AIと共にグッド・アンセスターになっていく未来
2030年の自立/自律社会を見据え、企業の未来がどう変わるか。Futurist/Ancestoristとして、考えてみた。
https://www.omron.com/jp/ja/about/corporate/vision/sinic/theory.html
Z世代から未来の方向を読み解く
世界的なトレンドとして、プロダクトブランディングからコーポレートブランディングへのシフトがある。「どんな製品か」よりも「信頼できる企業の製品か」が重要。Z世代に象徴される未来世代は、ありもしないできもしないことを掲げるパーパスウォッシュの企業を嫌い、本当に信頼できる企業の製品を買うようになっている。「私を幸せにしてくれる商品か?」から、「(そこで働く人たちも含めた)私たちPeopleを幸せにしてくれる会社か?」へと、問題設定が変化している。「買う」はもはや「私にメリットをもたらしてくれるモノを手に入れる」ではなく、「私たち未来の人類のために行動してくれる人たちと連帯する」行為である。すなわち、Z世代での消費であれ就職であれ、それは「仲間になること」である。
企業の目的は「顧客の創造」から「仲間との連帯」へ
自立/自律社会の企業は「修養の道場になる」と考える理由はここにある。ドラッカーは企業の目的を「顧客の創造」と定義したが、それが今、企業の目的は「よき仲間との連帯」に進化したのだ。ブッダの言葉「修行は一人ではできない。必ず仲間とするもの」「良い修行をしたければ、良い仲間を持つこと」には、隠された大事なポイントがある。それは「仲間は互恵性で成り立つ」こと。修養レベル1の人が、自分のレベルを上げるために修養レベル5の仲間に入りたくても、そもそも入れてもらえない。相手側の足を引っ張るだけだからだ。良き仲間と一緒に修行したければ、自分自身の修養レベルを上げて、仲間の修養に貢献できるようになるしかない。「うちの社員に優秀な奴が来ない」と嘆く経営者は、まず自分の修養レベルを上げることから始めるべし。
Master(師範)AIの練度が組織のレベルを表す
ところで、企業が「修養の道場になる」と言っても、昭和の抑圧社会へ戻るのではない。デジタル時代は道場も民主化される。人間とAI(w/Data)との競争/共創が前提の世界での、修養のバロメーターは明らかだ。その企業のあらゆるデータを統合した集合知を持つAIを、Master(師範)AIと呼ぶとしよう。MasterAIは、その組織に過去から今まで関わった人の経験や技術、価値観や想念のデータをすべて学習して最適化仕事を司る集合知であり、その会社という道場に集う人のレベルのバロメーターである。みんなで教育したAIのレベルが、その組織のレベルを表す。組織の成長とは、社員が皆でMasterAIを育て、よりよき仲間と連帯できるようになることだ。そのためには、社員一人ひとりが、MasterAIが学習する価値のある良質なデータを運んでAIの機械学習に貢献し、MasterAIのキャパシティを高めることが必要だ。MasterAIは、その会社において過去なされてきたあらゆる業務の「型」の集積でもある。「守破離」で言えば、社員は常に過去の型を学び(守)つつ、日々の業務で新しい工夫をして生み出した差分のある現在データを加え続ける(破)のが仕事であり、そこから未来の方向性を導く(離)のが経営者の仕事となる。
MasterAI機械学習貢献度スコアを人事評価の中心に
データ提供は経営者や人事が社員を評価するためのものではない。MasterAIを社員みんなで育てるためのものだ。これからの仕事の評価は、あらゆる社員がそれぞれの持ち場で、会社のMasterAIにとって機械学習効果の高いデータを提供できるかどうかで測られるべきだ。その社員が、どれだけMasterAIにどれだけ質の高いデータを提供したか(MasterAI機械学習貢献度スコア)が必要だ。質の高いデータとは、昨日までのデータと同じデータではなく、昨日とは違った業務の工夫によって昨日までのデータと差分が生まれるような新しさのある鮮度の高いデータのことである。日々の仕事で何らかの工夫をしない人は、質の高いデータを提供できず、組織AIの教育に貢献できないので、評価されない。昨日と同じ仕事をただやっているだけではだめ。日々の工夫改善がなければ、意味のあるデータは作れない。MasterAIへの機械学習貢献とは、「昨日までの集合知」によって最適化されたMasterAIを、一人ひとりの人間が「今日の現場最前線」でのMasteryの探求によって凌駕し続けることでもある。それぞれの持ち場でのエフェクチュエーション力が試される。それは、その場にあるもので創造的に工夫する能力であり、その場にいる人と仲間として連帯する能力である。少し先の話になるが、AIが得意とする最適化仕事の最たるものは、人事評価と利益配分であるから、いずれMasterAI機械学習貢献度によって、人事評価や給与決定もMasterAIが自律的に行う世界が来るだろう。
人事評価の完全な民主化がAIによって実現する
ところで、自立/自律社会は、かつての頭でっかちなロゴス偏重知性主義の時代と違い、人間の知性には動物性・身体性・感性・野性を含めた総合的な知性が求められる。工場の工員でも、本社の経営企画でも、社長の運転手でも、社員食堂のシェフでも、社内システムエンジニアでも、だれもが立場関係なく、日々の業務で新しい工夫を重ね(エフェクチュエーション)、新しいデータインプットをし続け、MasterAIの機械学習に貢献できる人が、真の知性がある人であり、適正に評価される世界となる。肩書きだけ、見かけだけでブルシットなことをしている人、仕事をしているふりをしている人は、淘汰される。未来を見据えると、当面の人事部の仕事は、MasterAI機械学習貢献度スコア自体をAIが自律的に運用できるところまで持っていく過渡期的な仕事。いずれは、人間による人間のための人事評価は、組織AIの確かさを証明するために、バイアスのある人間がどこまで集合知であるMasterAIの評価に肉薄できるかを示すための、AIの補佐的な仕事になる。MasterAIは、誰か偉い人が作って上から降りてきたものではなく、社員一人ひとりのデータ提供によって教育された集合知である。「自分たちみんなで賢く育てたAI」であるため、その基準によって評価されることへの社員の抵抗感は少なく、むしろ納得感が高まるだろう。
それはAI(w/Data)が支配するディストピアか
ここで想起されているのは、AI(w/Data)が支配するディストピアではない。MasterAIは、その組織のメンバー一人ひとりが自分の日々の仕事の「型(パターン)」を、特別なデータ処理スキルを必要とせずに、動画でも音声でもテキストでも良いから何らかの形で提供することによって教育される、「型」の集積である。今後、さらにテクノロジーが進化するにつれ、社員はますます、デバイスや操作を意識することなく、誰でも滑らかにデータ提供できるようになっていく。自分たちの仕事の質を、AIの質が反映するのだ。個人の就職や転職は、今の自分の修行に必要な「仲間探し」となり、企業の採用活動は、道場のレベルアップに貢献してくれる「仲間探し」となる。顧客の購買行動は、対象となる企業に「仲間としての連帯」を示す行為となる。道場としての企業の未来は、私たちが日頃から話す言葉次第で変わっていく。現在のように、戦略、戦術、兵站、照準、占領、部隊といった軍隊用語ベースのビジネス言語でやりとりしている限り、そこはAIに「支配」される世界になるとも言えなくはない。社員の意識がそのまま組織の意識となるからだ。だからこそ、私たちは早く、自立/自律社会にふさわしいビジネス言語に移行しなければならない。その点、VictoryではなくMaseteryを目指す日本の道場の思想には、軍隊とは似て非なる言葉のヒントがたくさんあると考える。
以上、2030年の自立/自律社会を見据え、企業の未来がどう変わるか、考えてみた。
この議論は、マルクス・ガブリエルの倫理資本主義の議論とも通じている。AIとの共生により、AIがその組織の倫理を映し出す鏡となって、自分たちのあり方を客観的に振り返ることができるようになる。
また、グッド・アンセスターの発想とも関係がある。日々の仕事の工夫を通じて、AIに新しいパターンを提供することで、人間は誰かの承認を求めずとも(AIが常に学習してくれているので)、自己鍛錬に励むモチベーションが保てるようになる。
私たちはAIと共に、グッド・アンセスターになっていくのだ。
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