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私がみる循環葬 <後編>

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世界の動きと、ヒューマン・コンポスティングという選択肢

今から6年前、金沢21世紀美術館で「DeathLAB:死を民主化せよ」(期間:2018年7月7日-2019年3月24日)が開催された。建築家のカーラ・マリア・ロススタインは、2013年に米国コロンビア大学大学院に「DeathLAB(死の研究所)」を創設。宗教や民族を超えた新たな葬送について、建築、宗教学、地球環境工学、生物学といった多分野から横断的に研究し、死の扱い方について、人々の意識を足元から掘り起こすような問いを投げかけた。

今、新たな死の引き受け方は、世界各地で沸いている。

<Recompose -米国->
カトリーナ・スペード氏は、葬儀社「Recompose(リコンポーズ)」を立ち上げ、人間の遺体をバイオテクノロジーを用いて微生物による分解を促す「還元葬」の装置を開発。遺体を堆肥にし、大地に戻す葬送は「ヒューマン・コンポスティング」とも呼ばれる。ワシントン州は2019年、この葬送法を「Natural Organic Reduction(自然有機還元葬)」として認める法律を制定し、2020年に施行。現在、米国では7つの州で合法化され、スタートアップ企業を中心に有機還元葬(堆肥葬)を扱う場所が増えているという。
[ Recompose https://recompose.life ]

<私の土 -ドイツ->
ベルリンのツェルクラム・ヴィテ社が提供する「マイネ・エアデ(Meine Erde=私の土)」は、遺体を藁や木くず、活性炭などの中に保管し、約40日間かけて堆肥化する。棺はドイツ北部メルン市の墓地の礼拝堂に補完され、堆肥化のプロセスはセンサーの管理下にある。埋葬件数は、2023年時点では5件のにとどまるが、ライプチヒ大学病院法医学研究所による調査研究が続けられ、施設の増設も検討されている。
[ Meine Erde https://www.meine-erde.de/ ]

<LOOP -オランダ->
オランダの国立デルフト工科大学の学生が設立したスタートアップ企業「Loop」が提供するヒューマン・コンポスティングは、キノコの根の菌糸体を素材にした棺に遺体を納める。棺自体は30〜45日でなくなり、遺体は2~3年で生分解され柔らかな土と骨だけになるという。
[ LOOP https://www.loop-of-life.com/ ]

<ハヤチネンダ -岩手・遠野->
岩手県遠野に拠点をおく「一般財団法人ハヤチネンダ」。創業者の今井さんは、1980-90年代、都心の大規模霊園開発事業のマネジメントに携わる。「死」に資本主義経済の市場原理が介入していく只中に身をおきながら、根源的な疑問を抱き、市場経済から遠いところへと拠点を遠野へ移された。神聖な山々に連なる大地や動植物たちと共に、個に閉じない<いのち>を捉え、新たな葬送のあり方を探る。里での暮らしを終えれば、いずれ山へとかえってゆくという死生観を耕しながら、自然の一部として巡る生命観に馴染む「あたらしい経済」を創造している。
[ 一般財団法人ハヤチネンダ https://hayachinenda.org/ ]

<RETURN TO NATURE -大阪・妙見山->
大阪・妙見山で循環葬の取り組みを始めた「RETURN TO NATURE」は、「森と生きる、森に還る、森をつくる」をテーマに死者の遺骨を森に還し、森づくりにつなげる活動を行っている。生前から森林浴の場として森に身を置き、遺族や仲間によるお墓参りも森林浴となる。エコロジカルという目的に留まらず、生命に宿る自然観、死生観に準じた社会のあり方そのものに問いかけ、多様な視点からの学びを深めながら、一人ひとりの手元からできる生活習慣や行動様式の提案を行っている。
[ RETURN TO NATURE https://returntonature.jp/ ]


潜在的にあったニーズに応えるように、ヒューマン・コンポスティングを含め、新たな葬送を形にしようという動きは各地で広がりを見せている。国土の7割が森林と言われる日本であっても、林業の衰退や管理者の高齢化によって放置森は広がっている。こうした生命の源から湧き出るような循環葬をめぐる取り組みは、結果として、昨今の無縁墓や放置林といった、社会システムで拾いきれない問題にダイレクトに応えている。
 

アンチテーゼから、既成概念がほどかれてゆく

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このnoteマガジンは、僧侶 松本紹圭が開くお寺のような場所。私たちはいかにしてよりよき祖先になれるか。ここ方丈庵をベースキャンプに、ひじ…

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