見出し画像

新たな地質年代「人新世」誕生に向けて

 世界の科学者らは7月11日、46億年の地球の歴史の中で、人類の爪痕が残る地質年代として、地球が約70年前に新しい地質年代「人新世(じんしんせい)」に入ったとした。これは、人間の活動が地球の気候と生態系を元に戻せないほど変えてしまったことを意味する。人類にとっては不名誉なことだ。人新世が始まったのを1950年ごろとしたのは、世界の人口、肥料の消費量、大気中の二酸化炭素濃度、陸域の生物多様性の減少が爆発的に増大したからであり、また、世界中の地層や氷床から50年代の米ソの核実験によるプルトニウムが見つかるというのがその理由だ。この時期から世界の人口爆発と同時に、プラスチックやコンクリートなどの人工物の生産量も爆発的に増えているということもある。

 地質年代を決める国際地質科学連合(IUGS)に設置された人新世作業部会のコリン・ウォーターズ議長は、新しい地質年代に突入した証拠はカナダのトロント近郊の湖クロフォード湖の堆積物にあると発表。人新世を証明するための証拠が残る基準の場所「国際標準模式地」は日本の別府湾を入れて6か所あったが、クロスフォード湖に決まった。この湖の堆積物にはプルトニウムなどが含まれており、地球環境が急激かつ不可逆的に変化した兆候があるという。その変化は化石燃料の燃焼、温暖化、生物多様性の損失と関連している。

 「プラネタリーバウンダリー」という概念が世界で注目されるようになっている。2009年にスウェーデンの環境学者ヨハン・ストローム氏が提唱した概念で、「地球の限界」を意味する。以下の9項目から成り、( )内はその指標である。

(出典:Azote for Stockholm Resilience Centre, based on analysis in Wang-Erlandsson et al 2022)

(1)気候変動(大気中の二酸化炭素濃度・地球と宇宙の間でのエネルギー収支)
(2)大気エアロゾルの負荷(大気汚染物質の量)
(3)成層圏オゾンの破壊(成層圏のオゾン濃度)
(4)海洋酸性化(海の炭酸イオン濃度)
(5)淡水変化(人間が利用できる淡水や植物が取り込む水分の量)
(6)土地利用変化(森林面積の大きさ)
(7)生物圏の一体性 (生態系機能が維持されている度合い、生物種が絶滅する速度)
(8)窒素・リンの生物地球化学的循環(化学肥料として人工的に作られた窒素・リンの海洋や土壌への流出量)
(9)新規化学物質(プラスチックなどの化合物による汚染を含む)

 残念ながら現時点ですでに、「生物地球化学的循環」と「新規化学物質」、絶滅の速度からみた「生物圏の一体性」は、すでに限界値を超えている。

 さて、惜しくも国際標準模式地に選ばれなかった別府湾の海底地層に残された痕跡も非常に良質だったとのことだ。日本チームによると、プルトニウムはクロフォード湖よりも鮮明で、各国の原水爆実験が1955年ごろピークとなった後、健康被害や環境破壊への国際的批判で減少した様子も裏付けた。また、部分的核実験禁止条約が63年10月に発効することが決まると、各国による発効直前の駆け込み実験で2度目のピークを迎えるなどした世界情勢の推移も、痕跡からはっきりと見て取れた。さらに、痕跡はプルトニウムだけでなく炭素のすす、マイクロプラスチック、PCBなど計約70種類に上り、世界12カ所の候補地の中で突出して多かった。別府湾は地層がかき乱されにくい特殊な地形であることから、痕跡は積もり方がきれいで状態も良好だった。弱点として指摘されていたのは、別府湾の海底地層には数カ所、地震や洪水などの影響で堆積物の層が乱れている部分があることだ。チームの関係者は「これが評価のマイナス要因になったのではないか」と分析している。日本チームを率いた愛媛大の加三千宣(くわえ・みちのぶ)准教授は「結果は残念だったが、別府湾は間違いなく人新世の地層を代表する場所だと思う。今後は、補助的な基準地に選ばれることを目指す」とのコメントを発表した。
 ちなみに、私自身はカナダのクロスフォード湖や別府湾が6つの候補地に選ばれていたなんて全く知らなかったが、あとの4か所はアメリカのサンフランシスコ湾、中国の四海龍湾湖、オーストラリアのフリンダース・リーフ、南極半島の氷床だったとのことだ。

私の記事を読んでくださり、心から感謝申し上げます。とても励みになります。いただいたサポートは私の創作活動の一助として大切に使わせていただくつもりです。 これからも応援よろしくお願いいたします。