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膝蓋下脂肪体の整形外科テストと介入

Ⅰ.膝蓋下脂肪体とは

圧痛点の確認 (9)

膝蓋下脂肪体は膝関節包の内側で滑膜の外側に位置する脂肪組織であり、膝蓋靱帯の深部の間隙を埋めています。上方は膝蓋骨の下端に付着し後方は内・外側の半月板の前角をつなぐ横靱帯と連結しています。

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膝伸展時は膝蓋下脂肪体は前方へと牽引され、その張力により半月板を前方へ引く作用が報告されています。 膝関節屈曲時の膝蓋下脂肪体は、大腿骨顆部のロールバックに伴い膝蓋靱帯より後方への圧力を受けます。後方には ACLとPCL が壁となり後方移動をブロックするため、膝蓋下脂肪体は膝蓋骨の後方へと滑り込みます。この移動は、膝蓋大腿関節に作用する圧迫力を緩衝しています。 変性した膝蓋下脂肪体では、運動における機能的変形能が低下することで疼痛や可動域制限をきたすと言われています。

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膝蓋下脂肪体と疼痛との関連を示す報告を紹介します。これによると、膝蓋下脂肪体だけが4、 次に前十字靭帯 (ACL) の付着部、 膝蓋上包であったとしています。 つまり、膝蓋下脂肪体は、 疼痛を非常に受容しやすい組織であることが分かります。

Michael らの報告で、膝蓋下脂肪体は膝関節完全伸展位で体積は最も縮小 (平均 20±8ml) し、 内圧は屈曲 1.5度で最大値 (390±221mbar) を呈することが分かりました。 つまり、膝関節伸展位付近で、膝蓋下脂肪体は周囲から圧排され、その結果として内圧が上昇することが想像されます。 内圧が高まるこの位置で痛みが起こる可能性が高いと考えられます。

膝関節鏡視下手術では膝蓋下脂肪体を貫通して関節内に侵入し手術が行われますので、 膝蓋下肪体には術後瘢痕とともに周辺組織の癒着が必ず発生します。 膝関節鏡視下手術が行われた症例を診る際には、膝蓋下脂肪体に注目した評価が大切です。

Ⅱ.膝蓋下脂肪体の評価

Ⅱ-1.圧痛点の確認と膝蓋下脂肪体の圧痛点の取り方

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膝蓋骨周辺の組織、 鵞足腱の付着部、 内側の関節裂隙部には圧痛点が数多く存在します。その中で最も好発する組織は膝蓋下脂肪体です。 ただし、 膝蓋下脂肪体の圧痛所見を的確に行うには、圧刺激の加える方法を理解しておく必要があります。

①膝蓋下脂肪体は、膝関節を伸展すると前方に押し出されて逃げ場を失うため、圧刺激を確実に加えることが可能となります。
②膝蓋下脂肪体は、 膝関節を屈曲すると後方 (十字靭帯側) に逃げるスペースが確保されてしまい、 圧刺激を的確に行うことはできません。

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③膝関節を屈曲させても圧痛を認めた場合は、 膝蓋下脂肪体ではなく膝蓋腱、膝蓋支帯、 浅・ 深膝蓋下滑液包に起因した症状であることに留意しましょう。

Ⅱ-2.整形外科テスト

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セラピストが膝蓋靱帯の外側で圧迫すれば、膝蓋下脂肪体 の外側に起因した疼痛を誘発できます、膝蓋靭帯の内側で圧迫すれば、膝蓋下脂肪体の内側に起因した疼痛を誘発できます。

このテストは、膝蓋下脂肪体の内圧が、 膝関節伸展位付近で高まる事実に基づいたものです。 セラピストによる膝蓋下脂肪体の圧迫と膝の他動伸展とを合わせることで、膝蓋下脂肪体の内圧をさらに高め疼痛を誘発するものです。 

Ⅱ-3.外側・内側膝蓋支帯の柔軟性と膝蓋下脂肪体

膝関節伸展に際して、膝蓋下脂肪体が前方かつ膝蓋骨の両側へと移動することについては先に述べました。膝蓋下脂肪体の近位方向への移動は、脂肪体の流入先である外側・内側膝蓋支帯の柔軟性があることで許容されます。

内側・外側膝蓋支帯の柔軟性は膝蓋骨の tilting 操作によって評価します。この操作は内側・外側膝蓋支帯のストレッチングにも有用であり、膝蓋下脂肪体の障害において重要です。

圧痛点の確認 (10)

動画では膝蓋骨の動きを見やすくするために母指で膝蓋骨内側縁から操作しています。内側膝蓋支帯の評価は逆の要領で操作します。
左右差を比較して評価することを忘れない様に注意します。

Ⅲ.膝蓋下脂肪体の移動性改善

Ⅲ-1.膝蓋下脂肪体に対する直接的操作

 患者の膝を軽度屈曲位に保持し、一方の手で大腿が内外旋しないように把持し固定します。他方の手で、セラピストの親指を膝蓋靭帯の内側に当て、示指を膝蓋靱帯の外側に置きます。セラピストは母指で脂肪体を内側から押し、移動してきた脂肪体を示指で受ける 。その後、示指で脂肪体を内側へと押し、移動してきた脂肪体を母指で受け取る操作を反復します。膝蓋下脂肪体の立体感をしっかりとイメージして遠位から近位にかけて操作する意識を持って実施します。

手の小さい方、操作が難しく感じる場合は脂肪体を両手で操作します。その際に、大腿が内外旋してしまうと脂肪体の移動を操作出来ていないため注意しましょう。

Ⅲ-2.大腿四頭筋の収縮を利用した移動性改善

直接操作で膝蓋下脂肪体の移動性が改善されたら、大腿四頭筋の収縮を利用して前方への移動性を改善します。膝関節軽度屈曲位からの終末伸展運動を用います。脛骨粗面より膝蓋骨が前方に位置する角度として、大腿四頭筋の収縮力を膝蓋靱帯を介して前方への牽引力として作用させるためです。 

セラピストは、膝蓋骨を他動的に押し下げ膝蓋靱帯をいったん弛ませます。 合図とともに膝蓋骨を開放し、大腿四頭筋の収縮を同期させます。弛められた膝蓋靱帯は、筋収縮により勢いよく緊張が高まることで、膝蓋下脂肪体には効果的な前方牽引力が作用します。

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Ⅳ.動画解説

今回のnoteがみなさまの臨床活動の一助になれれば幸いです。最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。

○ライター紹介

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個人Twitter:@Sho_Higu
運営団体Twitter:@N_Reha_Labo
運営団体HP:https://n-rehabilitation-labo.jimdofree.com/

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