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スマホの中にあるもの:児童労働と環境破壊

 Apple、Samsung、ソニーなど世界の名だたる電子メーカーの小型バッテリーに使用されているコバルトは、アフリカ大陸のど真ん中にあるコンゴ民主共和国の鉱山で採掘されたものとのことだ。しかしながら、それは児童労働の末に掘り出されたコバルトである可能性がある。もしかしたら、私が使用しているiPhoneも児童労働により作られたバッテリーなのかもしれない。

 鉱物の採掘はほんの少しの鉱石を得るために大量の土砂を掘り起こすことになる。地球上で鉱石を採掘できる場所は限られているため、巨大な利権が働き、鉱山の上にある森林などの自然や、そこで生活している人々のコミュニティが排除される結果となっている。鉱物の採掘により、環境破壊や生態系破壊だけでなく、そこで暮らす住民の強制退去や健康被害など多くの問題が指摘されている。

 フィリピンのパラワン州では、日系企業が参画してニッケルの鉱山開発と製錬事業が行われている。この鉱山の周囲を流れる河川から、環境基準値をはるかに超える六価クロムが検出されている。六価クロムは、発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等も指摘される毒性の高い物質で、鉱山で働く人や地元住民の健康や生活そのものを脅かしている。

 北カマリネス州とマスバテ州の小さな金鉱山では、落盤の危険性のある坑内や、溺死する恐れのある水中鉱山で子どもたちが採掘作業を強いられている。金採掘は貴重な収入源になるため、貧困家庭の子どもたちの多くが学校をやめて金鉱で働くという児童労働の実態がある。それに加えて、金の製錬作業で使われる水銀の影響により健康被害に遭っている。
 現地の労働者や住民たちは六価クロムや水銀により、自分たちの健康が害されている事実を知らない。

 南米エクアドルのインタグ地方は、アンデス山脈の気候と熱帯気候とが混ざった非常に稀有な気候の地域だ。地球上で生物多様性が多いにも関わらず環境破壊の危機に瀕している地域を「環境ホットスポット」と言うのだが、世界にある36個の環境ホットスポットのうち、2つがこのインタグの森にある。1990年初頭、この地域に外資系企業による鉱山開発プロジェクトの話がもたらされた。鉱山の埋蔵量調査の段階で日本政府も技術協力したのだが、地域住民の人たちからの反対があって今に至る。

 インタグ地域で鉱物が発見された場所は、世界で最も豊かな多様性をもつ雲霧林の中にある。この雲霧林にはスパイダーモンキー、メガネクマ、2種類のカエル、魚など74の絶滅危惧種の動植物が生息している、世界的にみても特筆に値する多様性をもつ無二の自然環境だ。さらには、世界の植物の15~17%、鳥類の20%近くが生息している。また、インカ文明前の遺跡もあり、その文化的価値も破壊の危機にある。

 1990年代に三菱マテリアルという日本の会社が、インタグの原生林に銅が埋蔵されていることを発見し、試掘した。その際、行われた環境影響評価によると、本格的な採掘が始まれば、大規模な森林伐採で貴重な生態系が失われるだけでなく、水質汚染や土壌流出などの環境破壊を招き、地域住民は移住を余儀なくされる。案の定、試掘の段階ですでに水質汚染が起き、地域で生活する子どもたちに皮膚疾患が発生したり、家畜が死亡したりする被害が出た。地域住民による反対運動を続け、鉱山開発計画は何度も頓挫を繰り返してきた。しかしながら、現在、エクアドル政府が強行に開発を進めており、インタグの森はいまだかつてない危機にさらされている。

 コバルト、ニッケル、金、銅以外にも、世界各地で携帯電話やスマートフォンに使われる希少金属が採掘されている。その背景には、あまりにもスマートでない真実が隠れている。 

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