ベンチャーへのレンタル移籍3ヶ月で感じたこと、学んだこと、今後の成長機会

チカクにレンタル移籍を開始して3ヶ月が経った(2020年7月に開始)。この3ヶ月で起こったこと、取り組んだこと、感じたこと、学んだことを振り返ります。

チカクのコーポレートサイト:https://www.chikaku.co.jp/

チカクでは目標設定・管理手法にOKRを使っている。OKRは「Objectives and Key Results(目標と主要な結果)」の略で、非連続的な成長を目指す(必要としている)スタートアップ企業が、ムーンショットな目標を掲げてそれを達成し続けていくための手法。

OKRとは:https://www.kaonavi.jp/dictionary/okr/

 チカクでは3ヶ月に一度、O(Objective)を達成するためにKR(Key Result)を3〜4つ設定し、各KRの達成確率は30%程度の目標を掲げる。かなりのストレッチゴールを設定している。
 ちょうど私がチカクにジョインした7月から2020年3QのOKRが設定され、そのうち1つのKRを私がリードすることになった。そのKRの内容はARPUの向上、具体的には「”ユーザーあたり月粗利を●円向上させる”ための検証を完了する」であった。

前提としてチカクの事業「まごチャンネル」の事業モデルは[デバイスの売上(単発)+サービス利用料(継続)]で、携帯電話と同じようなもの。そのサービス利用料で得られる月当たりの粗利を、新しいサービスによって増やしましょう、ということである。

ジョインしたばかりでこのKRを与えられた私は「右も左もわからないけど、とにかく取り組んでみよう!」と意気込んで取組み始めた。どうなったらこの目標は達成したと言えるのかを明確にしないまま進めていった。これが後になってマズいこととなる…

まずは月粗利をUPするための具体的施策をいくつも挙げてリストを作り、それぞれで予測される粗利UP金額を積み増していった(なんとかの皮算用)。そこでメンターから「挙げた施策はどれも不確実性が高い状態なので、検証を通じて各施策の不確実性を下げよう。”これなら確実に儲かる!”というところまで不確実性を下げて、トータルで目標とする粗利UPの金額を達成しよう」とアドバイスをもらった。

しかし不確実性を下げるというのは具体的に何をすればいいのか
具体的なイメージを持たないまま、手持ちの情報を整理していた。なんとなくユーザーヒアリングでもしたらいいのかな?と思ってその準備をしていた。それだけで何も成果が出ないまますでに開始から3週間が経ってしまった。

この時にCEOからお叱りを受けた。
「何が仮説なのか。なぜその仮説の検証を今日やれないのか、言ってみろ」

その頃は、とあるサービスを顧客が幾らで買ってくれるかを調べるためにユーザー1000人に対してアンケートを取ろうと考えていた時だった。それに対してCEOからは、
「なぜ、1000人に聞かなければならないのか?なぜ10人ではダメなのか?」
「そもそもアンケートで何を得たいのか?」
「1000人にアンケートを出して、”500人がそのサービスを買いたい”と答えるよりも、10人にしっかり説明をしてプロトタイプを見せて実際に”5人がお金を払ってくれる”方がよっぽど信頼できる」
と言われ、そしてさらに
「なぜ、そのような検証を、今日やれないのか?」
と問われた

ベンチャー企業は調達資金を使って非連続の成長を続けて事業を拡大させていくことが命題である。事業自体は赤字であることも多く、資金が底をついた時が会社が死ぬ時。手持ち資金と月々の赤字額はもちろんわかっているので、単純計算で「このままいったら自分たちはいつ死ぬか」がわかる。その期間をランウェイという。ランウェイは一般的には1〜1.5年が適切である(それ以上だったらお金を使わなさすぎ)。
資金が尽きる前に成長する機会を掴まねばならない。そのために日々、不確実性を下げるための検証に取り組んでいる。1日1回検証のチャンスがあるとしても365回程度しかチャンスがない。その365回の検証のどこかで非連続的な成長を遂げるための機会を確実に掴みにいかねばならない。
チャンスを増やすには検証の機会を増やす。何もやらなければチャンスが減る。目標に到達できなければ会社はなくなる。
そういうマインドの中で仕事しているのがベンチャー企業であり、だからこを「なぜ、その検証は今日やれないのか?」「何を検証すべきなのか?」「今日やるにはどうしたらいいか?」を常に考えている。
毎日のストレッチゴールの設定と達成の積み重ねによって、成功確率30%のKR(Key Result)を達成するのである。

それにようやく気づかされた時点ですでにレンタル移籍を開始して3週間が経ってしまっていたが、ここでようやく自分の行動が変わった。
昨日よりも今日の方が不確実性が下がっている状態にするために、今日何をするかを考えるようになった。

この行動自体はとても良い変化出会ったが、しかしこのやり方は行き当たりばったりであり、部分最適。後から振り返ってこの時足りなかったのは、全体設計であった。

CEOから「7回読め」と言われたベンチャー企業の仕事のバイブルであるリーンスタートアップに書かれていることを参考にして、まず最初の顧客を獲得することに取り組んだ。

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”月粗利をUPする”ための施策の1つとして、チカクの既存プロダクトであるまごチャンネルに保証をかける「保証プラン」を設計することにした。
▼まずは調査と社内アンケート
世の中にある保証プランの料金体系を参考にして内容と金額を設計し、社内15名ほどにアンケートをとって大体の価格感を決めた。
▼見込み顧客の獲得
さらにまごチャンネルを利用しているユーザーさん30名ほどにアンケートに答えてもらい「この内容と価格なら加入したい」という方を10名ほど得た。この人たちが見込み顧客である。
▼見込み顧客へのヒアリングでインサイトを得る
この10名に電話ヒアリングを申込み、うち3名から直接お話を聞かせてもらった。すると「離れて暮らす高齢の両親が使うモノなので故障した時にすぐに対応してやれないことが不安」「自分がアップロードしたデータが無くなってしまうかもしれないのが不安」といった思いがあるが故に保証に加入したい、という声があることがわかった
▼見込み顧客は、本当にお金を払うか?
ユーザーヒアリングで得たインサイトを元に、その不安に応えるソリューションとして保証プランの内容と金額を設計し、顧客獲得のためのランディングページを突貫で作成した。
(使用したのはGoogleサイト。そこに載せる絵はMac標準ソフトのKeynoteで作成。Windowsのパワポみたいなやつ。)
ランディングページを、先ほどの見込み顧客に提示し、実際にお金を払ってくれるかのテストを実施した。
するとアンケートで「保証プランに加入する」と答えた10名のうち1名が実際にお金を支払ってくれた。

(その時の鈴木翔の気持ち)
やった!1名が顧客になった! 
でも、やっぱりアンケートってあてにならないな…

▼どうしたらより多くの顧客を得られるか?
1名は顧客になってくれたが、他の顧客はどこにいるのか?(それともどこにもいないのか?)
それを探すため既存ユーザー100名を4つのセグメントに分けて、保証プランを紹介するメールを送信し、メールの開封率とランディングページへの遷移率、最終的な加入率(コンバージョン率)を計測した。
この時はコンバージョン率はゼロ(誰も加入しなかった)が、特定のセグメントではランディングページへの遷移率がやや高かったので(有意差が得られるほどの数がないので誤差範囲だが”なんとなく高そう”なレベル)、そのセグメントに刺さりそうな文章にメールの文面を改訂して、同じセグメントの別のユーザーにアタッチしたところ、お金を払って保証に加入する顧客を獲得することができた。

この時点でレンタル移籍開始から2ヶ月ほど経っていた。
ようやく成果が出始めたな〜、と思ってしまったのが、良くなかった。
ちょっと成果が見えてきたのでそこをさらに深ぼっていくことに工数をかけたのが失敗だった。。。

実は、この保証プランを実現するだけでは、そもそも掲げている目標である「”ユーザーあたり月粗利を●円向上させる”ための検証を完了する」を達成することはできない。それは頭ではわかっていた。しかしそれでも目の前で進んでいる、小さいけれどもわかりやすく成果が出ること(保証プランの開発)に入れ込んでしまった

結果的に2020年3QのOKRが終わる3ヶ月後の9月末時点では「保証プラン」はサービスローンチ直前まで進めることができた。しかし、やはり、そもそもの目標であったKR(Key Result)「”ユーザーあたり月粗利を●円向上させる”ための検証を完了する」は達成できなかった。
KRを達成することに対するコミットメントがチカクというベンチャー企業を非連続的な成長をさせるために絶対に必要なこと。小さな成功を積むのは大事なことではあるが、その成功は会社にとってインパクトを与えるレベルのものなのか? それを真剣に考えることをせずに、3ヶ月間の仕事を進めてきてしまった。

ここから反省

なぜ、私は、本来の達成すべき目的を達成することにコミットせず、インパクトの小さい仕事に一生懸命取り組んでしまったのか?
それは旭化成で慣れ親しんだ仕事のやり方で進めてしまったことが1つの原因であった。

最も大きな違いは目標設定・管理手法の違いだと感じる。

旭化成では目標設定・管理手法にMBO(Management By Objectives)を使っている。これは「頑張れば実現できそうなやや難しい目標を設定し、1年後に確実に成果をあげる」「1年間頑張って120%の連続的成長を目指す」もの。

一方でチカクではOKR(Objectives and Key Results(目標と主要な結果))を使っている。これは「普通にやったら到達できない、成功確率が30〜50%の目標を設定し、日々のストレッチゴールを達成し続けることを促す」「3ヶ月フルコミットして300%の非連続的成長を目指す」もの。

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そもそもMBOとOKRでは達成すべきことが異なるので「どちらがいい、わるい」という議論は意味がない。

だがこれらの違いは大きい。
300%を達成するには、120%を目指していては到底届かない。
私がこの3ヶ月で取り組んできた「保証プラン」はチカクという会社にとって初のアップセル施策としてサービス実装できそうなところまで進んでおり、成果ではあるが、その成果とはせいぜい120%。連続的な成長に留まる。

この3ヶ月の間に自分自身でも「保証プランが実装できてもそれだけでは目標には届かない」ことはわかっていたし、チカク社員からも「保証プランよりも、こっちの別の施策の方が売上・利益に対するインパクトが大きいとあなた自身が言っているのにどうしてそれをやらないのか?」と問われていた。

振り返ってみると、別の施策に手を出して何も成果が出ないことが怖かった。だからやりやすく、確実に成果が出そうなこと(=保証プラン)にまずフォーカスしたのだが、それが結果的に「より大きなインパクトを得られる可能性のある施策の開発にコミットする機会」を奪ってしまった
これは自分から目標を達成することを放棄する選択であった。

では、どうしたらやりやすい方に逃げずに高い目標にフォーカスできるだろうか?
まず、チカクでも採用しているOKRという目標設定・管理手法は高い目標を達成するのに役に立つと感じる。
旭化成には劇薬に近いかもしれないが(実際、私自身はこのOKRに放り込まれた3ヶ月中ずっと辛かったし、そして今は次期OKRに入っていて今もしんどい)、これをうまく運用できれば、新規の開発案件や事業化プロジェクト、社内変革プロジェクトなどの成功確率を高められる可能性はあると感じる。

とはいえ私自身は2020年3QのKRは達成できなかったのだが、その原因の1つは目標設定が曖昧だった、ということが挙げられる。
「月粗利を●円UPするための検証を完了する」という目標は、どういう状態になったら達成したと言えるのか? 最初のうちそれが分からず、そして分からないまま放置して仕事を進めてしまった。達成すべき姿を描けていないのに達成することなんてできない。ゴールの見えないマラソンで日々全力疾走することになる。それでは息が続かないし、途中で楽な方に逃げてしまうことにもなりかねない。そして実際に私はそうなってしまった。

今思い返すと
「目標達成のためには目標達成に強くコミットする」ことが最重要で、
そのために
「達成すべき目標を具体的、かつ、計測可能にすること」が必要である
と感じている。

ゴールはどこなのか(具体的に)、今日の仕事でそのゴールに近づけたのか(計測可能に)、しておくことで、ゴールに到達する以外のことを考えなくて良くなる。
成功確率が30-50%の目標を達成するためには、余計なことは1つもしてはいけない。目標達成に必要なことだけを、しなければならない。そのためには追うべき目標・ゴールを明確にするのは、最低限必要なことであり、最も必要なことでもある。今はそうやって考えられる。

まとめ

ベンチャー企業は非連続の成長をしなければならない立場(資金が尽きる1.5年後までにジャンプできなければ死ぬ)。日々のストレッチゴールが必要。それを支援するためにOKRという目標管理制度を使っている。これは強力な手法である。

ベンチャー企業の仕事のやり方は連続的成長を着実に遂行していく大企業とは大きく異なる。大企業のやり方に(意識せずとも)慣れ親しんできた私にとっては、すごくしんどい。ものすごく揺れる船に乗り込んでめちゃくちゃに船酔いしているような感覚。この先どこに進むのかが分からず足下がおぼつかない。でもこれは「慣れ」ていけるような気もする。

残り9ヶ月。どう考えても成長することしかできないので、また気合い入れて頑張ります。


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