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2020年:LGBT映画/G編

いつの間にか、月一更新に成り果ててしまっている…。
早くも6月が迫り、半年以内に終わらせようとしていたこの映画まとめも、すでに厳しい目標と化してしまった。
世の現状としては、緊急事態宣言が延長に延長を重ねており、その実態もつかめないまま、映画館の時短営業が続いている。
仕事終わりに映画館へ行けない生活が続き、私は新しい韓国ドラマにハマってしまった。
昨年は「愛の不時着」「トッケビ」を熱心に観て過ごしていたが、今は「ヴィンチェンツォ」を観ている。
薦めてくれた友人より速いスピードで観進めているほど面白い。

さて。映画に話に戻るが、今回は「LGBT映画のG編」というタイトルになっているように、ゲイムービー(この呼び方は良くないのだろうか?)のまとめにしようと思う。
数年前まではなかなか馴染みのなかったLGBTという用語も、最近はやっと浸透してきて、さらに幅を広げたLGBTQIAという表記になっていたりもするよう。
LGBT映画とカテゴリーされることもあるが、私はその中でもG、ゲイに関する映画を好んで観る傾向がある。
腐女子ではないが、BL好きである。

これを読んでいる人にもし偏見的な見方が存在するのであれば説明したい。
個人的な感覚で言うと、ゲイムービーというのは、「恋愛映画のジャンルの一つ」にすぎないということだ。
例えば、「好きな映画は恋愛系」という人がいたとしても、キラキラした青春学園ものが好きな人もいれば、大人の深い恋愛映画が好きな人がいると思う。
それが私の場合、男同士もしくは男性が同性の人を好きになるような恋愛映画が好きという感覚なのである。

初めはそんなに自覚的ではなかったのだが、好きな映画として「ブエノスアイレス」や、「君の名前で僕を呼んで」などを挙げている度、あぁゲイムービーが好きなのかもしれないと思うようになった。
さらには内容を詳しく知らないまま、なんかいい感じの雰囲気そうな映画だなと思ってその作品を観たところ、主人公が同性愛者で、そこが物語のキーポイントだったということが頻繁に起こる。
おこがましい話ではあるが、無自覚にゲイムービーを引き寄せる何かが私の中にあるのだろうと思ったりしている。
あとはまぁ、自身の恋愛事情が、男女の普遍的な恋愛の枠に入る余地がないというのもあるかもしれない。
男女の恋愛映画を観ると、良くも悪くも「私にはこんな瞬間訪れたこと無い!」という嫉妬のような邪念が入る。
なので、むちゃくちゃ乱暴な言い方をすると、男性同士の恋愛を観ている方が、純粋に恋愛映画として作品を観ることができているからかもしれない。

そんなこんなで昨年観た「LGBTのG」映画はこんな感じ。
「his」2020 / 日本 / 今泉力哉
「影裏」2020 / 日本 / 大友啓史
「ジョン・f・ドノヴァンの死と生」2020 / カナダ・イギリス / グザヴィエ・ドラン
「僕の家族のすべて(ドキュメンタリー)」2019 / アメリカ / ウー・ハオ
「窮鼠はチーズの夢を見る」2020 / 日本 / 行定勲
「マティアス&マキシム」2020 / カナダ / グザヴィエ・ドラン
「彼の見つめる先に」2018 / ブラジル / ダニエル・ヒベイロ
「ブルックリンの片隅で」2017 / アメリカ / エリザ・ヒットマン

ここから今回は選りすぐって2本の映画について書いてみようと思う。

その前に、ラインナップの中に、以前のまとめにいれていた「彼の見つめる先に」が含まれていることにお気づきでしょうか。
実は、このジャンルに入っても良いかなと思っていた映画だったのだが、偏見なく見て欲しかったので(どの映画もそうなのですが)、おすすめ映画としてまとめてみた次第である。
実際はこの映画、全然内容を調べずに(調べたところで出てこない)ポスター画像を見て鑑賞したので、話が進むにつれそんな感じか!と、前述でいうところの“引き寄せた系”であった。
思いがけない展開にきゅんとする、めちゃくちゃ可愛い映画なので機会があれば見て欲しいなと思う。
それでは本題へ。

「his」 2020/日本/今泉力哉/127分

これは前回の「俳優目当てで観た映画」の一つでもあり、正味なところ宮沢氷魚目的で観に行った映画である。
彼は「偽装不倫」をいうTVドラマを見てすっかりファンになってしまい、恥ずかしながらファンミーティングにも参加したことがある。
ファンミは一昨年のクリスマスあたりのことで、その際にこの映画のことを知り楽しみにしていた映画であった。
氷魚ちゃん(と普段読んでいる、申し訳ない)は個人的に、少し影のある雰囲気が好きなのでこの映画の役はドンピシャであった。

また、監督は今をときめく恋愛映画の名手、「愛がなんだ」や「あの頃。」の今泉力哉である。
まめに監督の映画を観ているわけではないが、不器用に生きる若者を描くことが多いにも関わらず、画もストーリーも淡々としている印象がある。
しかし、表情の切り取り方が秀逸で、台詞のないシーンにおいてはそれが特に魅力的で、忘れられない瞬間を生み出している。
今回の「his」は、そんな若者の不器用な恋愛を扱うことが得意な監督が撮った同性カップルの映画である。

学生時代に付き合っていた迅(宮沢氷魚)と渚(藤原季節)が、時を経て再会し(というほど偶然的なものではないが…)、新たな関係や生き方を模索していくストーリーとなっている。
物語は、一度は就職したものの東京を離れ、ゲイであることを隠しながら、田舎でひっそりと自給自足の生活をしている迅のもとに、かつて一方的に別れを告げてきた元恋人の渚が、自身の子どもを連れて突然やってくるところから始める。
かつての恋人=同姓が自身の子どもを連れてくるという事態に、渚はゲイではなくバイセクシャルだったのか?別れて8年も経った今、自分のもとになぜ戻ってきたのか?
迅は怒りと戸惑いを隠せなかったが、そのまま二人を受け入れしばらく三人で暮らすことに。
決して忘れることのできない、溢れんばかりのお互いへの思いを抱えつつ、砕けてしまった破片を繋ぎ合わせるように一度離れた距離を縮めていく。
ぎこちない関係ながらも三人で一緒に過ごすうち、新たな幸せに身を寄せはじめるが、そこに親権争いで裁判沙汰になっている渚の妻が子どもを連れ戻しにやってくる。
さらにはこれまで隠してきた迅と渚の関係が、村の噂となり広がっていくが…といった感じ。

迅と渚が主役であることは間違いないのだが、この映画で注目なのは、田舎というコミュニティーに暮らす住民、元恋人の妻とその間に生まれてきた子ども、といった、二人を取り巻く“人”と“環境”を幅広くきちんと描いているという点である。
主人公がゲイであることが主軸となっている作品は、ゲイである本人や恋人といった当事者、もしくはその家族といった、主人公に近い関係の人間のみをフィーチャーして描くことが多いように思う。
しかし、この映画はそこから少し離れた人との関係性や、その人たちの環境、そしてそれぞれが抱いている思いまで広く描かれているのが印象的であった。
また、ゲイの恋人同士が子どもを育てること、村で暮らすということ、社会的な偏見、家族との確執、シングルマザーの子育てと仕事の両立といった、現代においてようやく話題に挙がるようになった厳しい現状も描かれている。
そのどれをも詰め込んでいて少々強引な印象もあるが、わかりやすい部分をかいつまんで描くよりもリアリティがある。
全体を取り巻く雑音が大きいからこそ、迅と渚のささやきのような愛に耳を傾けたくなるのである。

また、食事のシーンが多いのもキーポイントとなっているように思う。
食べるだけでなく、野菜を採ったり、狩りに付き合ったり、そして食材を調理するシーンも自然に描かれていてとても良かった。
なかでも卵を片手で割る描写は、映画を観終わったあと、自身も真似してしまったほど印象深いシーンとなっている。
食事一つにとっても、一人で、三人で、猟師のおじさんと、さらには村人が集まって食事をする。
その全てにハッとさせられる瞬間が詰まっていて どれもが重要な時間となっていた。
現代に生きる生々しさや、それぞれが抱える思いは、「生活」とともに存在していることに気づかされるようであった。

そして、映画の内容もさることながら、配役に関しても役者それぞれの個性が生かされていて、とても良かった。
自分と他人の間に壁を立てて生きるような、不器用を具現化したような宮沢氷魚演じる迅と、微かなチャラさが見えつつも、自分をごまかさずに生きる藤原季節演じる渚。
設定よりも役者本人たちの実年齢の方が若く、撮影に入る前は心配だったと監督はインタビューで語っていたが、その辺りは観る側としても全く気にならなかった。
そして個人的な推しポイントを一つ言わせてもらうと、迅が絵本を読むシーンがあるのですが、その声がもう本当に素晴らしい。

基本的には穏やかで、ハードな性描写も無いので気負いせずに観れるかと思います。
優しい気持ちになれる映画です。よろしければぜひ。


「窮鼠はチーズの夢を見る」2020/日本/行定勲/130分

こちらは「his」と打って変わって、かなりハードモードである。
そして、今まで観てきた映画の中でも、あらゆる点が群を抜いてキツかった…。
もともとは漫画が原作なのだが、未読。
映画予告の雰囲気に釣られて観に行った映画なのだが、一人で観に行って正解だったと心底思った。

主人公は、既婚者でありながら他の女性と浮気を繰り返す、大倉忠義演じる大伴。
そんな大伴の妻から浮気調査を頼まれる探偵として働く、成田凌演じる今ヶ瀬の二人である。
二人は大学の先輩後輩。大学時代に何かあったわけではないようで、この浮気調査をきっかけに再会する。
浮気の事実を隠すことを条件に、今ヶ瀬は大伴にとある交渉をする。
妻との関係を終わらせたくない大伴は、今ヶ瀬の要求に求めるがまま応えることになるが、浮気調査は思わぬ展開に。
長らく隠してきた気持ちに火がついた今ヶ瀬の猛アピールに流されつつも、大伴は浮気相手の女性との関係も断ち切れない。
来るもの拒まず、不足なく生きている大伴と、求めるものたった一つが手に入らない今ヶ瀬。
どこまでもすれ違う二人の物語である。

やさぐれ、だらしない大伴の色気と、したたかで、繊細な今ヶ瀬の儚さ。
普段バチバチのベッドシーンがあるような映画はあんまり観ないので、印象的にそっちのイメージの方が強く残ってしまったが、もちろんそれは要素の一つ。
部屋、洋服、しぐさ一つ、どれをとっても徹底的に美しく作り込まれていて、画を観ているだけでも充分な程である。
しかし、それと対比するように、精神的な面でのえぐさが凄い。
今ヶ瀬の表情を見ているだけで、頭を抱えたくなるほど辛くなる。というかずっと今ヶ瀬が辛い。
関わってはいけないのだ、この大伴という男には。

この物語は、同性愛者同士の恋愛ではないため、恋敵として女性の存在も大きい。
互いに大伴へ思いを寄せる今ヶ瀬と大伴の元カノの夏生が対峙するシーンのバチバチ感もさることながら、私が肝を冷やしたのはそのシーンよりも少し前のこと。
それは、大伴、夏生、今ヶ瀬、今ヶ瀬の友人の4人が一緒に飲んだ日のシーンである。
以下少々ネタバレとなってしまうが、飲み過ぎた大伴を夏生が介抱して、家まで送っていったところの一連の流れに、女性ならではの恐ろしい瞬間が詰まっていたように思う。
立てないほど酔い潰れている男とそれを介抱する自分。
そしてその男が元彼という、一時的でも相手にとって自分は特別な存在であったという優越感が、声の大きさや言葉のトーンからまじまじと伝わってくる様が異常にリアルで震え上がった。
さらに次の瞬間、あわよくば部屋に入ることができると思った相手の家から、恋敵であると悟った男が出てくるという事件が起こる。
期待がはずれ狼狽しつつも、その一瞬で全てを悟り、敵として認識する鋭い洞察力。
自分が手に入れられると思ったものが横取りされる屈辱が、表情や声から伝わる恐ろしいシーンであった。

そして、このことをきっかけに、物語は狂気のバトルシーンへ展開することになる。
同じ男に好意を寄せる男と女、そしてその対象となっている男。
その3人が直接対峙するという明らかな修羅場、そこで描かれるのは、多くの人が密かに抱える恋愛対象における“優劣”の感覚である。
「あの子は私よりブサイク(=自分の方が有利)」「あいつより俺の方が高収入(=自分の方が有利)」など、わかりやすく典型的な例えで言うとこんな感じだろうか。
この映画においては、「異性愛者にとっては、異性である自分こそがその相手にふさわしい」と“性別”を持ち出してその優劣の感覚を明確に描き、暴露してしまっている。
そしてこの感覚こそが、大伴の中にある今ヶ瀬への煮え切らない思いをより複雑化させ、さらにはこの映画を観ている私たちにも、無意識に抱いている社会的には、一般的には、といった認識を改めて突きつける、重要な描写であったように思う。

映画のストーリー的にはその後もまぁいろいろあるのだが、結局のところどうなるのか。
やはりそこは言えないのだが、ただラストシーンは発狂しそうなほど美しくも恐ろしいものであったことだけお伝えしておく。

長々と書いてしまったが、この映画は恋愛における苦しい部分も、壊れそうになるほどの喜びも、全部ひっくるめて「美しい」を極めた作品であった。
そして、単純な感想を言うと、全編通して今ヶ瀬の表情が抜っっっ群に良い。
大伴を見るその眼差しだけで、その時の思いがこちらにまで乗り移ってしまうようであった。
自身はこんな大恋愛をした経験がないため、辛そうだけど今ヶ瀬が羨ましくも思ってしまった次第である。
いやぁ、そんな今ヶ瀬役の成田凌、まさに恐ろしい子…!である。


以上、2本まとめてみました。どちらも日本の映画になりましたね。
本当は「ジョン・f・ドノヴァンの死と生」「マティアス&マキシム」もここに入れたかったのだが、あまりに長くなりそうだったのでグザヴィエ・ドラン監督編として次に回そうかなと思います。

最後に、おまけでもう一本。
現在、私が公開を待ちに待っているのが「Summer of 85」という映画である。
これを知ったのは、韓国の「PROPAGANDA」という、主に映画のポスターなんかを制作しているデザイン会社のInstagram。時期にして、昨年の11月のことである。
明らかにわたしが好きそうな空気感のポスターに胸が踊ったのも束の間、韓国のそのポスターには12月公開とあるにも関わらず、検索すれど日本での公開情報が全く出てこない。
そしてそのまま時は流れ、年が変わり、日本での公開日が決まったのが今年の3月。
さらに新着情報の収集に疎い私が気づいたのは、さらに時が流れた今月のことである。

内容のネタバレが怖い身としては、あまり前情報を入れないようにと意図的に情報を遮断しているのだが、もはやビジュアルを見ているだけでも十分なほどの「これ絶対好きなやつ」感。
フランソワ・オゾンという監督さんらしいのだが、まだどの作品も見たことがない。
この監督自身もゲイであるらしく、同性愛がテーマの作品を多く撮っているそう。
基本的に作品の言語がフランス語であったり、同じ俳優を起用していたりと、先述のドラン監督と共通点が多い。
その点においても、わたしが興味をそそられる要素となっている。

私もまだ観ていない映画のため、内容について語れることはないので、とりあえず予告を貼っておく。
公開が延期にならないことを切に願って、夏までワクワクしておこうと思う。

「マイ・プライベート・アイダホ」ですか?
「君の名前で僕を呼んで」ですか?
「さよなら僕のモンスター」ですか?
「トム・アット・ザ・ファーム」ですか?
というような、ツボを抑えたシーンがたくさんありそうで期待が高まります。
楽しみすぎる…!

ということで、毎度 長々とお付き合いいただきありがとうございます。
次はいつの更新になるだろうか…。なるべく早く仕上げたいところです(自分のために…)。
それでは、また。


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