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流域民

私が尊敬する経営者であり友人の、YAMAPの春山慶彦さんが、「流域地図」をリリースした。

YAMAPは「登山アプリ」の会社として急成長を続けているが、春山さんの思いはアプリの先の山や森にある。そのビジョンを誰の目にも見えるように具現化したものが、この流域地図なのだろう。

私はコロナ禍の時期に縁あって、滋賀県のメンバーを中心としたクローズドな少人数の勉強会に参加させていただき、たくさんの有識者のお話を聞いたが、その時にも何度も出てきたのが「これからは、水が大切になるし、人為的に線引きされた都道府県民の意識ではなく、同じ水資源や文化を共有する流域民の意識が大事」ということだった。

この流域地図を見ながら、滋賀県を中心とした琵琶湖流域民の一人として、「流域民としての意識」を高めるのにどんな呼びかけができるのか、文章を書いてみた。

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水は生命の源だ。
2023年3 月、国連水会議がニューヨークで開催された。会議では、世界的な水危機に対する画期的な対応がなされ、各国政府・企業・市民社会が、持続可能な開発全体を加速させる上で鍵を握る「水行動アジェンダ」を推進するために数十億ドルを拠出することを約束した。世界の中でも水に恵まれた国と言われる日本も、もともと地形的、気候的な要因で安定的に水を利用するのに適した地域とはいえないが、治水技術の発展と、水資源開発施設や水供給施設の整備などによって、現在は安全な水の安定供給が可能となっている。株式会社YAMAPが公開した「流域地図」を見ると、かつての藩の形が浮かび上がってくる。廃藩置県によって人為的な線引きがなされる以前、水の流れはそのまま文化の流れだったのだ。気候危機の中、水資源の重要性を説く識者の中には、今こそ置藩廃県すべきと説く声も小さくない。


中でも琵琶湖・淀川流域圏は、琵琶湖や淀川に流れ込む雨や雪が降る範囲と、洪水で川の水が氾濫したときに影響をうける範囲と、琵琶湖と淀川の水を利用している地域のことで、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県の2府4県にまたがっている。琵琶湖は、日本最大の湖であるとともに、400万年もの歴史をもち、世界で3番目に古い湖と考えられている。この永い歳月の間に、琵琶湖は独自の生態系を育み、世界中でも、ここでしか見ることのできない固有種は、魚類を中心に58種類にのぼる。琵琶湖の水は現在でも、近畿で暮らす1450万人が水道用水として利用する貴重な水資源となっているが、古代湖としての歴史を考えれば、これまで途方もない数の生命を育んできたのだ。琵琶湖の流域民である私たちは、府県民や市町民である前に、祖先から受け継いだ水の里に暮らす、水の民である。

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このnoteマガジンは、僧侶 松本紹圭が開くお寺のような場所。私たちはいかにしてよりよき祖先になれるか。ここ方丈庵をベースキャンプに、ひじ…

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