見出し画像

ナイキの大転換~児童労働からCSRへ~

 世界では1億6000万人の子どもが働いているという。これは世界の子どもの9人に1人にあたる。私たちが何げなく食べたり、使ったりするモノのなかにも、サプライチェーンをさかのぼった先に「児童労働」が存在するものが少なくない。児童労働にたずさわる子どものうち、約半数の7900万人が建設や解体現場、砕石場をはじめ、人身売買や子ども兵など、健康や安全が脅かされる危険有害労働(国際労働機関ILOが1999年に制定した182号条約において最悪の形態とされる労働)に従事していると報告されている。児童労働によって子どもが教育機会を失うと、知識や技術を身につけることができず、低賃金で不安定な職にしか就くことができない。結果、貧困から抜け出すことが困難となり、さらなる貧困を生み出す「負の連鎖」を引き起こしてしまう。

 毎年6月12日は、国際労働機関(ILO)が児童労働の撤廃を呼びかけるために定めた『児童労働反対世界デー』である。チョコレートの原料となるカカオ、Tシャツの原料となるコットン、携帯電話に含まれる希少金属・鉱物など、生産現場に児童労働があると指摘されるのは、どれも私たちの生活に身近なものばかり。私たちは、知らないうちに、児童労働で作られたものを使っているのかもしれない。
 
 90年代後半、サッカーボール産業に多くの子どもたちが関わっていることが問題となった。低賃金の上に、硬い皮を扱うため、子どもたちは手を怪我し、時には変形してしまうこともあった…。この問題に対し、FIFA(国際サッカー連盟)をはじめ国際機関、NGO、スポーツ業界が協力して、サッカーボール産業の児童労働撤廃に取り組み、状況は改善されつつある。

  この児童労働がグローバルな問題となってもう35年以上になる。英国の BBC放送が「ベトナム・カンボジアにおける児童労働問題の特集」を行ったことに端を発したのだが、このとき世界中から批判を浴びたのは、世界的なスポーツブランドを誇るナイキである。ナイキは 12 歳の子どもたちに強制労度をさせ、靴などを作っていたとの告発内容であった。これをきっかけに NGOがナイキ非難のキャンペーンを行った。ナイキ側はこの工場はナイキのものではなく、契約工場だと弁明したが、この言い訳は国際社会には通じなかった。児童労働だけでなく、低賃金労働、長時間労働、セクシャルハラスメントなどの問題点の存在が明らかになったのだ。BBCは再度この問題を取り上げ、スイスのダボス会議の会場では、ナイキ非難のキャンペーンとデモが行われ、世界中にこのニュースは流れた。こうした事実を知ったアメリカのNGO団体および学生たちは、大学キャンパスやインターネットを使用し、ナイキの社会的責任を批判。運動は製品の不買や訴訟問題に発展し、ナイキのイメージと売り上げはかなり落ちこんだ。利益追求のために人権を無視し、社会的責任を果たさなかった結果だ。ナイキは、サプライヤーの労働環境や安全衛生状況の確保、児童労働を含む人権問題に、企業の責任として取り組まなければならないことを身をもって経験し、これを契機にグローバルない概念となりつつあったCSR(企業の社会的責任)を重視する方向に大転換したのである。

 結果的に、ナイキの事件は、企業や消費者、国際機関や市民団体など社会全体が協力することで、児童労働を始めとする人権問題の予防と撤廃が実現できることを証明したのである。

私の記事を読んでくださり、心から感謝申し上げます。とても励みになります。いただいたサポートは私の創作活動の一助として大切に使わせていただくつもりです。 これからも応援よろしくお願いいたします。