2014/09/07 Thom Yorke DJ Set - UNDERCOVER OF THE NIGHT 25th Annivesary of UNDERCOVER

3年くらい前、パリに来たついでにドーヴィルかブルターニュ、あるいは南仏のどこかへ行きたいなあとぼやくと、「ユーロスターなら2時間程度でドーヴァー海峡を渡ってロンドンへ行ける」と友人が言った。

四則計算みたく世界の共通言語のひとつとして流布されている"イギリス=飯が不味い"という方程式のおかげで、どうにも惹かれない国ではあったが、食わず嫌い、そして行かず嫌いは良くないと思い、その場でチケットを手配した。

初のロンドンは、"ビッグ・ベン"を見るとか、大英博物館を歩き回るとか、フィッシュ&チップスを食べるとか、観光らしいことを一通り満喫してから、友人に勧められたブリック・レーン地区に向かった。

一見して「なんだかパリのマレ、いや、ニューヨークのブルックリンみたいなところだな」と思わずにいられなかった街並は、なかなか風情のある旧市街のような佇まいと、その中に落とし込まれた現代的要素の数々が相俟って醸し出される空気に好感を抱いた。"ブルックリン"の音が似ているのは、この地名を真似たのだろうか。

右へ左へ首を振り振り、西へ東へ歩き歩き、途中、カフェで休憩を挟みながらいくつかのショップを覗いて回った。街の風景や人々、売り物、レンガ造りの壁に描かれたグラフィティを写真に収める。

「Hey」――と、不意に背後で声がした。多分、僕に声をかけている。

振り返ってみると、モスグリーンのウールのハンチングを被った初老が立っていた。身なりは小奇麗ではあったが、無精髭のけぶった少し気だるげな表情とみすぼらしい雰囲気に、僕はホームレスの気配を感じて、正直、嫌悪感を覚えた。周りに人はいない。やはり声をかけられたのは僕のようだ。

男は「Hi」と言って、チラシのようなものを差し出してきた。パリでもよくある観光客狙いのジプシーか何かだろうか? ともかくこういう得体の知れない輩に、下手に関わると碌なことにならない。

「今、手持ちがないんだ」

そう答えて素っ気なく去ろうとするも、相手はハッハッと笑って「タダだよ」と言った。それでもいらなかったのだが、彼はこちらが断るより早く、半ばそれを放って寄こし、そのまま何事もなく去って行った。不審に思いながら、そのチラシに目をやると、どうやら新しいアルバムの発売の案内らしかった。見れば、ちょうどレコード屋の目の前だったので「ああ、そういうことか」と安堵して、僕は散策を続けた。

それから、ブリック・レーンを一通り巡ってホテルに戻る途中、先程のレコード屋の前を通ると人だかりができていた。群衆の頭越しに、先程のホームレス風の男が特設ブースのようなところでチラシを配っていて、さらには皆、その男と写真を取るために列を為しているのが見えた。

先程、彼から渡されたチラシをバッグから取り出し、改めて見てみた――
"RADIOHEAD『THE KING OF LIMBS』OUT NOW!"とある。ホームレスと見紛えた男は、あろうことか世界屈指のロックミュージシャンだったのである。

   * * *

――と、もし本当に上記のような出来事が身に起こっていたら、今の僕はそのときの自分を呪ったことだろう。

"Alternative"という単語ひとつで括るに憚られる類の音は、その魅力に目覚めるまでは聴かず嫌いで敬遠しがちだけど、一度耳に当ててみると「どうして今までこれを避けていたのだろう」ということがよくある。個人的にその代表格がRadioheadで――という話は、ここでは確かめないけれども以前にも書いた気がするので割愛する。

一昨年、フジロックにRadioheadで来日したときは、翌日が仕事だったために観ること叶わず、昨年ATOMS FOR PEACEで来日したときに漸くライヴを観ることができた――1日しか観ていないつもりだったけど過去記事確認したら2日間も観に行っていた――が、今年に入ってからは新譜制作開始の知らせがあるだけで、当分ライヴはなさそうだった。

それが、数日前からSNS上で「Thom Yorke来日中」という噂が実しやかに流れ、どうやら本当に日本に居るらしいことが分かると、程なく、兼ねてからThomと親交のある高橋盾のUNDERCOVERがイベントをやることを知り、来日の理由と結び付いた――ThomのDJが観られる!? Radioheadでフジロックに来たとき、小さなアフターパーティーでDJをやっていたけど関係者だけだったからなあ……と思いながら僕は渋谷へ向かった。

深夜0時を回る少し前に会場のVISIONへ着くと、フロア内は(主にThomを待つ)客で鮨詰状態で、あわや将棋倒しという場面も多々あった。熱気に湿気も相まって不快度指数は非常に高く、DJ Setだというのにバンドのライヴを待つかのような空気すら漂っている。

そして予定時間を少し過ぎたところで、VJを写すためのスクリーンが降りてくるのとともにThom Yorke登場。なぜかリュックを背負っている。より一層盛り上がるフロアはどうなることかと思ったが、さすがにモッシュのような状態にはならなかった。

セットはThomらしいというか、テクノ、ハウス等を中心に時折ジャズを落としてフックを利かせるような構成で、割と真面目なDJだったように思う(完全にミュートして強引に繋ぐ場面が数回あったのが気になったが)。名物のThomダンスも観れたし、迷った末に行った甲斐はあった。

ThomのDJが終わると、会場からは潮が引くみたく一気に人がいなくなり、その流れに乗って自分も会場を後にした。外でただ始発を待つのも何なので、午前3時の渋谷から新宿に向かって明治通りをひたすらに歩いた――デング熱を気にして代々木公園沿いの道は避けて。通り沿いのいくつかの店が自分の記憶の中の構えから変わっていたのが、興奮と夜気で冴えた頭に印象的だった。

以下、Thom Yorke DJ Set List(順不同)

Sidney Bechet - Blue Horizon
Zomby - Rumours & Revolutions
eomac - no name
Mr. Oizo - Positif
Thom Yorke - The Clock (Surgeon Remix)
Boy 8-Bit - Fog Bank
Owiny Sigoma Band - MargaretOkudo –Dub
Radiohead - Meeting in the Aisle
Sidney Bechet Trio - Strange Fruit
MMM - Que Barbaro
Radiohead - Good Evening Mrs Magpie (Modeselektor Remix)
Modeselektor ft. TTC - 00007 (Siriusmo Remix)
Trim Ft Riko - Trousers (Remix)
Manna Dey, Mohd Rafi, S D Batish, Sudha Malhotra, Chorus - Yeh Hai Ishq Ishq
Joe - Slope
Stefan Goldmann - Fat Tails
Riva Starr - Dance Me (Original Mix)
(出典:http://rabbitinmyheadlights.tumblr.com/)

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