざすとアリーナは一瞬静寂に包まれた。

「お集りの皆様、この2000年という節目の年、皆様と共に歴史的な瞬間に立ち会う事が出来ます。私は今、つとめて冷静にお話しておりますが、心の底から興奮しております!ご紹介しましょう!! 3 times chanpion 江戸小町!!」

一際大きな歓声と拍手の中、自信に満ち溢れた表情で天叢雲が待つ壇上に歩みを進める江戸小町に熱い抱擁と盾の授与が行われた。

そして、通常であれば続けてプレゼンターから銀賞の発表があるタイミングであるが、スタッフが司会の男にカンペを手渡し何やら話し込んでいる様子である。

そして、司会の男が困惑した様子で話し始めた。

「えー、ここで会場の皆様にお知らせがございます。銀賞を獲得した十四代ちゃんですが、大会後から行方が分かっていないとのことです。」

突然の発表に会場はどよめいた。
そして、先程から十四代の姿が見えない事を不審に思っていたチーム十四代から怒号が飛ぶ。

「どういう事だ!?聞いてないぞ!!」
「どうなっているんだ!!」

「静粛にお願いします!詳細な情報が入り次第お伝えしますので…」

「十四代ちゃんは何処だ!!何故姿を見せない?」

(そう言えば五百万石の姿も見えないな…確か十四代についていた筈…)

飛び交う怒号の中、菊水は五百万石がいない事に気付き、彼の番号にコールする。

『お掛けになった電話は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため…』

(おかしい、何故繋がらない?)

その後数回掛け直すも、五百万石の電話は菊水の着信に反応する事は無かった。

「会場の皆様!ご静粛にお願いします!前代未聞の事態で運営側も状況の把握につとめております。最新の情報が分かり次第…あっ」

司会の男がそこまで言いかけたマイクを江戸小町が奪い取った。そして、神妙な面持ちで瞳を潤ませながら静かに話し始めた。

「皆さん、突然の事で私も混乱しています…私も十四代ちゃんの事は先程入場する直前に聞きました。」

少女の震える声に会場は静まり返った。

「十四代ちゃんは私のライバルでもあり唯一無二の親友です…どんな情報でも構いません!どなたか十四代ちゃんのことご存知の方がいましたら教えてください!」

「彼女に何かあったら…私…」

そこまで言って泣き崩れる江戸小町。
まばらに、徐々に大きな拍手が起き、江戸小町ちゃんを心配する観客達。
会場は異様な雰囲気のまま、形式ばかりの表彰式が続けられることになった。


その様子をガラス張りのVIP席で見ていた初老の男が大袈裟に拍手をしながら、向かいの席でスラッとした脚を組みシャンパングラスをくるくると回しているパンツスーツの女に向かって、

「名演技だな、さすが代表のお嬢さんだ」

とニヒルに微笑みかけながら言った。

それを聞いてシャンパンを飲み干した女が、グラスに付いたルージュを拭いながら不敵な笑みを浮かべた。

「私の趣味では無いのだけれど。あの娘、オーバーなのよ。一体誰に似たのかしら?」

「おいおい、たまには褒めてあげたらどうだ?あの娘は君に認めて貰いたいんだろう?純粋で健気なムスメじゃないか。」

そう言って初老の男はおどけた表情を浮かべた。その様子にふんっと鼻を鳴らしながら、女が男に目配せをする。

「で、これからどうするつもり?もう後戻りは出来ないわよ?」

「うん、そうだな。」

と言いながら男はロックグラスにウイスキーを注ぎカラカラと音を鳴らした。

「本当の宴はこれからだ。」


「菊水おじさん!!」

人混みの中から1人の娘が駆け寄って来るや否や、そう呼ばれた筋肉質の男に抱きついた。

「伯楽星か!十四代はどうした?」

その問いかけに、紺碧の瞳を潤ませながら横に首を振る。

「五百万石先輩も一緒に姿が見えなくなって…」

伯楽星にようやく追いつき、息を切らしながらそう話した青年は吟のいろはという新入りのコメ男子。見事な銀髪をポニーテールのように束ね、そのしなやかさと佇まいから良く女性と間違われるほどの美青年である。

「兎に角、何時までもこうしてもいらるまい。ワシは連合本部に状況の確認に行ってくるから、お前達は先に帰っていなさい。出羽燦々はワシと一緒に。」

「はい!師匠!」

太陽のように金色に輝く短髪で日焼けした青年は、明朗に応え、菊水とともに本部へと向かって行った。

続く


第二話完走です!
今回のテーマは『椿』です。
表紙のイラストは江戸小町ちゃん✨

そして彼女の振袖には椿の刺繍🌺
椿の花言葉は「控えめな素晴らしさ」 「気取らない優美さ」
まさに一般人が知っている江戸小町ちゃんそのものです。
しかし、「罪を犯す女」という裏の花言葉もあります。また、古来の日本では椿の花が枯れる時ぼとっと落ちる事から、首が落ちる姿と連想され不吉な花とされました。

ちなみに今回の登場人物、
新サケ娘は 伯楽星ちゃん
そして新コメ男子は 吟のいろは と 出羽燦々

プレゼンターのコメ男子 天叢雲 は架空のお米です。

という訳で後書きが長くなりましたが
続く第三話をお楽しみに!

高評価♡お願いします🙇🏻‍♂️

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