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無意識の思い込みとジェンダーギャップ

 アンコンシャス・バイアスとは、無意識の思い込みのことをいい、個人が過去に経験したさまざまな事柄から、本人も気がつかないうちに刷り込まれていく意識のことを指す。「女性だから家庭優先。責任のある役職は荷が重いだろう」とか、逆に「男性なのだから、仕事を第一にすべきだ」などジェンダー平等の弊害の原因として語られることも多い。

 アンコンシャス・バイアスが自分の中にあるかを測るためのこんな問題がある。

 スミス医師は某大学附属病院の教授で病院長。海外でも高名な脳外科の権威である。午後3時、今日も難しいオペを成功させたスミス医師は院長室の椅子にどっしりと腰を下ろし、煙草を一本吸った。机の上に飾られた写真には、紛争地域での医療活動を続けてきた若いころの自分の姿がある。物思いにふけっているところ、突然院長室の電話が鳴った。受話器を取る。 「院長! 緊急手術をお願いします。父親が子どもを乗せて運転していた車がトラックと正面衝突。父親は即死ですが、後部座席の子どもは意識不明の重体です。」 子どもは病院に搬送されており、スミス医師は急いで院長室をあとにし、脳手術の準備のため手術着に着替えた。オペ室に横たわる子どもの顔を見た瞬間、スミス医師はこう叫んだ。「この患者は私の息子だ!」

 スミス医師と子どもの関係性をどのように考えるだろうか。有名なストーリーなので、すでにご存知の方も多いと思う。


 答えは「脳外科医は患者の母親」。「海外でも高名な脳外科の権威」「病院長」「椅子にどっしりと腰を下ろす」「煙草を吸う」「紛争地域での医療活動」という言葉から、医師=男性という無意識の思いこみ、つまりアンコンシャス・バイアスが働いてしまった人が多いのではないだろうか。

 最近受けた人権教育のワークショップの中でも上記のストーリーが使われた。実は「スミス医師=女性」という答えだけが正解ではない。亡くなった父親は、スミス医師の別れた妻の再婚相手という考え方をすれば「スミス医師=男性」であってもおかしくない。また、男性同士のカップルが特別養子縁組の子どもを育てていたというシチュエーションでもこのストーリーは成立する。

 職業による性別の思い込みも存在する。今回の医師もそうだが、大型トラックの運転手、消防士、漁師、大工、航空機操縦士、船長、バスやタクシーの運転手などが男性の仕事と捉えられている。女性の仕事と捉えられやすいのは、保育士、幼稚園教諭、看護師、保健師、歯科衛生士、訪問介護従事者 などだ。『この職業は男性、この職業は女性』という無意識の思い込みや、小さい時から積み上げられた周りからの期待が職業の選択肢を性別によって狭めてしまい、その結果として職業のジェンダーギャップを生んでいる。

 1月28日の朝日新聞に『「昭和」な医局 離れる心』という大きな記事が載っていた。まるでテレビドラマ「ドクターX」のような感じだ。
 「大学医局には教授を頂点とするヒエラルキーがあり、若手医師は専門医や博士号の取得を目指して医局に入る場合が多く、理不尽な働き方でも我慢する環境が常態化してきた。(中略)日本の勤務医モデルは、専業主婦を妻に持つ男性の医師モデル。そうした昭和的なモデルは完全に破綻している」
 日本の女性医師の割合は、経済協力開発機構(OECD)加盟国37か国中で最下位の22.7%だ。OECD37か国の平均は50.0%…ある意味恥ずかしい国だ。さらに日本に82ある大学病院のうち女性院長は一人もいないという。

 昨年、日本で行われたG7サミット(先進国首脳会議)の一場面を思い出した。男女共同参画・女性活躍大臣の会合では、議長を務めた小倉女性活躍相を除く、各国と組織の代表9人全員が女性だった。日本の女性の活躍をアピールするどころか、女性の政治参加の遅れが目立つ、ある意味恥ずかしい集合写真がやたらと印象的であった。

 世界経済フォーラム(WEF)は、男女格差の現状を各国のデータをもとに評価した「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)の2023年版を発表した。日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位で、前年(146カ国中116位)から9ランクダウン。順位は2006年の公表開始以来、最低だった。分野別にみると、政治が世界最低クラスの138位で、男女格差が埋まっていないことが改めて示された。日本のジェンダーギャップ指数(スコア)は、2006年の第1回は0.645で、115カ国中80位だった。その後もスコアはほぼ横ばいで、順位は下落傾向が続く。他国が格差解消の取り組みを進める間、日本はずっと足踏みしてきたのだ。


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