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バッグいっぱいの教科書を詰め込んだ親友の話 ーDynamic Performance by Puma-

この話は本当に面白さを伝えにくい。なにしろ、ここまで身内でしか理解されないネタも珍しいからだ(笑)しかも、このネタは後に本人が周囲に若干の嘲笑の目に晒されていることを逆手にとって復活させたような経緯もあるので、尚更世間的には伝わりにくいエピソードなのかもしれないが、いずれにせよ書いていこうと思う。

地元の中学は非常におかしな空気感があり、何故だか1年生は非常に地味なバッグを持たされる割に、多くの私立で指定されるようなスクールバッグを持つことが高学歴や非行少年少女のステイタスになるようなルールが自分の上下2世代ほどで歪に存在していた。そういう中で、自分は黒色のEast Boyのスクールバッグを中2の時に使用し始め、いわゆる上級生ステイタスに浸り始めるのだが、その中でも唯一初期型の学生バッグを大切に、しかしある意味では酷使し続けた親友がいた。ここでは仮にKとしておこう。

KのバッグはPuma製のショルダー型であったのだが、彼のバッグを象徴するフレーズとして我々に強く印象付けている英熟語がある、それは…

「Dynamic Performance」

である。いや、一見何の変哲もない日本人向けの英語のフレーズなのだが、これが未だにKにとっての「人生のパンチライン」として深く刻まれている。いったいなぜなのだろうか…

当時のKは必ず授業で用いる全教科書を持ち帰るほどの真面目君であった。というより、塾で必要だった故に持ち帰る必要があったと言えるが、いずれにせよ真面目に頑張っていたということではあるから同じことではある。一方で、その他の仲間としての我々は基本的に(受験勉強への焦燥感がない故に)2年時までは教科書を学校に置きっぱなしにする癖があり、スクールバッグの中身は割かし空っぽであることが殆どだった。

この状況で起こり得ることは1つである。それほど大きくないショルダーバッグにパンパンに体育の着替えや教科書を詰め込みながら、バッグ自体の重さ故にやや斜めに歩くKという真面目な少年と、体育着も学生服の下に着こんで教科書も学校に置きっぱなしの我々…仮にSとYとしておくが…下校時に一緒に歩いていると…嫌でも、Kが悪目立ちしてしまうのである(笑)しかも、Kはズボンもきっちり腰から上まで上げる優等生ぶりであったのだが、それ故に踝が丸出しになる少年スタイルになってしまい…この2つの要素が相互作用することで、完ぺきな絵面が完成してしまったというわけだ…。

毎日教科書をきちんと持ち帰り大変な思いをするKとは裏腹に、不真面目さが癖になっている我々のような中学生は、次第にその異様に膨らむショルダーバッグを抱えるKに滑稽さを抱いてしまう…もちろん、本人だって嘲笑を直接受ければ当時は怒るだろうから、丈の短いズボンで歩く姿も相まりながらも、必死で笑いをこらえながらも内心は面白くて、いつ爆笑が暴発してもおかしくない毎日を過ごすことになっていった…(笑)

しかし、流石にそんな日々が仲間内で繰り返され始めたので、本人もうすうす感じてはいたのだろう。ある時に自分が代表して、怒りと半笑いが交錯する表情でこのように突然言われた。

「お前、俺のバッグがパンパンなのを見て笑ってるだろう」

内心は怒っていたのかもしれないが、隣のクラスの顔も知らない女子にまで「似てないけど面白すぎるモノマネ」を披露するほどに人気者であった彼が、この状況をおいしいと思わないわけがないのだろう。それ以来、我々SとYが笑いをこらえながらも、K本人に半笑いで指摘される流れが生まれはじめたのだが、一方でバッグを積載量オーバーで毎日のように酷使してしまっていたためなのか、次第に布が薄くなり始めているのが傍から見ても明らかになり始め、これはそのうち破れて使い物にならなくなるのでは…というタイミングで、

Kによるダイナミック・パフォーマンスな日々は突然のように終焉を迎える。

消耗するショルダーバッグの代替として、遂にスクールバッグデビューを果たしたのだ。この時も相変わらずのパンパンの積載量であったのかもしれないが、実を言うとこの時の彼の姿はあまり記憶にも印象にも残っていない。残っていないというより、あまりにダイナミック・パフォーマンスな日々の印象が強すぎて霞んでしまっているのだろう。その瞬間から、下校時に必死で笑いを耐える日々が終わってしまい、時と共にネタとしての新鮮さも失われていくが故に、いつの間にか話題にすらならないほどにフェードアウトしていくことになっていく。

思い返せば、確かにどうしてあそこまで笑いをこらえるほどに面白く感じたのかは分からない。たまたまKという人物のキャラも相まっていたのだろうし、あれがどこぞの中学生の男の子だったら素通りする位の話でしかないはずだ。だが、それでもダイナミック・パフォーマンスな日々は、今でも若干笑いが蘇るほどに面白かったことは間違いない。


あれから5年以上が過ぎ、すっかり大学生や社会人になっていた自分たちが、Kの持つパンパンのショルダーバッグを思い出す機会は殆ど失われていたはずであったが、そのパンドラの箱を再び開いたのは、誰であろう当事者でもあり中心人物であったKその人であった…。べろべろに酔っぱらった飲み会で、Kが放った一言が我々の記憶の時計の針を一気に戻し始める。

「俺、当時パンパンのバッグで丈の短いズボンで歩いてたから、Sは面白がって笑ってただろ(笑)」

実際にはYも似たような態度ではあったが、恐らく最初に気が付いたのは自分で会ったから言い訳はできない(笑)しかし、突然のようにKが中学時代の記憶の片隅に小さく保管される日々を、突然我々から引き出してきたことに随分驚いたものだった。意図は不明だが、本人もやはり「おいしい」という気持ちが残っていたのかもしれない(笑)それ以来、30代半ばを迎えた今でも、Kからの電話は

「ダイナミぃックパフォぉーマンス by プぅーマ」

という歪な単語で始まる日々が続いている(笑)残念ながら、当時のバッグも恐らく実存せず、それに該当する写真もネット上では見当たらないのだが、この電話の一言が当時の空気感をいつまでも我々に残し続けてくれている。


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