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伊藤亜紗×松本紹圭×花井優太「より良い未来を作るための合意形成会議」

先日、東京下北沢の書店『本屋B&B』とビジネス&カルチャーブック『tattva』の企画で、東京工業大学 未来の人類研究センター長 伊藤亜紗さんと対談する機会をいただいた。伊藤さんとは、同センター主催の「利他プロジェクト」でご一緒させていただいたことはあったものの、ゆっくりお話するのは今回が初めて。テーマは「より良い未来を作るための合意形成会議」。対談の様子を、一部ここでシェアしたい。

 *当日の録画動画はアーカイブ視聴も可能です(有料)。


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いい話し合いって、なんだろう


花井(『tattva 』編集長)
『tattva』2022年7月号での特集「生まれるうちあわせ。いい会議。」では、お二人それぞれにインタビューさせていただきました。人と対話をする際に、直線的に考えて結論を急ぐようなことをせず、相手のなかに流れる「感覚」や「時間」をいかに配慮して発話をするか。その辺りが、お二人のお話の共通点だったかと思います。

ビジネスシーンに寄せるなら、「部下は上司に思ったことを言える。上司ははっきり意見を伝えつつ、部下の思っていることを引き出せる」ということになるでしょうか。これはある意味、上司/部下という上下関係の設定が前提にある表現かもしれません。そもそも「いい話し合い」とは、いったいどんなものでしょう?


松本紹圭(以下、松本)
私が最近取り組んでいる「産業僧」事業では、多くのストレスを抱える現役世代の方々にこそ、仏教の生きる智慧に触れてもらえたらと、企業の経営者や働く方との1on1の対話をしています。

僧侶との対話は、場合によって「ケアリング」にも「コーリング(眠らせているものに呼び掛ける)」にもなりえます。仕事をするうえで上司/部下の関係性にロックインしていると、心の声を出しにくい。誰であれ、役割にはまり込んでいれば「立場に立たねばならない」思いから、なかなか話ができなくなったりするものです。

私も「僧侶」という一つのゲームを生きています。産業僧対話では「僧侶/クライアント」という関係に乗ることをせず、対話を通じて一緒に役割から降りる時間を過ごします。日常にありながら「出家」をするような、出家的時間と捉えています。

「会社の役割」を担いながらも、そうしたゲームを生きる自分を会社の外からみる視点が大切で、自分が望めば、そこから降りることも可能なわけです。会社が世界のすべてではなく、会社の自分も自分のすべてではありません。「メタ的視点」というのでしょうか。会議の場でも、そうした視点をもって対話できるといいですよね。


伊藤亜紗(以下、伊藤)
仕事柄、場をファシリテートする機会がよくあります。会議を通して自分を発見できたり、変化を感じられると充実感を覚えるし、終わった時に「よかったな、楽しかったな」と思いますよね。人は、意見を持っているようで実はあまりなかったり、意見があってもその背景や根拠を自覚できていないことは結構あるなと思うんです。

例えば、「ここにビルを建てるのは嫌だ」という時に、なぜそう思うのか、本人もよくわからずにいたりする。説明できる(根拠のある)ことって、結構表面的なレベルのことで、「説明できないようなこと」こそがその人をつくると思うんです。人には根拠のある(理由の言える)ものと、根拠がない(理由の言えない)ものとがあって、会議とは、そのせめぎ合いのような場です。

意見の背景にあるものが話しながら見えてくるとき、何かが自分の中で変わっていて。背景がわかることで、他の人との妥協点もうまく見つけられたりするものだなと。そうした意味でも、(もしかしたら「先祖」といったことを含めて)その人の「地層」のようなものにコーリングすることは、会議の本質なんじゃないかと思います。

私自身、進行役をしながら意識しているのは、「これまでされたことのない質問をしてみよう」ということです。その人の心は、どういうところに宿っているか。暴力的でない方法で人の心に入っていくことができる時、それは「いい会議」になっているだろうなと思います。

「話し合うこと」って、なんでしょう?


花井
「エデュケーション(教育)」の語源は諸説あるなか、「引き出す」という意味もあるとか。仏教は、「話し合うこと」をどのようにみているのでしょう?

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