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トトロの「さんぽ」発祥の地

 スタジオジブリ製作のアニメ映画で、子どもたちに絶大な人気を誇っているのが『となりのトトロ』だ。トトロのテーマソングと言えば、「♪あるこう あるこう わたしはげんき♪」という出だしで始まる「さんぽ」という歌。幼い頃、あるいは子どもと一緒に元気よく歌ったことがある方も多いのではないだろうか。

 実は「さんぽ」という歌には、モデルになった道がある。「さんぽ」の作詞をした中川季枝子氏が、幼少期に歩いた福島市の信夫山のイメージを思い出しながら書いたとのこと。「さんぽ」の歌詞には、さまざまな自然の風景が登場する。「くさっぱら」「でこぼこ砂利道」「はなばたけ」「くもの巣」など…歌詞をよく読むと、だんだんと森の奥へと進んでいく様子が描かれており、最後は「ともだち たくさん うれしいな」と締めくくられている。この「ともだち」とは、さんぽの途中で出会った虫たちや草花であろう。

 2015年時点でこの信夫山の放射線測定値は、0.5マイクロシーベルトを越えていた。当時は愛知県(0.050マイクロシーベルト)のおよそ10倍と、依然として高い水準にあったが、今はその数値はどうなったのであろうか。子どもたちの大好きな「さんぽ」発祥の地が高い放射線量にさらされ、歌のように元気な「おさんぽ」が安心して安全にできない状況が続いていないことを祈るばかりである。

 さて、中川李枝子氏は「さんぽ」の作詞者としてだけではなく、童話作家としても高名である。50年以上も前に出版され、今もなお現役で子どもたちに愛され続けている『ぐりとぐら』や『いやいやえん』は中川氏の作品である。出版された当時、まだ学生でアニメ―ターになるとも決めていなかった宮崎駿氏は、「『いやいやえん』は衝撃だった。アニメーションにしたいとそう思いました。」と語っている。さらに宮崎氏は、「僕たちが作るファンタージーでは、冒険に出て、いろんな経験をして、成長して帰ってくるけど、そんなの嘘ですよね。子どもは同じ間違いを繰り返すし、それをしていいのが子ども時代であって、そんな子どもそのものの姿が描かれているのが『いやいやえん』や『ぐりとぐら』だと思う。」と作品の魅力を熱弁。中川氏のファンだった宮崎駿監督が「となりのトトロ」を製作した際、「映画を離れても、子どもたちが口ずさめる歌を書いて欲しい」とテーマソングの作詞を中川氏に依頼したという経緯がある。

 長年にわたって創作活動を続ける一方で、保育士として働き、直に子どもたちと接してきた中川氏は、「子どもの問題が社会を賑わせていて、ひどい目にあっている子が多すぎるんじゃないかと胸を痛めている」と最近の子どもたちを取り巻く環境を憂慮する。「日本には『児童憲章』というものがある。『児童は、人として尊ばれる。児童は、社会の一員として重んぜられる。児童は、よい環境のなかで育てられる。』 この三原則を守ってほしい」と訴え続けている。

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