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子どもの声と遊びの風景 

  2015年頃のことだが、、不動産・住宅に関する総合情報サイトのSUUMO(スーモ)の調査「近隣住民の騒音で何が一番気になるか」の結果に衝撃を受けたのを今でも鮮明に覚えている。
 1位 子どもを叱りつける親の声 21.0%
 2位 子どもの騒がしい声    20.8%
 3位 子どもの泣き声      17.8%
 4位 ペットの鳴き声      16.3%
 5位 子どもの足音       16.0%
 「子ども」に関する音を「騒音」と見なす人がいかに多いかが明らかになった。

 1989年、国連で「児童の権利に関する条約」(子どもの権利条約)が採択されたが、その際、スウェーデンのカールソン首相は演説で次のように語った。
 「子どもはわたしたちすべての未来である。子どもがどのように生きるか、それが人類文明全体を決定する。子どもの権利がどのように守られるかが、私たち自身の未来を決定する。」 
 今年は子どもの権利条約が国連で採択されて34年、日本がこの条約を1994年に批准して29年になる。わが国は、超少子・超高齢化が深刻化し、児童虐待の発生件数も恐ろしい勢いで激増の一途を辿っている。いまや日本人は絶滅危惧種であると声高に語る人もいる。日本こそ、子どもを未来の宝と考えなければならないのに、SUUMOの調査を見ても、日本の社会が子どもにとって「生き辛さ」を感じるものになってしまっている現状がある。

 若者の間では今、心が病んでいる人が増加。WHOの報告書によると、世界の若者の主要な死因の1つが「自殺」。しかも、世界の自殺者の総数は年間約80万人、40秒に1人が自殺している状況。そのうち、若者の自殺が約3分の1を占めており、若い世代では自殺が2番目の死因になっている。なかでも、日本は若い世代の死因1位が自殺で、これは先進国(G7)のなかでは日本のみ。さらに、コロナ禍で子どもの自殺が大幅に増加し、2020年の小中高校生の自殺者は479人と過去最多を記録した。
 世界自殺率ランキングでは日本は13位なのだが、若年層の自殺率は世界のトップクラスで、日本における15歳から39歳の死因の第1位が自殺…。事故死よりも自殺が多い国は日本だけである。さらに、学生・生徒の自殺の原因を見ると、いじめ、ネットいじめ、引きこもり(孤立)、経済的問題、受験や就活の失敗…「生き辛さ」が若者を自殺へと駆り立てていることがよくわかる。日本は若者の自殺大国…この背景には、長引くコロナ禍でサービス業などの分野で雇用環境が悪化したことなどの影響も考えられるが、日本人の自己肯定感の低さも関係しているのだろうか。若者や子どもたちにとって、明るい未来像が想像できない、未来の自分の夢が持てない社会になっているからではないだろうか。

 さらに、子どもたちは「遊び場」を奪われている。私たちの子ども時代には、空き地や原っぱが格好の遊び場だったし、家の外では子どもの声が日が暮れるまで響いていた。「サザエさん」や「ドラえもん」には、空き地や広場で子どもたちが野球をしている姿が描かれるが、今の日本には特に街中ほどそんな場所はない。社会や大人の事情により、子どもたちを地域から締め出し、「ボール遊び禁止」の表示がされ、ブランコ・すべり台・鉄棒の3点セットしかない小さな公園に子どもたちを押し込めた。子どもの豊かな人格形成に「遊び」が必要とされるのだが、大人は子どもたちから「遊び」に必要な3つの要件「場」「時間」そして「仲間」を奪ってしまった。遊び場を奪われた子どもたちは、仕方なく家でも一人でもできるゲームの世界の住人になろうとしている。子どもの権利条約の31条「年齢にふさわしい遊び及びレクリエーション活動を行う権利」が侵害されている。

 私が3月まで勤務していた児童養護施設の子どもたちは、日が暮れるまで園庭で遊ぶ姿が見られた。私が一番感動したのは、小学1年生から高校3年生まで集まって、全員参加で「缶蹴り」や「リレー方式のかけっこ」に興じている姿を目の当たりにしたことだった。現代の子どもが喪失した「遊びの3要件」がこんな身近に存在していたことに、驚きと喜びを感じることができた。そして、SUUMOのデータでは「騒音」とされてしまった子どもたちの声がなんと耳に心地良かったことか! 

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