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スティーブン・バチェラーさんを迎えて

11月、仏教思想家のスティーブン・バチェラーさんが来日をされ、週末には築地本願寺で行われた対談の機に立ち合った。

スティーブン・バチェラー|Stephen Batchelor
1953年 スコットランド生まれ。大学進学をせずインド・ダラムサラへ渡り、チベット仏教僧として3年間の研鑚を積んだ後、スイスにて修行を行う。その後、韓国曹渓宗の僧院で三年間の禅仏教を修学。現在は作家として多くの仏教関連書籍を執筆する他、世界各地で講義やリトリートを開催。近年はオンラインでの学びの場も開かれている。著書に『ダルマの実践―現代人のための目覚めと自由への指針(世界からの仏教―アメリカ篇)』(2002年 四季社、藤田一照訳)他多数。
Wikipedia:https://en.wikipedia.org/wiki/Stephen_Batchelor_(author)


彼は「セキュラー・ブディズム(世俗的仏教)」の提唱者で、チベット仏教や韓国の禅仏教の僧侶として10年以上にわたり修行を重ねて来られた方だ。現在は僧侶としての活動はされていないが、宗教を超え、世界各地の人々に仏教の考え方や世界観を伝えている。

「セキュラー(secular)」とは「世俗の」と訳されることが多いものの、「世俗」という言葉自体、その意味する範囲は多様で捉えにくい。「secular」の語源を辿ると、「時代に応じた」といった意味合いに当たるらしい。仏教が2500年前のインドを起源に、時間と場所をわたりながら、その広がりに応じて解釈の仕方や伝わり方が多様に生まれたように、その過程で常に問われているのは、「今を生きる私たちの日々の暮らしに、いかに生かされるか」ということだろう。スティーブンさんは、そのことをあえて僧侶の姿を取らず、世界各地の方々と共に探求されている。

仏教が示す「四聖諦(ししょうたい)」とは、苦諦(くたい)、集諦(じったい)、滅諦(めったい)、道諦(どうたい)という4つの「諦」を表す。「諦」とは、迷い苦しみを生む英語では「Four Noble Truths」と表現されるが、「諦/Truths」について、スティーブンさんは「タスク」と捉え、説明されている。

【四聖諦】について
(プラユキ・ナラテボー師による解説より)
「生きることは苦でありながら、人間が苦から解消されることは可能であると示した「四聖諦」はブッダが説かれた人生における真理です。四聖諦の教えでは、苦を<苦諦・集諦・滅諦・道諦>という四段階に分け、苦の「認識」と「解放」のそれぞれに、因果の関係をみています。苦しみを明らかにして(苦諦)、その原因を見極める(集諦)。苦からの解放があることを示し(滅諦)、いかにして苦を解決していくか(道諦)をブッダは説かれたわけです。こうした苦を取り巻く因果関係を包括的に把握できるようになると、苦も智慧となっていきます。」

*引用元:interbeing社 「産業僧勉強会~プラユキ・ナラテボー師にとっての産業僧対話とは?」



こうした仏教の知恵は、ともすれば、思考で理解する「教義」に収まりがちだ。どうしたら、私たちの日々の行動(アクション)が伴うこと(=できること=タスク)として暮らしや人生に取り入れ、活かせるか。これは、私を含むすべての現代の僧侶にとっても共通のテーマだろう。


今回の築地本願寺での対談をはじめとする一連の旅は、創立100周年を迎えた武蔵野大学の記念プロジェクトの一環で実現した。


これまで、チベット仏教や禅宗から仏教を学ばれてきたスティーブンさんに、ぜひ、今回を機に浄土真宗や親鸞の教えにも触れていただきたいと思っていた。滞在中は、浄土真宗本願寺派の本山である京都・西本願寺や、親鸞聖人が20年間修行をされた比叡山へご案内したほか、浄土真宗の僧侶の方々との交流の機会もご一緒いただいた。


京都・大原三千院にも

親鸞聖人は、もともと僧侶でありながら、否僧否俗(「僧侶」でもなく、僧侶ではないいわゆる「俗人」でもないところ)に身をおいて、世俗の暮らしをしながら念仏の仏道を生涯歩まれた方だ。そうした親鸞の伝える仏教は、自身のテーマ「セキュラー・ブディズム」の系譜に自然と接続していることを、一連の体験を通して感じ入ってくださったようで、「親鸞聖人は、世界で最初のセキュラーブディストなんじゃないか」ーーそんな洞察を、私たちに共有してくれた。

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