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Dubai Future Forum 参加報告2

2022年10月10-12日に、ドバイで開催されたDubai Future Forum
そこで開かれていたセッションについても、触れていきたい。自分以外に日本人の参加がなかったようなので、アジェンダだけでも多少は貴重な記録になるかと思い、ここに記す。

開幕日<Day 0>のディナーでは、

HE Khalfan Belhoul|Chief Executive Officer, Dubai Future Foundation
(ドバイ未来財団 最高責任者)

が挨拶をした。HEは、His Excellencyの略なので、ドバイの政治の中枢にいる人物ということになる。僕がダボスでご挨拶したのもこの方であり、というのも、肩書きがどうというより、セッションでの佇まいや発言がとても魅力的だったからだ。今回、ディナーの際に隣に座っていたRichardが「彼はすごいカリスマがあるね」と僕に耳うちしてきたのも、わかる。


ディナー中のスピーチは、

テーマ:“Senseable Cities”
Carlo Ratti|Director, MIT SENSEable City Lab
(マサチューセッツ工科大学「SENSEable City Lab」ディレクター)

* 参考記事:https://www.axismag.jp/posts/2021/06/385004.html

だった。「未来といえばMIT」なイメージがあるのは、そのブランディングの成果だろうか。

<Day1>は、9:00〜16:30まで一日がかりだ。

KEYNOTE FUTURE:
"A GLOBAL OUTLOOK Why Must Foresight Evolve?"

未来へのキーノート:
グローバルな視点から、未来をよむ目を養う必要性を考える

Amy Webb|Chief Executive Officer, Future Today Institute
(「Future Today Institute」最高経営責任者)

*参考記事:https://www.nelco.com/ja/article/sxsw2022_techtrends/

キーノートは、エイミー・ウェブだった。彼女は僕が10年ほど前に参加した米日財団のリーダーシッププログラム(USJLP)のメンバーでもあり、意外なところで出会うこととなった。彼女は「フォーサイト(洞察)」の専門家であり、スピーチの内容は、政府であれビジネスであれ社会であれ、それが意思決定に十分に含まれていないということを指摘する内容だった。人々に「ウェルビーイング(Well-being)と幸福(Happiness)」がもたらされることの重要性を説いていた。また、「Now-ism is virus」という言葉もあった。グッド・アンセスターでも強調される、「現在主義」の短期思考を避けることだ。

「フォーサイト」を4段階目に進化させる時が来た、との話。1段階目はImagining(想像する), 2段階目はCalculating(計算する)、3段階目はExploring(探索する)、4段階目はActioning(行動する)であり、つまるところ、4段階目にアップグレードするということは、アクションしようという呼びかけだ。では、その4段階目で必要となるのは何かといえば、

  1.  The Actioning Era requires a new type of scenario.
    新たなシナリオを行動していく時代を迎えた

  2.  This Era requires action and measurable impact.
    ここでは、行動すると同時に、そのインパクトの測定が求められる

  3. The Actioning Era requires education.
    それに必要なのは、教育である

ということ。新しいシナリオプランニング、アクションとその結果を図る指標、そして教育が必要となる。洞察は、以下の二つの目標を同時に達成するものでなくてはならない。

  •  How do we make this preferred future real?
    いかに望ましい未来を実現するか

  • What are the mechanics of getting it done?
    それを実現するためのメカニズムとは

最後に、「オープンソース」に触れていた。“Consider open sourcing your method/tools”ということで、自分の持っている方法論やツールはぜひみんなと共有しようという呼びかけだ。

▼ AmyWebbによるプレゼン資料は、以下サイトよりダウンロード可能。




以下、参加したセッションのテーマを紹介する。

How Can Governments Mitigate Challenges Through Foresight?

政府はForesightにより、いかに課題を軽減し得るか?

In the wake of various global shocks, including the Covid-19 pandemic and the international supply chain crisis, strategic foresight is clearly becoming a critical policymaking tool for governments around the world looking to assess uncertainty. This panel showcases the way foresight practitioners in government have used foresight to identify and respond to a broad range of risks.

パンデミックや国家間の供給危機など、数々の世界的衝撃をもたらす波のなかにあって、今、明らかに「戦略的先見性(strategic Foresight)」は、不確実性を認める各国政府にとって、重要な政策決定ツールとなりつつある。本セッションでは、これまで政府の内からForesightをもって幅広いリスクを見極め、対応を取ってきた実務者らを招き、その実例を紹介する。

< パネリスト>

  • Sophie Howe|Future Generations Commissioner for Wales
    (英国ウェールズ 未来世代コミッショナー)

  • HE Abdulla Nasser Lootah|Director General, Prime Minister's Office UAE
    (アラブ首長国連邦首相官邸 局長)

  • Jeanette Kwek Huixian|Head, Centre for Strategic Futures, Prime Minister's Office Singapore
    (シンガポール首長官邸 戦略的未来センター長)


ここに登壇したSophie Howeは、ウェールズ地方の「未来世代コミッショナー」であり、「グッド・アンセスター」とも縁の深い人だ。トークの中で、「グッド・アンセスター」への言及もあり、グッと親しみを感じた。


その後、いくつか記事を調べてみたところ「グッド・アンセスター・テスト」という言葉があり、興味を持った。

”the good ancestor test”


もう少し詳しく話を聞きたかったのだが、残念ながら、その後、フォーラム会場で出会うことができず、心残りだった。

Will Borders be Relevant in the Future?

国境は未来に通用するのか?

Traditionally, citizenship was considered an important part of individual and social identity, whether national or regional. Nevertheless, the vast channels of immigration across countries, and across generations, are transforming the conventional models of citizenship. This panel will invite experts to discuss whether citizenship, diplomacy and geography can be unbundled to allow for truly global citizens in the future.

これまで長きに渡り、国や地域を問わず、「市民権」とは個人と社会のアイデンティティを支える重要な一部として考えられてきた。しかし、国や世代をも越えてゆく「移民」の大きな流れによって、従来の市民権のモデルは変容しつつある。本パネルでは、市民権、外交、地理的な制約をほどくことにより、将来、真のグローバルな市民権を獲得することができるのか、専門家らを招いて議論する。

一人の登壇者が、「このフォーラムで、あなたはどこからきたの?と尋ねるのは、不思議だ。未来のフォーラムなのに、過去を聞いている。どこで”feel at home”を感じられるか?という質問の方がいい」と言っていた。言われてみれば、確かにその通りだ。

そういえば最近、自分が企業研修を依頼されたときに掲げているテーマが、ゴーギャンの絵のタイトルでもある「私たちはどこからきて、私たちは何者で、私たちはどこへいくのか」という言葉だ。これは、僧侶の立場から、参加者に対して、自分の人生を超えた長期思考へと誘うのに良いタイトルだと思って使っているのだが、この言葉の観点からすれば、僧侶というのは過去に生きた先人たちを扱うだけでなく、Futuristでもあるのだと思った。

What is the Biggest Existential Risk that We are Facing Today?

私たちが直面している、最大の存続危機とは?

In this session panelists will explore the key existential ‘risks’ facing humans today and how, if at all, these risks could perceivably be mitigated. Panelists will navigate through low-probability high-impact risks and estimate the potential capabilities of future technologies in enabling us to face these risks.

本セッションでは、人類が今日直面している肝となる存続危機について、また、それらをいかに軽減できるかを探る。パネリストらは、可能性は低くとも大規模なインパクトを与える危機について、また、それらに私たちが応じ得る未来のテクノロジーの潜在能力について検証する。

<パネリスト>

  • Dr. Anders Sandberg|Senior Research Fellow, Future of Humanity Institute
    (オックスフォード大学 「Future of Humanity Institute」シニア研究員)

  • Josef Hargrave|Director and Global Foresight Leader, Arup
    (エンジニア・コンサルティングArup ディレクター&グローバルForesightリーダー)

人類の生存に関わるリスクについてのセッション。いろんな数字や予測も出てきたけれど、結局のところ「正確には誰もわからない」ということであり、もちろん、それでもなおできるだけ解ろうとする努力は大事だとしても、どんな専門家をしても「わからない」ところに立っているという自覚を持つことが、より大事だと思った。

Can We Depend on a Sustainable Energy Future?

持続可能なエネルギーの未来に、私たちは依存できるのか?

The ongoing energy transition has been identified as a key policy priority globally. However given that some countries may be better prepared to transition to more sustainable energy alternatives, others may have more difficult choices to make and forgo development. This debate will invite experts to weigh the energy transition against the argument for economic growth and prosperity.

現在各地で進められているエネルギーシフトは、世界的に優先度の高い政策として認知されている。しかしながら、より持続可能な代替エネルギーへの移行に適した国々がある一方で、より困難な選択を迫られ、開発を見送る国もあるかもしれない。本セッションでは、専門家らを招き、エネルギーシフトの取り組みと、経済成長や繁栄との関わりについて比較検討する。


登壇者の一人に宇宙開発事業に携わっているメンバーがいて、地球資源の有限性と、宇宙資源の可能性の対比が議論に出てきたところが、聞きどころだった。

Why Experiencing the Future will Save Humanity?

なぜ、未来を体験することが人類を救うのか?

Once the frontier of foresight practice, they are now an essential part of hundreds of companies and consulting toolkits. Where does it come from? What are its goals? And how is it currently practiced, theorized, and delivered? Two of experiential futures “founding fathers” discuss its origins, evolution and future. Panelists will also discuss the shift from theory to practice in creating real experiential futures through the Museum of the Future.

かつて、Foresightの実践のフロンティアにあったものは、今や世界中の企業やコンサルティングが用いる、欠くことのできないツールとなっている。「どこからきて、どこへ向かうのか。現在どのように用いられ、いかに理論化され、広まりつつあるのか」体験型未来の「生みの親」である2人が、その起源、進化、未来について語る。また、この「Museum of the Future」を通じて、真の体験型未来を創造するために、理論から実践へ向かう転換についてパネリストたちが議論する。

<パネリスト>

  • Dr. Stuart Candy|Director, Situation Lab at Carnegie Mellon
    (米国カーネギー メロン大学「Situation Lab」 ディレクター)

  • Brendan McGetrick|Creative Director, Museum of the Future
    (ドバイ「未来博物館」 クリエイティブディレクター)

  • Dr. Kristin Alford|Director, MOD, University of South Australia
    (南オーストラリア大学「MOD」 ディレクター )

登壇者の一人のStuart Candyは、カーネギーメロン大学所属の研究者で、オーストラリア出身、なんとグッド・アンセスターの著者であるローマンの友達もあった。その関係で、Long Now Foundation(長期思考をテーマとする財団)のメンバーでもある。終了後、立ち話をして、繋がりも作れた。

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