トイレでの出来事
トイレに、人並み以上の思い入れがあります。
なぜかは分かりませんが、おそらく人並み以上にトイレが近いからでしょう。
「ザイオンス効果」をご存知でしょうか。
接触回数が多いほど、親しくなるというアレです。
つまり僕とトイレの関係は、単純接触回数によって結ばれた結晶です。
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突然、なんのカミングアウトかと訝しまれるかもしれませんが、座って用を足すタイプです。
大はもちろん、小も。大は小を兼ねると言いますから。
それはさて置き、トイレに人並み以上の思い入れがあると、時に許しがたいことも起こります。並外れた愛情は、得てして狭量をもたらすのです。
あれは数年前でしょうか。
会社のトイレの便座に腰掛けていました。五つ並びの真ん中の個室に陣取っていたことを覚えています。
ひと踏ん張り終えた僕は、弱すぎもせず、強すぎもしない「中」の位置が点っていることを確認し、いつものようにシャワーのボタンに手をかけました。
おや。
異変に気がつくのに、時間はかかりませんでした。
今か、いまかと待ち構える黄門様に、来るべきはずの助さん格さんが一向に参らないではないですか。
「ウィーン」
無機質な機械音と、ちょろちょろと流れる水のせせらぎが聞こえるばかり。
もう一度シャワーボタンに目をやるも、「中」の位置は点ったまま。
一旦リセットし、再起動を試みるも、一向に紋所が目に入ってきません。
「不具合」と結論付けるまでに、時間はかかりませんでした。
怒りと不安が同時にこみ上げてきました。「この御方をどなたと心得る!」
助さん格さんの怒号が頭を飛び交います。どうにか、黄門様を鎮めなければいけない。
「ここを出よう」と決心しました。
幸い、トイレに人の気配はありません。
とはいえ、交通量の多い社内のトイレ。
いつ、人が入ってきてもおかしくありません。
迅速に移動しなければ。
待ち惚ける黄門様をひっさげ、ズボンを膝下にひっかけたまま、個室を後にしました。膝を曲げ、半屈みの姿勢でカニ歩き。
お尻は丸出し、手にはトイレットペーパーの欠片。
由美かおるもびっくりの受け入れ態勢。
幸い誰にも見られず、事なきを得ました。
なんの話でしたでしょうか。取り止めがなくなってきたので、このへんで。トイレに行ってきます。
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