『コンテナ物語』:イノベーションとは何か
イノベーションとはどいうものを示すのだろうか。近年では様々なテクノロジーやそれに基づくシステムが開発されているが、その都度それらは「イノベーション」や「社会を変える」といった表現がされる。しかし、新しい技術が開発されたところで、実際には社会に普及するにあたって数多くの問題を乗り越えなくてはならない。それらの問題とは、発明に関わるあらゆる組織の利害関係によるものもあれば、既存の制度や国の法律が関与する場合もある。
イノベーションとそれに基づく社会の変化を最も分かりやすく示している書籍にマルク・レビンソンの『コンテナ物語』が挙げられる。この本はコンテナの発明から、それが社会に導入されるまでの詳細な過程を辿っている。社会状況が刻一刻と変化していく中での企業や政府、労働組合などの長きに渡る取り組みや関係性を事細かに記載している。
確かに現代社会では、様々なテクノロジーがすでに社会に浸透していることもあり、一昔前と比較してより円滑に新しい技術が普及するように思われる。情報の共有が不特定多数に瞬時に行われることが大きく影響している。したがって、特定の技術が「イノベーション」と表現され、それそのものが急速に社会を変えるといった認識がしばしばなされる。
既存の社会制度に組み込まれない、適応しない技術である場合には、社会により早く浸透し、その後様々な問題が起こってから制度が設けられる。インターネットに関連する技術にはしばしばそのようなものも存在する。しかし、上記のコンテナのような発明においては、既に社会に整備された様々な制度や規定が導入の障壁になる。そして、『コンテナ物語』でも取り上げられているように、それらは既存の企業や政府、労働組合などの利害関係を考慮して設計されたものだ。
この書籍に描かれる物語は、それら全てをたった一つの発明が変えるような単純な話ではない。全てを変え得る一つの奇跡的なイノベーションに関する物語が描かれているわけではなく、ただそれに関与する社会変化のプロセスが淡々と記述されている。それには、一企業の発明や各事業体の取り組み、グローバルな変化や流れに至るまで簡潔に説明されている。『コンテナ物語』からは、テクノロジーの普及や社会の急速な変化を妨げる要因、反対の言葉を用いれば社会が変わるために必要な要素を細かく知ることができる。
2023年10月14日