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レイチェル・カーソンの視点

 レイチェル・カーソンの遺作「センス・オブ・ワンダー」。レイチェル・カーソンが亡くなった1964年の翌年に出版された本である。直訳すれば、「驚く感性」。何に驚くのかと言えば、自然の美しさとその精妙さに対してだろうか。「センス・オブ・ワンダー」を日本語に訳された上遠恵子氏の名訳によれば、「神秘さや不思議さに目をみはる感性」となる。

 誰もが、自分の「センス・オブ・ワンダー体験」を持っている。特に、「センス・オブ・ワンダー」を受け止める子どもの五感には驚くべきものがある。視覚、嗅覚、聴覚、肌感覚・・・どれをとっても限りなく鋭敏だ。私自身、今でも鮮明に覚えている。子どもの頃の夏に見た入道雲、光の輪郭、かしましい蝉時雨、草や土の香りや感触、強い日差しが皮膚を焼く感覚。大きな水たまりで見つけたタピオカのようなカエルの卵、タマムシやゴマダラカミキリの美しい色。50年近く前の子どもの頃の記憶は感覚的に思い出すことができる。ところが不思議なことに、大人になるとそんな強烈なリアリティがすべての感覚から失われつつあることに気づかされる。

 レイチェル・カーソンも次のように書いている。
 「子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、製敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます」
 これは大人になると仕事や人間関係などに悩まされるようになるからなのか、あるいは加齢や老化による不可避的な時間経過によるものなのだろうか。

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