僕の初めて書いた小説。
ボーダレス
僕の処女作です。
前まで有料にしてたけど
この度、このnoteで全て無料公開しようと思う。
ある感情を抱いた主人公の葛藤を面白おかしく書いたつもりではある。
それではレッツゴー!
ボーダレス
僕は魔女になりたい。
父親にそう告げた。
「アホか。」
そりゃそう返される。そう分かってた。
僕は、男なのだ。
そんな事は分かりきっているが、魔女になりたいのだ。
物心ついた頃から某魔女映画にどハマりしている。
黒猫を連れ、ほうきで飛び、メガネの若者と出会い、飛行船のトラブルをデッキブラシで飛び、間一髪危機を救うあの映画だ。
ストーリーも音楽も全て気に入っている。大好きな映画なのだ。
だから魔女になるんだ。
そう決めていた。
魔男なんて聞いた事ないから、魔女だ。
中学生になりたての僕は、父親に決意を示したが、理解されなかった。
そうそう僕の名はトンボとでも言っておこう。31歳だ。
大阪生まれだ。
あの決意表明から16年だ。もちろん魔女になれてない。
そもそも性別の壁にぶち当たっている。
魔法など使えるわけがない。
他人になど到底言えない。
しかし、そんな僕にもそろそろ言っても良いかな?と、思える人に出会った。
職場の同僚だ。
ジジとでも言っておこう。
仕事も出来て頭のいい人望もあるやつだ。
何もかも僕より優れている良い男だ。
いつか魔女になったら、抱かれてやろうと思えるほどの男だ。
なんだかんだ仲良くなり飲みに行くほどの仲の僕達は、また飲みに行く事になった。
「おい!トンボ!お前最近どうなん?」
「最近もクソもあるか。普通や。」
「マジで!お前モテるのに普通なん?ありえへんて!もっと遊んだらええやんけ!」
「魔女になりたいねん。」
こう言うことを言うのは突然が良いと決まっているのだ。
「は?」
計算通りにジジが言う。
ふふふ。びっくりしてるやろ。知ってるぞ。そう心の中では高笑いをしていた。
「きっしょ。」
おっと、これは予想外。意外にメンタルを持っていかれそうだ。
「そうなん言うなや!マジやねんから!」
「きっしょ。」
2回目だ。ちょっとクラクラする。
「そんなん言うなて!」
「酔うてる?」
「酔うてへん。」
「どないしたん?辛いことあったん?」
「子供の頃からの夢や」
言ってるうちに泣きそうになるのをこらえてる自分がいる。
「いや、お前男やん!」
「魔男なんて聞いた事ないやろ?だから魔女やねん」
「いやいや、まず女にならなあかんやん」
「ほなモロッコ行けや!取るもん取ってきたら魔法使えるようになるんちゃうか?」
盲点だった。取れば僕は女になれるチャンスがあるんだ。
「行くわ」
そう言ってその話はもうやめにした。
ジジはその日から余所余所しくなった。
しかし僕はモロッコに行けば何かが変わると知ってその日からキラキラし始めた。
見えてる世界がキラキラし始めた。
モロッコに行って手術をするためのお金を稼ぐべく仕事にも一層熱が入った。
毎日が楽しい。仕事を増やして責任も増えた。するともらえるお金も増えた。
あれから3ヶ月、僕は昇進した。
この調子でいけば、あともう少しでモロッコに行って女性になり、魔女になれる…!
一層仕事が頑張れる。モロッコが近付く!
そんな事を言ってるとある日ジジから連絡があり飲みに行く事となった。
「どないしてんな」
僕が聞くと、
「トンボさぁ、まだ魔女になりたいん?」
「その為に仕事頑張ってんぞ」
「確かになぁ、せやけどマジでマジなん?
「夢やからな」
ここ一番のドヤ顔で言った。
「俺にも夢あんねん。聞いてや」
「なんや魔女か?」
「んなわけあれへん。芸人なりたいねん」
「なったらええやんけ。今からでもなれるやろ」
「一緒にやれへんか?」
「なんで俺やねん。俺は魔女になりたいねんぞ」
「お前お笑い好きやん?」
たしかに僕はお笑いが好きだ。
魔女になるにはユーモアも必要だと思い、研究しているうちに虜になったのだ。
「仕事どうすんねん?」
「いやいや、仕事終わってから素人が参加出来るライブイベントとかに出たらええやんか」
「ほなら、でけん事もないな」
「せやろ?やろうや!」
夢を語る人間の目はこれほどまでに光り輝くものなのか。
見ているこちらが嬉しくなってしまう。
僕も魔女語りをしている時はこんな表情だったのかと思うと我ながら身震いしてきた。
協力してやりたい。将来魔女になって抱かれてやろうと思う男の役に立ちたい。
中途半端な乙女心と親切心で僕は快諾することにした。
僕にはネタを書く気がなかったので全てジジに任せた。
何日か経ち、ジジがネタを持ってきた。
内容は、僕が魔女になりたい事をあーでもないこーでもないと面白おかしくまとめた物だった。
これはウケる。
直感でそう感じた。
やはり僕が抱かれてやろうと思える男は違う。僕の目に狂いはなかった。
数日後、舞台にネタをかけた。
ものすごくウケた。
事務所に入らないかとも言われ、ジジは嬉々として了承していた。
僕は仕事を辞める気は無かったので、仕事をしながら所属出来るならという条件をつけて了承した。
モロッコに行けないのでは意味がない。
それからサラリーマンと、芸人とのダブルワークが始まっ
た。
なかなかどうして、これもまた悪くない充実感だ。
ただ僕の目標は魔女なのだ。
知らない間にテレビに出る事になった。
魔女になりたいと本気で思う芸人という事でだ。
考えたら確かにこれほどまでに面白いトークテーマは無い。
ただ僕からすると、なりたいものを貶されているような気がして、若干切なかったのだがジジの為に一肌脱ぐ事にした。テレビ出演は大成功だったようだ。
どうやら僕は面白いと思われる人間に位置付けされたようだ。
それから流されるまま、サラリーマンを辞め芸人一本で生活するようになっていた。
知らない間に芸人として立場が出来てしまった。世間からは魔女になりたい痛い奴と、捉えられるようになった。
僕のするべき事とやりたい事に相違点が出てきてしまった。
このままでは魔女になれない。
そう思った僕はジジに相談した。
魔女になりに行くと。
お金は貯まった。もう悩む事など無い。
ジジはこう言った。
「わかった」
そう聞いて僕は瞬く間にビールを飲み干し帰宅し、モロッコでの性転換手術を調べ始めた。
どうやらタイでも出来るらしい。
こうなれば話は早い。
事務所に退社する旨を伝え、魔女になってくるとも伝えた。
爆笑されたが、退社ではなく籍を置いたままで休暇扱いで行っておいでと言ってくれた。
確かに魔女になってからの披露する場は必要だとも思っていた。
さぁ、準備は整った。
あとは病院に連絡して魔女になるべく女性になるだけだ。
しかし、パスポートを取ってない事に気がついた。
パスポートが手元に来るまで時間があるので、実家に行く事にした。
最後に男としての僕を見せておくためだ。
実家で団欒していると、晩御飯を食べ終えた父親に言われた。
「魔女になんのんかぇ」
「そのつもりやで」
「ほな取るもん取るんやな?」
「タイに行くよ」
「好きにしたらええがな」
そう言うと父親は安い発泡酒をグビッと飲み干し歯を磨き寝室に行った。
母親は僕には何も言わない人だったが、その日だけ僕には言ってきた。
「あんたほんまあの映画見過ぎやからこんなんなったんやろか」
「魔法使えるようになったら何すんの?」
「宅配業でもすんの?」
「黒猫探しとこか?」
この親にして僕がこうなるのも納得だ。
ただ、泣きながら話す母親を僕は直視出来なかった。
あと2日ほどでパスポートが届くという時にジジから連絡があり、また会う事になった。
男同士で酒を飲むのもこれで最後だ。
もう少ししたら僕はこいつに抱かれてやるんだ。
そういえば、どういう女性になるかというプランニングが出来てなかったな、と思ったので飲みながら色々な女性芸能人を考えていると、ジジが言う。
「トンボさ、かなり美形やん?男の俺でもたまにドキドキするねん。」
お?抱くか?カシスオレンジを混ぜるマドラーが震える。
「もったいないて。やっぱりさ、そんだけ男前やと男のままの方がええて。」
ぶちギレそうだった。
何故抱こうとしないんだ。抱かれる準備はすでにできているのに。
しかしジジは続ける。
「魔法なんか使えるわけないやん。一億歩くらい譲って、もし魔法使えるようになったら何したいねん?!」
「お前に抱かれるためや!」
おっとつい大声を出してしまった。
若干ではあるが周りからの好奇の視線が刺さりまくる。
しかし、そこは今までの僕の芸人活動による賜で周りは爆笑している。
店内が少しざわつき始めたので僕の家にジジを招き入れることにした。
少し興奮している。
ジジも興奮しているようだ。
よく見ると何とも言えない表情をしている。
抱かれる準備を始めた方が良い。そう直感した。
しかし、開口一番。
「頼む。男のままでええやん。魔法とか魔女とかもうええやん。魔法やったらもう使えてるやん。色んな人を笑顔にしてきたやん!充分魔法やん!トンボの考えてる魔法とは違うかも知れんけど、俺からしたら魔法やって!」
僕は自分本意であったことを猛烈に反省した。
抱かれる事しか考えてない僕に対して、ジジはこんなにも僕の事を評価してくれているのかと思った瞬間に、何かジワっとくるものがあった。
もちろん涙などではない。
ジジは家に上がってから僕が出したお茶が汗をかき、一口も飲まれることのないまま凄いテンションで、早口で僕に男のままでいる事がこんなにもメリットがあると、力説している。
頭がボーっとしてきた。
来年36かぁ…。
ほんまにタイ行かんと、そろそろまずいなぁ…
孫の顔見せられへんのは親には悪いことするなぁ…
とか考えてた。
ジジはまだまくし立てている。
話の8割くらい僕は聞いてない。
今、ジジを一瞬で黙らせる方法ないかなぁ…と考えていたのだけれど、なかなか思いつかない。
いっそのことジジに聞いてみた。
「結局どうしたいん?」
ジジはまくし立てるのを辞め、真剣な表情はそのままで僕を直視しながらゆっくり話し始めた。
「そこまで魔女にこだわる理由が分からへんねん。このままでも充分やん。」
なるほど。分からないではない。
僕自身、今のままでも良いかなと思う。しかし思うだけである。
本質的には魔女になりたいんだ。
確かに見失いつつあったけど、僕のなりたいものは魔女なんだ。
人に何を言われようと回り道をしようともなりたいものに変わりなどない。
ある意味で安定してきた今の自分の立ち位置を失うことを、僕以外の人は嫌がる人も多いと思う。
多少羨ましがられるような生活も出来ているから余計かもしれない。
しかし全てを投げ打ってでもやりたい事があるんだ。
少し熱くなった。
さて、ジジの質問に答えねば。
「確かに充分かも知れへんな。ただ、俺は魔女になるのが前提の人生って決めてるねん。ほんで最終目標はジジに抱かれることやねん。」
さらっと告白してしまった。
いや、何度も言ってるからそない気にはせんか。
まぁまぁ、反応を待つか。そう思った矢先ジジが泣き出した。
「魔法使いたいってなんやねん…」
「俺に抱かれたいってなんやねん…」
「ほんまに痛いだけやん…」
「男でも女でも、俺の中ではトンボに変わりはないやん…」
たまに入ってくる毒にも耐えながら僕はようやくジジの話を真剣に聞きだした。
「俺はどうしたら良い?」
振り絞って出した一言だった。
ジジが泣き笑いの表情で、
「今、トンボが出来うる魔法を見せて欲しい。」
そう言うと、ジジはそそくさと帰り支度を始めた。
玄関のドアノブに手をかけながら
「明後日までな!」
と、赤く腫らした目で笑いながら僕に告げた。
ジワっときたのは言うまでもない。
そこから僕は意味を考え始めた。
僕が魔法?
魔女になってもないのに?
翌日もコンビで収録があったが、それどころではない。
ジジはいつにも増してよく喋る。
反面僕はなかなかエンジンのかかりが悪い。
ジジもよくわかってるみたいだ。
楽屋で思い切って聞いてみた。
「俺の使える魔法てなんやろな。」
ジジはクスッと笑いながら
「俺らはなんや?」
とだけ答えて、好きな炭酸水を飲む。
用意されてた弁当を平らげたジジは、お疲れ!と言って帰ってしまった。
僕も遅ればせながら弁当に手をつけた。
薄々分かっていたことだが、恐らくネタの事を指した言葉だったのだろう。
こうなれば、人生初のネタを書いてみるしかない。
僕が今の現状で唯一使える魔法だ。
ただ、面白おかしいのは前提として、僕が僕である最大の特色を出したネタでなければならない。
魔女。
僕の夢である。
そうジジに再認識させるネタを書くしかない。
そうなれば詰め込みたい事が沢山ある。
ジジへの思い。
両親への感謝。
自分の願い。
この全てが含まれていないと、ジジは納得しないだろう。
いつしか弁当は空になっていた。
ゴミをまとめ、深夜のテレビ局を後にする僕にもう迷いは無かった。
全てにカタをつける。
家に帰り、ノートとペンを取った。
ネタが出来た。
パターンとしてはありきたりだが、自分からすると、なかなか思い切った内容のネタである。
設定は僕が神様でジジが部下である。
人間というものは産まれる時に親を選べないというが、外見や性別も選べない。何故なのか。
それはきっと神様が器と中身を間違えよるから、そんな事が起こる。
いついつどこで子供が産まれよるから、神様は器を用意する。そこで部下に中身を用意してもらう。
受注番号のようなものがあり、リストアップされた性別、容姿、性格それらをひとまとめにし、器を持っている神様のところへ持っていく。
そこで神様は命を吹き込み生命を誕生させる。
ごく稀に器と中身を間違えてしまう事がある。
そういった事が起こると僕のような魔女になりたい男が産まれる。
神様にすら間違いを起こす事があるのだから、この際、起こってしまった事など間違いなんてものはない。
起こるべくして起こったのだから全て必然なのだ。
つまりは魔女になりたいという僕の願いは、間違いでも何でもなく必然であり、たまたま世間に面白いと思われただけで市民権を得たという事になる。
多数の人が正しいと言えば正しくなるなんておかしい。
僕が僕を一番おかしいと思っているのだ。
という事をユーモアを交えながら書いた。
僕は書きながら思った。
人によっては個人差がある。
当然だ。
しかしながらそれらを認めない、もしくは認めたくない人が多い事は想像するに容易い。
みんな違ってみんな良い。なんていう言葉を聞くけれど、それはどういう事だろう。
肌の色?国籍?宗派?
僕には分からなくなった。
みんな違うのは当たり前。
でも、赤道の線が見えないように、国境などの境界線が地球上全てに張り巡らされている事などあり得ない事で、空は繋がってるじゃないか。
だとすれば、何を根拠に隔てるのか。
今の世の中をマジョリティが占めるのならば、戦争なんて無くならない。
僕自身がそういう事を発する事自体、好奇の目で見られるだろう。
大声を出した居酒屋の比では無い。
もっとグニャグニャと小難しい事を考えたが、どうでもよくなった。
結論としては、僕が男だろうが女だろうが、今思っている事の発信。
気になる事を追求していく事が世に発する自分だけの魔法ではないかと。
そこへ辿り着いたなら自分が人である以上、性別の境界など要らない。
社会風刺などではなく、自身の考え。
世に沿うか沿わないかなんて知らない。
魔法なのだから効く人は効くだろう。効かない人は一生効かないだろう。
それでいい。
この二日間でここまで考えるとは思っても見なかった。
ジジはそこまで想定していたのだろうか。
やはり出来る男だ。
こうなると無理矢理にでも抱くしかない。
そっちの意味でギラギラしながら、出来たネタを持って行こう。
ジジは魔法が効くだろうか?
全く効かないだろうか?
いや、そんな杞憂はする必要ない。
僕の魔法なのだ。自分を100%信じて生み出した魔法だ。
器なのか中身のどちらかを神が間違えたのであれば感謝しなければならない。
そうでなければジジに会うこともなかった。
全てが必然だったから楽しかったんだ。
さぁ、魔法を届けよう。
そして、届け終わったら実家に行き、全力で両親を安心させに行こう。
さすれば少なくとも僕の目の届く範囲はやさしさで包まれるかも知れない。
完
あとがき
読んで頂いた方、ありがとうございます。
僕は異性愛者ですが、男性の方から声をかけられる事もチラホラあります。
外国人の方も日本人の方も。
このボーダレス書くちょっと前に当時通ってた居酒屋で、同性愛者の方と仲良くなりました。体の関係はありませんが。
その時に原案が思い浮かび、書き殴ったのを覚えています。
子供の頃に、ある経験をしたのですが、その経験からLGBTに関して偏見は全く無く、周りの人達がこれはあかん事、として捉えてるのが分からないでいました。
人としての定義なんてものはないはずやし、恋愛にしても定義なんてものは無いと、今も思っています。
僕は笑って生きる事を念頭に置いて生きています。
笑って生きる、ボーダレスな人生のきっかけになれればと思い、筆を取った次第です。
最後まで稚拙な文章を読んで頂き、誠にありがとうございました。
しょうへい。