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「言の葉」の力

 あれは2011年のことだっただろうか。
 私の母校である南山中学・高等学校の講堂にて作家・重松清氏の講演会があった。南山男子部の答辞の副校長先生にお誘いいただき、拝聴する機会を得た。
 有名な重松作品は、「エイジ」、「かかしの夏休み」、「トワイライト」、「流星ワゴン」、「とんび」など数多く出版されているが、どの作品にも、子ども時代の苦悩や葛藤、家族の絆が凝縮されていて、教育的でもあるし、子どもの心の理解にも役立つ内容のものが多い。重松氏は名古屋(中川区と北区)で少年時代の8年間を過ごし、作品に登場する「少年」の原風景は名古屋だとのこと。星野仙一がエースとして活躍した頃のドラゴンズについても熱く語ってくれ、親近感が沸いた。

 講演にて、重松氏が語った印象に残るフレーズを紹介したい。
 「大人の役目は子どもたちが選ぶ選択肢を増やしてあげること・・・人は誰しも1回しか自分の人生を歩むことができず、経験知は意外と少ないはずなのに、大人は自分の経験体験を金科玉条として押し付けてしまいがちである。だけど、正解は一つではなく、世の中には正解がたくさんある。ハキハキとして明るい子が正解なわけじゃない。いろんな子がいていい。小説の主人公は、みんな迷っている。みんな困っている。わからないから頑張る。間違いを犯すから正解に向おうとする。自分で選んで失敗した方が、人に選んでもらうより尊い。子どもたちにも、ゆっくり迷って、ゆっくり悩んで、ゆっくり決めていってほしい。」

 「小説・マンガ・映画などの物語は、自分の人生とは違う人生を知る手段である。特に日本は、世界のあらゆる国の、あらゆる時代の名作が日本語で読めるという、素晴らしい文化を持っている。本がたくさんある社会は幸せな社会である。古くてよいものは価値が上がって値段も高いのに、本はシェイクスピアも司馬遼太郎も重松清もそんなに変わらない値段で手に入る。でも良い本だって、皆が読まなくなってしまったらなくなってしまう。前の時代から読み続けてくれた人たちがいたからこそ、今も出版され続けているし、未来の子どもたちにも大事なものを残していける。だから皆さん本を読みましょう。」

 「本の良いところは、19世紀の若者と、21世紀を生きている私たちとが同じ悩みをもって、同じ本を手にして、生きるヒントや元気をもらうこともあるということ。そんな出会いのリレーができるのが本のもつ言葉の力、言葉が紡ぐ物語の魅力。」

 言の葉の力について考えさせられる素敵な講演であり、まずます重松作品に触れてみたくなった。

私の記事を読んでくださり、心から感謝申し上げます。とても励みになります。いただいたサポートは私の創作活動の一助として大切に使わせていただくつもりです。 これからも応援よろしくお願いいたします。