見出し画像

「差別」を生み出すのは大人の感化

   幼少のみぎり、私は絵本を読むことも、アニメやヒーローもののテレビ番組を見ることも大好きだった。ウルトラシリーズの中で、ウルトラセブンだけはなんだか難しく、使われている音楽も幼児にはとっつきにくかった印象がある。大人になってから再放送を観ると、現実社会の不条理、盲目的な科学万能主義、無意味な軍拡競争の風刺を色濃く感じることができ、さらに有名なクラシック音楽が効果的に使われて非常に面白い。

 このウルトラセブンで、再放送もされず、映像ソフトにもなっていない欠番があることをご存知だろうか。第12話の「遊星より愛をこめて」に登場するスペル星人という宇宙人は、自分の星での核実験での放射能による健康被害に悩んだ宇宙人で、真っ白な体にケロイド状の火傷の跡がついた姿だった。当時はアメリカとソ連の間の冷戦のまっさかりで、軍事的な緊張が高まっていた。監督や脚本家の製作意図としては、「核実験反対!」「被爆のない国へ」だったのだが、放送から3年が経ち、少年誌の付録の怪獣カードで「スペル星人」のニックネームが「ひばくせいじん」と付けられたことが被爆者の差別につながると問題視され、永久に封印されるに至った。はたしてこれは被爆者差別につながるのだろうか。

 同じことが玩具や絵本、アニメの世界でも起きている。私が生まれる前に日本で大ブームとなった「ダッコちゃん」人形は、昭和39年の東京五輪を控えての黒人文化への関心の高まりと評価される。そのブームは諸外国に広がり、ダッコちゃんは世界中で愛されたのだが、アメリカから黒人蔑視との批判が出され、昭和63年、ついには製造停止に追い込まれた。

 黒人差別論争が活発化すると、漫画やアニメなどのステレオタイプな黒人の描写が差別的であるとして、様々な出版社や制作会社が黒人を連想させる作品の自粛に舵を切った。私が幼いころ大好きだった絵本「ちびくろサンボ」も、テレビアニメ「ジャングル黒べえ」もこの20年ほど目にすることがなくなった。それもそのはず、アフリカ先住民をモデルにしているという理由から、黒人を差別視する作品としてダッコちゃんとほぼ同時期に「封印」されていたことを知った。肌の黒い人や茶色い人が人形のモデルであったり、絵本やテレビ番組の主人公だったりすると差別になるのだろうか。

 当然のことながら、私たちは、ケガや病気や障害を抱える人も、生まれた国や肌の色や文化の違う人も、決して差別してはいけない。子どもというものは、絵本やアニメの登場人物から、善悪を学んだり、好き嫌いを感じたりすることはあっても、視覚的な「ちがい」に対して差別的な意識を持つことはない。子どもたちが差別意識を持つに至るのは、大人や社会による「感化」が大きく影響を与えていると考えるべきである。

 生まれた時には何の差別意識を持っていない一人の子どもの成長の過程で、親、家族、社会、文化、国という「大人」のコミュニティが感化教育を与え、その結果として排除や差別の意識が植え付けられてしまうのだ。

私の記事を読んでくださり、心から感謝申し上げます。とても励みになります。いただいたサポートは私の創作活動の一助として大切に使わせていただくつもりです。 これからも応援よろしくお願いいたします。