バイデンでは癒せない米国の分断とハイパーバトルサイボーグ達
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バイデンでは癒せない米国の分断とハイパーバトルサイボーグ達

米国の大統領選挙も終わり、留学生・国際協力の立場からすると、バイデン次期大統領が誕生したのは大変喜ばしい事です。しかし、獲得代議員数だけを見るとバイデン次期大統領が圧勝したかのように映りますが、単純な票数だけ見れば、なかなかの接戦でした。

トランプ政権誕生の背景にはリベラルと反リベラルの分断があり、トランプ政権下でこの分断は一層深刻化したと言われています。では、バイデン次期大統領はこの分断を癒すことができるのでしょうか?

私は、分断が一層深刻化することはあっても、これが癒えることはまず無いと思っています。それは、リベラルと反リベラルの分断はもっと根が深い所にあり、1980年代以降の教育政策がその悪化を加速させ、これが改善に向かう見込みがないからです。どういう事でしょうか?

まず、リベラルとは主に誰で、反リベラルとは主に誰なのかを確認しましょう。バイデン次期大統領の支持は、①都市部、②若者、③大卒の3つが重なった所で特に強い事から、この3つの属性を持つものをリベラル(Young Urban Professionalの頭文字を取って、ヤッピーと呼ばれている層です)、逆の属性である①農村部、②中年ー老人、③非大卒の3つを持つものを反リベラルとしておきましょう。

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出所:FiveThirtyEight

米国の有権者の中で大学を卒業している人は1/3しかいないことは抑えておきたい事実ですし、上のリンク先の記事が議論しているように人口密度(都市か否か)と民主党支持か共和党支持かは綺麗な相関がある点も抑えておきたい事実です。(注:NYTの出口調査の方が分かりやすいので、こちらをぜひ参照してみて下さい→リンク


「アメリカの大学生はよく勉強する」は本当か? トップスクールとそれ以外の「大格差」という現代ビジネスさんの記事でも解説しましたが、米国のエリート、リベラルの中核をなす人達は恐ろしく勤勉です。なぜなら、米国のエリート達は、自分達が勤勉であるから特権を受けるに値するという洗脳教育を家庭でも学校でも受けるからです。

ハーバードやイエール大学の学生の保護者の平均年収が、日本ではちょっと考えられないほど高い事は有名ですが、そういう保護者達が、全ての子供が等しく良質な教育を受けられるように税金を支払うのではなく、大学への寄付を通じて、自分達の子供だけが良質な教育を受けられるようにしているわけですが、そんな大きな特権を受けられるわけですから、「勤勉であるから」といった洗脳なしには、特権を受けられる自分と受けられないその他大勢との差に疑問を持つのが普通の人間というものでしょう。しかし、この洗脳には致命的な副作用が伴います。なぜなら、勤勉ならば特権を受けるに値するの裏返しをざっくばらんに言えば…、

勤勉でない連中はクズだ

だからです。リベラルが反リベラルを見下していて鼻持ちならない正体はこれです。別にリベラルの人達は性格が悪いから反リベラルを見下しているわけではありません。勤勉であるから良い学校で教育を受けられる、勤勉であるから社会に出てからも特権を受けられる、と子供の頃から洗脳された結果、勤勉でない連中≒反リベラルはクズだとなってしまうわけです。ここが崩れると、自分達が特権を受けている基盤も崩れるわけで、それこそ洗脳された信者が新興宗教団体を抜けるよりも遥かに難しい認識の転換となるわけです。

リベラルが人種差別やLGBTQの問題に取り組む理由もこのロジック上に存在しています。この人は勤勉なのに、黒人/性的マイノリティだから、という理由で特権を受けるに値しないのは良くない、というのがリベラルの考えの本当の所です。

アメリカから暴動の火は消えない」という記事の中で、BLM運動に熱心なDCのリベラルな人達でさえ一駅向こうの黒人地区の貧困&治安の悪さを気にも留めないと解説しましたが、その主な理由もこれです。自分達と同じ職場にいられるような勤勉な黒人が差別を受けるのは、自分達の存在基盤が揺らぐので全く許容できないが、一駅向こうの昼間からアルコールや薬でラリって働きもしない黒人は救うに値しない、というのが幼い頃からの刷り込みの成果です、勤勉になるための機会すら与えられなかったという事実を一顧だにすることなく。


そして、教育や労働以外にもリベラルと反リベラルを分断する「勤勉さ」があります。それは、引っ越しです。

詳しい話はぜひリンク先のレポートを読んでみて欲しいのですが、米国の大卒と非大卒の間には引越しに関して大きな違いがあります。大卒は、より頻繁に、より遠くに、機会を求めて引越しをするのに対して、高卒は引越しをしないし、してもそれほど遠くへは行かない、という特徴を持っています。

ここで、ラストベルトの話を思い出して欲しいと思います。私が住んでいる地域は、石炭産業や製造業が大きく傾き、使われなくなった工場が錆び(ラスト)つき、それが固まっている地域なのでラストベルトと呼ばれています。ここで貧困にあえぐ白人達が、2016年にトランプ政権を生み出したと言われています。

このラストベルトの惨状に対して、リベラルならきっとこう思うことでしょう。なぜ同じ産業内でも機会がある別の地域へ引っ越さないのか?なぜ同じ地域内でも機会がある産業へ移るために学び直さないのか?なんて怠惰な連中なんだ、救うに値しない連中だ、と。


これを象徴する言葉がアメリカには有ります。

誰かが昇進した時、日本だと何と声をかけるでしょうか。恐らく、おめでとう、頑張れよ、辺りだと思います。もちろんアメリカでも、おめでとう(Congratulations)は頻繁に使われますが、日本ではまず使わないだろうなという言葉があります。

Well deserved!

deserveとは、…の価値がある、…を受けるに値するという意味の動詞で、well deservedは当然だという意味もありますが、その語意はあなたはその昇進を受けるに値する人間だ、ないしはその昇進はあなたに相応しい、といった辺りにあります。

進学にも昇進にもコネが重要な役割を果たす米国社会で、勤勉だから良い教育を受けるという特権を受けるに値する、勤勉だから昇進を受けるに値する、という洗脳が横行するのは何とも皮肉なものです。

リベラルは新副大統領のハリスさんが大好きですが、女性&黒人&アジア人という背景を持ちながら、ここまでの地位を築き上げた、副大統領になるのもwell deservedだと考えているはずです、父親も母親もPh.D持ちという超絶有利な背景を持っているという事など気にも留めず。


さらに悪い事に、「生まれた瞬間から不利…黒人が直面する「構造的差別」の深刻すぎる現実」という記事で解説しましたが、米国の不平等な教育制度は、元々、自分達で集めた教育費を話し合ってどのように使うか決める、という民主主義を養うための制度であったのに、これが吹っ飛び、リベラルの正体である勤勉で機会のためなら引越しも厭わないハイパーバトルサイボーグ達と、勤勉になる機会すら与えられず地元に留まる反リベラル達、の分断を加速させました。

1983年に出版されたA Nation at Riskという報告書は、一言でまとめると、このままの教育では貿易相手国(日本)に負けてしまうので、子供達の学力を高めて、将来の労働力達の生産性を上げなければならない、というものでした。教育には、機会の平等・生産性の向上・民主主義の育成と多様な目的がありますが、この報告書は、アメリカの教育から民主主義の育成を吹っ飛ばし、生産性の向上≒学力向上のみにフォーカスを当てるようにしてしまいました。

まだ民主主義の育成が主眼に置かれていた頃であれば、勤勉であるから特権に値するとしても、まずは話し合おうとなったかもしれませんが、現在の学力偏重の教育では、勤勉であるから特権に値するし、怠惰な奴の話など聞く価値も無い、へ陥るのは容易に想像が付く事です。

さらに、民主主義を育成するための基盤であった学区が、学力偏重へと突き進むことでその意味合いも変化し、分断の象徴となってしまいました。もちろん、学区とは関係のない私立学校がハイパーバトルサイボーグ達の主な担い手ではあるものの、良い学区も学力を追求するためにその純度が高まり、未来のハイパーバトルサイボーグ達が未来の反リベラルの担い手達と同じ教室で学ぶ機会も減っていきました。

そして、学力偏重への口火を切ったのは件の報告書が出てから10年後の、Education Governorの主要な一人であったビル・クリントンが政権についてからです。そして、これは子ブッシュ・オバマ政権のNCLBとRttTで強化されていきました。この時の小中学生達は今、20代・30代・40代前半となり、アメリカの分断の主要な担い手であるハイパーバトルサイボーグへと成長しました。

もちろん、教育システムの外にもハイパーバトルサイボーグ養成ギブスが揃っているはずですが、教育システムの中だけでも、①民主主義の育成を取り戻す、②学区による分断を解消する、③勤勉だから特権に値するという洗脳を解く、を実現しないことにはアメリカの分断を癒すことはできません。

バイデンどころか、誰が大統領になってもムリゲーです、お疲れ様でした(バイデン大統領の教育政策については、ポストコロナ時代のアメリカに求められる大統領は誰なのか、という記事の中で解説しているので参照してみて下さい)。


余談ですが、私も随分とハイパーバトルサイボーグ化しつつあるなと思います。国際機関の職員として、アメリカとアフリカの反復横跳び引越しをしている時点で相当なハイパーバトルサイボーグではあるのですが、新型コロナのせいで、ネパールで博論の調査をするためにここに来たのにダメになった、3年かけて準備した博論の研究計画がダメになった、イギリスの大学院で教えるために3年間授業を計画的に取っていたのにアカポスが出なくなった、そして離婚してバツ2になった、この半年の状況を考えると立ち上がる事すらできなくなっているはずです。事実、一度目の離婚のときには、ダメになったのは家庭だけで、仕事は上手くいっていたのに立ち直れず、倒れて日本に帰国しました。なのに、今はシン博論計画を12月にデフェンスするべく猛スピードで進め、大学の仕事もこなし、記事の執筆とNGOの仕事もこなし、就活も進めて(既に2度面接まで行ってます)、挙句には来年出る予定の本の執筆までしています。

一度目の離婚のときはまだ人間らしさが残っていましたが、アメリカ的な国際機関とアメリカの大学院で干支が一周する以上の時を過ごして、かなりの程度ハイパーバトルサイボーグ化したようです。アメリカン・ハイパーバトルサイボーグ達が反リベラルと全く接点なく育ったのとは異なり、地元の川向こうの同和地区のサッカー少年団や、高校中退者続出のルーキーズのようなサッカークラブで少年時代の多くの時間を過ごしたはずなのに、岐阜で生まれ育った時間を、岐阜の外で過ごした時間が追い抜こうとする中で、殆ど思い出せなくなってきました。

今の苦境を乗り越えて仕事を得た時にwell deservedと言われて私はどう思うのか、ボロボロになりながらスーツケース二つで何千キロの距離を移動して仕事を再開した時に地元に留まり続ける人達の事を私はどう思うのか。

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Herman campos - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=19271248による

ハイパーバトルサイボーグと言えば、ジェロム・レ・バンナの敬称で、父親も叔父も従弟もC京大体育学部というフィジカルエリートの私はこの人に憧れて、バンナのように柔道から格闘家へと進もうと思い、一家のスポーツであるサッカーを辞めて高校で柔道部に入ってフィジカルを鍛えまくったのに、成れの果てがバンナのようなカッコいいハイパーバトルサイボーグではなく、醜いアメリカン・ハイパーバトルサイボーグになりそうだというのは、何とも残念なお話です。

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(広告)私も理事を務めるネパールの教育支援をしているNGOサルタックでは、月額500円以上のご寄付でサルタックフレンズとして、Slackのオンラインコミュニティにご招待しますので、是非今回のブログの内容について質問がある、議論をしたい、ないしは国際教育協力や進路に関する相談をしてみたいという方は、サルタックフレンズにご加入ください。また、不定期に開催されるウェビナー後のQ&Aセッションにもご招待しますので、お楽しみに→サルタックフレンズになる

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畠山勝太/サルタック

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。

ミシガン州立大学の博士課程の学生で教育政策を専門にしています、頂いたサポートは私が理事を務めるNGOの活動資金にしますのでよろしくお願いします。詳しい自己紹介はコチラ→http://www.sarthakshiksha.org/ja/who-we-are/staffs/sh/