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どんな大人?

 会社に向かうため電車に乗り込み端の席へと座る。周りは同じく会社に向かうスーツを着た人が多く乗っていた。月曜日だからなのかみんな表情が暗い。しばらくするとまだ綺麗な制服を着た男子高校生二人が乗り込み僕の隣であるドア横で「昨日の大喜利のみた?」「見た見た、めっちゃ面白かった。どうやってあんな解答思いつくんだろうね」と談笑を始めた。僕も昨日見ていたテレビ番組についてだった。あの芸人が面白いとか他の番組ではどうとか結構なお笑い好きらしい。熱く話していたので「君たちお笑いが好きなんだ、カフェでお茶でもどう」とでも言いたがったが、高校生から見た僕は相当年上である男にそんなこと言われて引いている二人の顔が想像できたので黙って座っていた。

 2駅分ぐらい過ぎたあたりでお題の出し合いをしていた。「こんな携帯はやだ。どんなの?」少ししてから「充電がすぐ無くなるとか?」と答えていたが「なんか普通だなあ」と少し盛り下がっていた。「じゃあ次は俺が問題出すね」吊革に掴みながら電車の天井を見上げ考えている様子を横目で見る。「じゃあ。こんな大人はやだ、どんな大人?」少し時間が空いて、「幼稚な大人」と少し大きな声で返す。周りにいたサラリーマンの人たちが一瞬だけ高校生達に目をやっていた。後ろから指を指されて「幼稚な大人」と言われたかのような睨みつける視線だった。でも僕は子供心を忘れない、いつも楽しそうな大人もいいけどねと思った。小さい頃は大人になったらどこかのタイミングで「パチッと」切り替わり大人になると思っていたが実際そんなことはなかった。そんなことを考えていると。大人の視線にも気付かず「うーん」と高校生達は答えに対して低い声を出す。

 僕も外の流れる景色を見ながら考える。豪華なテレビの舞台で並んで座り僕が解答する場面を浮かべる。「こんな大人はやだ。どんな大人?」お題が読まれる。フリップに絵も添えて出す「いまだにマジックテープの靴を履いている」「シーン」これがすべるというやつかと思い、出てもいないのに背筋がゾゾっとなる。しばらく考え「まだ、離乳食を食べている」と答えるとなぜか次は金髪の芸人が突如現れて「やですねー。鞄に小瓶がたくさん入っててね、お昼はこれなんですって。離乳食から離れられないなんて言っちゃってねなんてバカヤロー」と付け足してくれた。なんか自分の解答の考え方が同じだなぁと思っていると「ピンポーン、ピンポーン」電車のドアが開いた。ふと横を見ると隣の高校生もいなくなっていた。思わず「え」と声を出す。降りる駅から3駅も過ぎていた。急いで鞄を持ちドアに走りながら僕は「こんな大人はやだ。どんな大人」の回答は「高校生の会話を盗み聞きして遅刻する大人」だなと思った。

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