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【小説】酒娘 第壱幕#011

第拾壱話 兄と弟

「十四代ちゃんが囚われているとしたら、最も可能性が高い施設はここです。」

愛山あいやまの言葉に合わせて司令室のスクリーンに映し出された地図上からとある研究施設がクローズアップされ、外観写真、間取り、勤務者数等の詳細情報が順番に表示された。
そして最後にある女の顔、神国日本奉酒連合の代表でもあり、江戸小町ちゃんの母でもあり、そしてこの国立神力研究所の所長でもある伊奈いなの顔が拡大された。

「彼女が代表になってから、この研究所では色々と良からぬ噂があります。」

亀泉が端末を操作しながら、菊水達の方へ向き直って説明を始めた。

「私達の調査で、神力の研究のために素質のある娘達を集め、人体実験を行なっている可能性がある事を突き止めています。」

「何?人体実験だと?そんな事…事実だとしたら何故野放しにしておくのだ?」

菊水はあまりの衝撃に完全に冷静さを失い、亀泉に対して大きな声を張り上げた。
その様子に愛山が、落ち着い下さい菊水殿と言いながらも表情は一切変えずに続けた。

「先程も申し上げた通り、この事案は我が国始まって以来のビッグスキャンダルです。慎重に事を運ばなければ揉み消されてしまう。それどころか我々も消される事でしょう。利権、癒着、収賄を巧妙に常態化させ、この国を裏から我が物顔で操り蝕んでいる存在。残念ながら警察や司令軍内部にも浸透してしまっているのです。
敵か味方か。疑心暗鬼になる調査ですが、亀泉ちゃんの特殊能力のおかげでゆっくりとですが、着実に証拠を固めつつあります。今回の神酒GPも我々の調査では茶番。審査員の半分以上は買収され…」

愛山の会話を遮るように菊水が大声を張り上げた。

「何だと!?神酒GPの審査は不正だったのか…!!
…ワシら…十四代ちゃんチームは神酒GPに全てを捧げ…今年は間違いなくいける自信があった!それを…!!不正だと!?」

怒りで身体を震わせる菊水は今にも愛山に飛びかかりそうな勢いがあったので、美山錦みやまにしき出羽燦々でわさんさんが2人掛かりで抑えていた。

「し、師匠!落ち着いて下さい!!」

「菊水殿、心中お察しします。江戸小町ちゃんは代表の娘、おそらく3年連続受賞も全て代表と蘆名校長のシナリオかと。」

「何と…ワシらはいったい何のためにここまで…」

その場でがっくりと膝を落とした菊水を弟子の2人が横から支える。

「菊水殿。もしこれが事実だとしたら、1番得をする人物に心当たりは?」

菊水の落胆ぶりは相当なものだったが、愛山の質問にふとある人物の顔が思い浮かんだ。

「ま、まさか…」

愛山は鋭い眼を一層細めて菊水を見据えた。

「えぇ、そのまさかです。」


愛山の作戦を聞いた出羽燦々は、兄である美山錦と共に行動出来る事に嬉しさを感じながらも、独特の緊張感に襲われていた。
それを感じ取った美山錦が優しく出羽燦々の肩を叩きながら、

「出羽燦々、ずいぶん硬くなっているな。まぁ無理もないか。だが心配するな。私が付いている。」

「ちょっとー!私の存在忘れてません?」

久しぶりの再開と兄弟愛に水を差したのは、亀泉率いる諜報担当部部隊長の刈穂かりほちゃんだった。
刈穂は紅く染まった頬を膨らませながら2人を睨みつけていた。

「出羽燦々くんって言ったっけ?何の心配もないわ、私が付いているんだから。足だけ引っ張らないでよね?」

「あ、はい…!よろしくお願いします!!」

「刈穂ちゃん、弟はこう見えて武術に関して比類なきものがあります。彼を連れていくのは万一戦闘行為に突入した場合の護衛です。ご心配には及びませんよ。」

美山錦が優しく刈穂に微笑みかけると、刈穂は顔を真っ赤にして、ぷぃっとそっぽを向いた。

「ふん!実の兄弟で微笑ましいこと!」

「刈穂ちゃん、貴女とはもう何度も任務を共にして来ましたから。頼りにしてますね。」

美山錦は不貞腐れている刈穂にこれ以上にない位の優しい笑みを向けた。それは一片の曇りもない透き通った美山錦の本心だった。

出羽燦々は刈穂の頭から湯気が立ち上っている状態を見て、

(あぁ、兄さんは相変わらず罪な男だなぁ…)

と、学生時代の数々のプレイボーイエピソードを思い出し、緊張が解けて行くのを感じていた。

「そういえば、刈穂ちゃんもサケ娘なんですよね?」

出羽燦々の問い掛けに、我に返った刈穂が答える。

「えぇ、今回の任務は私にうってつけだわ。私と美山錦くんがいればあなたの出番は一切無いんしゃないかしら。」

刈穂の特殊能力ー

隠密行動ステルスは、彼女と彼女の周囲3m以内の気配を全く消して、相手から気付かれなくする能力。

この能力で神力研究所へ潜入し、十四代と五百万石を探し出す。これが今回彼等に与えられた任務であった。

それに加え、美山錦は見たものを記憶する力に長けていた。彼の頭の中には既に研究所の図面が全てインプットされており、刈穂の能力との相性は抜群なのだ。
そのため、今までも数多くの諜報活動でタッグを組んでいる実績があった。

そして、今回出羽燦々がチームに加えられた理由…

それは出羽燦々の異常なまでに発達した筋力と圧倒的な戦闘力。
兄弟でここまで真逆な特技と性格なのは珍しいのかもしれない。

知的で容姿端麗、物腰も極めて柔らかい兄。
単純で筋骨隆々、The体育会系のノリの弟。

刈穂は美山錦から弟だと出羽燦々を紹介されたが、未だに信じていない、と言うよりも信じたくないという気持ちが強かった。
そう思い、チラッと美山錦を見ると刈穂の視線に気付いた美山錦がニコッと優しく微笑んだ。
刈穂はすぐに目を逸らしたが、耳が熱くなっているのを感じた。

(美山錦くんといるといつも調子が狂うわ…心を落ち着かせないと…)

刈穂が秘めた気持ちを誰にも悟られないよう深呼吸をして気持ちを整え終わった時、3人を乗せた車が停止した。

「さぁ、着いたわ。研究所まではまだ少し距離があるけど、念の為ここからは歩いていきます。」

車から降りた3人は刈穂の隠密行動ステルスに守られながら、予定通り神力研究所のエントランスを誰にも気づかれることなく潜り抜け、十四代の捜索を開始したのであった。


「ふふっ、案の定罠に掛かったわね。」

その様子を研究所の屋上から1人の女が観察していた。

続く


第11話完走です!
しばらく間が空いてしまいました🙇🏻‍♂️

いよいよ十四代ちゃんの捜索を開始する菊水達。

実行部隊は初登場のサケ娘刈穂ちゃん。
コメ男子の美山錦、出羽燦々兄弟という
メンバーで研究所に潜入します!

そこには不穏な影が…

今回の表紙は出羽燦々くん。
共同Pメンバーりっちゃんの力作です!
透き通った透明感と逞しい肉体。
これ以外にも肉体美を描いたカットもあります!
機会があれば出しますね🤭

今後の展開と
刈穂ちゃんと美山錦の関係
お楽しみに😌

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