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アメリカから暴動の火は消えない

米国は、新型コロナ・それにまつわる大量失業・暴動、と驚異的な事態となっています。新型コロナだけを見ても、依然として毎日2万5千人の新規感染者を出しつつ、あれだけ人々が密になる暴動が全米各地で起こっているという状況です。ちなみにですが、米国はオリンピックで最大の代表団なのですが、これを来年東京で受け入れるんですかね?

私の事をご存じない方のために、この記事に関連するバックグラウンドを説明すると、2008-2012年までワシントンDCにある世界銀行で働き、今はミシガン州立大学という、網走刑務所のような極寒の地で教育政策の博士課程をしながら、ネパールの貧しい子供達の教育支援をしているサルタックというNGOの運営をしています。

早速になりますが、この記事の内容を説明すると、少なくとも今後数十年経っても米国から暴動は消えないと私は考えています。それは、ワシントンDCという土地と、米国の教育政策を理解するだけで見えてくるものです。日本の教育政策を考える上で参考になる点があるかもしれないし、米国という国を理解する一助となると思うので、ご興味がある方はしばしお付き合いください。

1. 高学歴・高収入・民主党の街ワシントンDC

ワシントンDCというと、みなさん色々なイメージを持っていると思いますが、街の詳細はウィキペディアに譲って、暴動の背景にある人種間格差・人種差別に関連があるものだけ紹介したいと思います(※ワシントンDC自体は、10平方マイルの極めて狭い領域ですが、DCエリアはDCに隣接するバージニア州の一部とメリーランド州の一部を含みます。DCエリアの地下鉄の路線図を見てもらうと分かりやすいかもしれません)。

DCエリアの特徴として、全米で2番目、というよりもほぼほぼ世界で最も住民の学歴が高い街であるという点が挙げられます。データのとり方によって変動が出ますが、この記事などを参考にすると、DCエリアの住民の約1/3は大学院卒です。DCエリア内でも場所を絞れば住民の過半数が大学院卒という住むにはやや息苦しい街となっています。

なぜこんなに住民の学歴が高いのか一応説明しておくと、DCエリアの住民の主な仕事は、ナショナルジオグラフィックを除くと、官僚か大使館か国際機関か弁護士かロビーイストか大学関係者か、といった所です(私がDCを離れてからぐらいに、郊外でIT産業が伸びてきてインド系住民が多く住むようになったとも聞きます)。

住民の学歴が高いということは、当然ですが、住民の平均所得も高くなっています。お金持ちというと、シリコンバレーを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、中位所得に限って言うと、全米一豊かな郡はDCエリアにありますし、トップ10の内でもDCエリアからは4郡が入っていますし(トップ3独占)、トップ20を見てもその内8郡はDCエリアです。一応地図にお絵かきしてみると下の通りになります。明るくなっているのがワシントンDCで、面積で言うと、山手線の内側とほぼほぼ同じぐらいです。

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学歴によって民主党と共和党の支持が分かれていることは近年話題となっていますが、やはりこれだけ高学歴人口が多いと、政治的には民主党支持に偏っています。NY Timesの記事で、2016年の大統領選挙でどの地区が、ヒラリー(民主党)とトランプ(共和党)にどれだけ投票したのか見られるようになっているので、ぜひ遊んでみて下さい。DCエリアはというと、下のように真っ青で民主党の牙城である事が分かります。ワシントンDCに限って言えば、ヒラリーの得票率は90%を超えており、the圧勝ということが分かります。

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つまり、ワシントンDCエリアという街は、高学歴・高収入・民主党支持が集まっている街であり、米国のリベラルは誰かということを考えれば、米国の中でも最も反人種間格差が強力である街だと考えられます。

2. 低学力と殺人の街ワシントンDC

私の書いた文章を読んだことがある人なら米国では基本的に固定資産税が教育予算となる事をご存知だと思うので、前章を読んで、ワシントンDCは高学歴・高収入の人が集まっているので、さぞかし学力も高い素晴らしい街だと思うことでしょう(今まで一度も読まれたことが無い方は、こちらの記事が一番参考になるかなと思います→日本人が大好きな「ハーバード式・シリコンバレー式教育」の歪みと闇。また、ショーンKYさんが以下の記事で詳しくこの点について解説してくれているので、是非ご参照ください)。


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上の図は、National Assessment of Educational Progress (NAEP)の、8年生の国語の結果です。さすがワシントンDC、常に全国平均を大きく上回っているじゃないか!と思われた方、逆です逆。丸が全国平均、十字がワシントンDCです。ワシントンDCは、高学歴・高収入の街なのに、学力が全国平均以下だなんて、さては畠山はこれまでの記事で嘘ばっか書いていたな?、と思われる方がいるかもしれませんが、そうではありません。

州毎の殺人事件発生率も見てみましょう。FBIの2018年のレポートを見ると、米国50州の中で最も殺人事件発生率が高いのは・・・ルイジアナ州で人口10万人当たり、11.4件の殺人事件が発生しています。同じ年の日本の値が0.24ぐらいなので、ルイジアナでは日本の約50倍も殺人事件が発生していることになります、なかなか恐ろしいですね。

では、ワシントンDCの値はというと(DCは50州+DCのような表現がされます)、22.8。日本の約50倍も殺人事件が発生する州のさらに倍、アカギも驚きの倍プッシュとなっています。以前読んだ記事の記憶が正しければ、ワシントンDCの治安は、あのコロンビアの首都とほぼ同じぐらいだそうです。

畠山は、そんな危ない街に4年間も住んでいたのか!、と驚かれるかもしれませんが、そうではありません。

3. 世界で最も広い川

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上の図はWalkScoreによるワシントンDCの治安を表した地図です。DCの左半分を見ると、犯罪が殆ど発生していない、とても安全な地域である事が分かります。私が最初の2年間に住んでいたのはNorth Westの真緑の地域で、住んでいて危険を感じた事は一度もありませんでした(その後、職員になってお給料も上がったし結婚したので、Arlingtonに引っ越しました)。

これに対し、右半分、特にアナコスティア川よりも東側の地域が真っ赤で極度に治安が悪いことが分かります。この地域だけに絞って言えば、殺人事件発生率は20台とかそんなものには全く収まらず、修羅の国が広がっていると言えます。DCの学力が全国平均以下なのもこの地域のせいで、真緑の地域に関して言えば、あのマサチューセッツ州と遜色ないぐらいの成績を残しています。

当然ですが、真っ赤な地域は主に黒人が住んでおり、その治安の悪さから白人は立ち入ることすら難しい地域です。川幅僅か200mのアナコスティア川を挟んで、世界で最も学歴も収入も高い地区と、全米でも最も治安が悪く恐ろしく学力の低い子供達が住んでいる地区が対峙しています。

(これは若干誇張で、アナコスティア川西側でもHill Eastは治安が良いですが、それ以外は概して治安が悪く、Columbia Heightsというエリアに住んでいた感想としては、実際の大きな境目は16th Streetかなと思います)

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秋の大統領選挙でトランプが負ければ、アメリカから暴動はきっと無くなると思う人がいるかもしれません。しかし、全米で最も民主党が強く、最も豊かで学歴の高い人達が住む街で、黒人を隔てるこの地球上で最も広い川が存在しているのですから、トランプが負けたぐらいで、なんなら次の選挙で民主党が上院・下院双方で圧勝したとしても、この国が二度と暴動が起こらない国になるなんてことはあり得ないでしょう。

DCの住民の大半は、人種差別に反対するリベラルな人達です。自分も、真緑の地区の中で人種差別的な扱いを受けた記憶が殆どありません。なんなら、人種差別的な事を叫んだらポリコレ棒で袋叩きにあうような気さえします。ただ、治安が良い所に住みたい、子供により良い教育を与えられる所に住みたいという人間として当り前な願望が、この全米で最もリベラルな街に黒人を隔ててしまう世界で最も広い川を作り出しているのです。

UNICEFもTwitterで、子供達に人間としての尊厳を教えることから始めようと呟いていましたし、それが重要なことも分かります。しかし、DCの高学歴で高収入なリベラルな人達の生き様が示すように、それだけでは人種間格差は消滅しません。土地と教育予算の結びつきを始めとする、教育システム内に張り巡らされてしまった人種間格差を維持・拡張してしまう仕組みを徹底的に取り除く必要がありますが、それを取り除こうという断固たる決意を持った政権が続いたとしても何十年もかかるでしょう。トランプ政権のような反動型の政権が誕生したら、その時間はさらに伸びます。さらにそこから人種差別が無くなるまでにも、莫大な時間がかかるはずです(土地と教育予算外にどのような仕組みが問題を引き起こしているのか興味がある人は、こちらの記事を読んでみて下さい→「アメリカの大学生はよく勉強する」は本当か? )。

しかし、残念なことに、「ポストコロナ時代のアメリカに求められる大統領は誰なのか」、という記事で解説したように、民主党側の大統領候補であるジョー・バイデンも、その断固たる決意を持った人物ではありませんし、なんならバーニー・サンダースですら断固たるとまでは言えません。

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人の事ばかり指摘して、自分はどうなんだと怒られそうなので白状しておきます。当時の私を含め、世界銀行の職員の多くはFarragut Westという駅から100mほど歩いてオフィスへ行きます(黒矢印)。その僅か100mの間に公園があり、そこにはホームレスの方がいます。貧困削減や貧富の格差の解消を仕事にしていた私も、数年世界銀行の本部で勤務した後には、毎朝・毎夕出会うホームレスの人達を気にも留めなくなっていました。恐らく多くの世銀職員も同様だと思います。DCの学歴が高く収入も高い民主党支持のリベラルの人達も、こんな感じで、同じ地下鉄のライン上の治安が悪い所で、まともに学ぶことも出来ない黒人の子供達の存在を気にも留めなくなるんだろうなと思います。

それは長い長い道のりになるでしょうが、この国が暴動が起こらない平等で豊かな国に向かって一歩一歩、歩んでいってくれることを願ってやみません、諦めたらそこで試合終了ですよ。

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サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。

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ミシガン州立大学の博士課程の学生で教育政策を専門にしています、頂いたサポートは私が理事を務めるNGOの活動資金にしますのでよろしくお願いします。詳しい自己紹介はコチラ→http://www.sarthakshiksha.org/ja/who-we-are/staffs/sh/

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コメント (2)
あ〜…。アメリカとかの所謂”リベラル“と言われる連中の言説に、説得力が何で無いのか、とかの理由も解る気がしましたなァ…コレは…。非常に解り易く、素晴らしい記事だと思いますよコレ…。
初めまして。今回の暴動の件は本当に心を痛めております。大切なご指摘をありがとうございました。
私は93年から95年にDCのまさにNWエリアにおりました。まさに大学院におりました(Gのつく方ではありません)。畠山さまのDCの描写になつかしさが込み上げてきてしまいました。ウィスコンシンストリート沿いに当時MIKADOという日本料理屋さんがあったと記憶します。ファラガットウェスト駅の近くにはクラブがあったり、ビールのおいしいお店があったりしてよく行きました。ビーチバレーのコートつきのナイトクラブがあったかなと。
SW方面は確かに恐かったのを覚えています。シーフードは食べに行ったようにも想いますが、早々に退散してきました。
卒業せいてから一度もDCを訪れておりませんが、いつかは行きたいと想っています。
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