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2023年レガシーの記録“Orc and the Beanstalk”

2023年ももうすぐ終わりなので、今年レガシーに起きた変化をまとめてみようと思います。

チブデル期(1~2月)

2023年当初、≪表現の反復≫を擁するUR Delverこそ誰もが認める最強デッキでした。
≪白羽山の冒険者≫がUR Delverに対抗できるコントロールデッキを食い荒らした墓場を、そのUR Delverが悠々と闊歩していました。≪白羽山の冒険者≫を始めとするイニシアチブという能力は、レガシーに限らず、あらゆる1対1フォーマットの環境を破壊した元凶です。

そんな中、2023年最初の爆弾は2月3日に投下されました。

≪偉大なる統一者、アトラクサ≫

これまで10年以上もの間、最強のアドバンテージクリーチャーとされていたのは≪グリセルブランド≫でした。これを超えるクリーチャーは出ないだろうと思っていましたが、2023年2月、その≪グリセルブランド≫をも超えるスペックを持つ最強生物がレガシー界に衝撃を与えました。
これにより、Sneak&ShowやReanimatorの採用生物がアップデートされ、数年ぶりにUBタイプのReanimatorがメタゲームに顔をのぞかせるようになりました。
Delver系相手には多少ライフが少なくても≪アトラクサ≫が通ればほぼ勝ち。警戒もなく、ライフを払わなければリソースを確保できない≪グリセルブランド≫との明確な違いがありました。何より、青いカードであることが≪意志の力≫のピッチコストとしてデッキの安定感を底上げしてくれていたのです。
それでも、元々コンボ相手に強いUR Delverがトップメタなので、その牙城を崩すには至りませんでした。

禁止後混迷期(3~5月)

まだ≪アトラクサ≫を採用した構築が色々と検討されている段階の3月6日に2枚の禁止カードが発表され、≪表現の反復≫と≪白羽山の冒険者≫がレガシーを去ることになりました。
≪白羽山≫に関しては当然だし遅すぎるくらいだと思いましたが、個人的に≪反復≫は別に禁止にしなくても・・・という印象で、それは今でも変わりません。
その後もトップメタはUR Delverで変化ありませんでしたが、以前のような支配的なメタゲームではなく、構築も衝動的ドローを多数採用する形など色々と模索されていました。イニシアチブも白単から(主に赤か緑)色を増やして結局生き残っていました。
この時期は、プレイしていて一番「よくわからない」時期だったという感覚ですが、自分自身はBUG Order等でMO1シーズン中に5-0を10回するなど、調子のいい期間ではありました。

指輪黎明期(6~8月)

6月23日に発売された指輪物語:中つ国の伝承は、モダンホライゾン3(後に3が発表されたので2.5とも)と揶揄されるほどイカれたカードパワーの高額セットで、その筆頭が≪一つの指輪≫と≪オークの弓使い≫です。

≪指輪≫は、4マナで≪精神を刻む者、ジェイス≫も真っ青なくらいのアドバンテージ能力に加え、1ターンの無敵付与、そして何故か破壊不能が付いています。いや、フレーバー的には破壊不能で正しいのですが、カードデザインとしては理解できません。
正直、4マナという重さと、どちらかと言えばVintageでの危険性に先に気付いたため、最初のレガシーでの注目カードから抜け落ちていたのですが、使って(使われて)みたらすぐにその危険度を理解しました。≪指輪≫からカードを引いて次の≪指輪≫に繋がると、対戦相手は何もできないターンが続き、こちらは一方的にカードを引き続けるのです。

≪オーク≫は一見で多くの人が強いと理解したでしょう。相手がカードを引くデッキじゃなかったら弱いのでは?という人もいましたが、1/1が2体と1点火力という最低限のスペックは有していたのでほとんどの黒いデッキにおいて採用しない理由がない強さでした。
環境から≪氷牙のコアトル≫を締め出し、レガシーにおけるドローの在り方を変える採用率を見せました。当初自分が想定した以上の影響をレガシーに与えたと言って良いでしょう。

≪進め、エオルの家の子よ!≫は、前述の2枚より採用範囲こそ狭いですが、あらゆるデッキにプレッシャーを与え、禁止から数ヶ月で再びイニシアチブがトップメタの一角に躍り出る要因になりました。
2/2速攻を量産し、何故か統治者まで獲得する。マナさえあればワンパン終了も狙えるし、序盤なら1〜2体の展開でも統治者を得るだけで破壊されない継続的なアドバンテージ源です。序盤・中盤・終盤そのすべてで無駄が無い。強すぎてテキストを読むたびに首を傾げてしまいます。

そのほかにも基本土地サイクリングの登場によりUB Scamというデッキが登場するなど指輪物語がレガシーに与えた影響はこの1年で最も大きかったと言えるでしょう。

豆の期(9~12月)

エルドレインの森で最初に注目されたのは≪鏡に願いを≫でしたが、最も影響を与えたカードは≪豆の木をのぼれ≫だったと言って間違いないでしょう。 

想定どおり一部のコンボデッキで限定的な≪悪魔の教示者≫として使われる程度に落ち着いた≪鏡≫に対して、≪豆の木≫はジャックも追いつかない速度で一気にレガシーのメタゲームを駆け登って行きました。お隣のモダンでは駆け上りすぎて発売3ヶ月で早くも禁止されてしまいましたが。

そのアドバンテージ力は、今年登場したばかりの最強アドバンテージ源である≪指輪≫すら凌ぐものです。≪豆≫の登場で、そのドロー能力を活用するために≪力線の束縛≫を採用し、イカれたマナベースになった4or5色のコントロールが台頭し始めました。もちろん、≪指輪≫を併用して。
11月末~12月上旬に開催されたEternal Weekendにおいては、RW Initiativeに並び選択すべきベストデッキだったと思います。コンボデッキやイニシアチブデッキを苦手としてはいますが、≪豆≫が場に出ると苦手なデッキすら圧倒する程のアドバンテージを供給してくれます。
同時に登場した≪探索するドルイド≫もテンポデッキの優秀なリソース源として活躍していますが、≪豆≫は複数枚揃うとライブラリーアウトを心配するほどにカードを引くことができます。デッキ構築に制限はかかりますが、アドバンテージ力には大きな差があると言っていいでしょう。
使ってみるとよくわかるのですが、引きすぎです。

≪豆≫が勢力を伸ばす一方で、ステッカーゴブリンこと≪_Goblin≫がMOに実装されたことによりリストが洗練され、EWE前後から密かに勢力を伸ばしたのがゴブリンです。≪_Goblin≫によるマナ加速を手に入れたゴブリンは圧倒的な速度を手にし、ほとんどコンボデッキになりました。割と平気で2キルしてくる。
ゴブリンはとにかく豆コン相手に強いので、EWEから一転してTLS本戦ではゴブリンが最適なデッキ選択だったと思います。

そして2024年へ

今のレガシーで最も禁止に近いカードは≪豆の木をのぼれ≫でしょう。
2023年で禁止について一番騒がれたのは≪オークの弓使い≫だと思います。レガシーの根幹である≪渦まく知識≫などのドロースペルを2マナ瞬速で制限するのが強力であるのは間違いありません。そして、≪オーク≫を対処するのに最も適したカードが≪オーク≫であるという点も問題視されていました。
それでも、≪オーク≫がいなくなれば≪指輪≫や≪豆≫などの異常なアドバンテージをもたらすドローエンジンが自由になり、暴れまわるでしょう。

なんというか、最近のカードパワーのインフレにはさすがに疲れてきます。
よって、≪ウルザの物語≫は禁止となります。

余談:MTG専門店閉店ラッシュ

2023年の話題と言えば、中小規模の店舗のMTG取り扱いの終了や閉店が話題に挙がりました。
MTGそのものの売り上げが低下しているわけではありません。むしろ堅調とされている中での閉店等は一見不可解です。
この矛盾した状況の主たる原因は最近のカードの種類の多さにあると言われています。単一のカードに複数種類のイラストやバージョンが存在すると、なぜ閉店等の結果につながるのか。

まず前提として、顧客側はある程度統一したイラスト等で揃えたいという人が、意図的に散らす人や全く気にしないよりも多数派であるとします。自分の体感ではこれは間違いないと思うけれど。

パックから複数種類のカードが出てくると、欲しいカードであっても狙ったイラストのものが手に入るとは限りません。以前までであれば、パック開封でも「4枚中1枚だけFoilが出てしまったから買い直そうか」という程度だったものが「4枚のうち1枚通常、2枚拡張、1枚拡張Foil」などバラバラに出てきます。(一般的に最も安価になる)通常版で統一したい人は、すでに持っているカードなのに3枚買い足さなければなりません。それなら、そもそもパックを剥かずにシングルで買った方が良いという結論になるでしょう。
そして、シングル買いとなると送料等の関係上、一回の注文で必要なカードをすべて揃えることができる大型店舗に利用が集中するでしょう。

もちろん、二次流通用のシングルカードを用意する店舗側でも同じ状況が発生します。
晴れる屋のように大量に販売することができる店舗であれば、途方もない数のパックを開封してイラスト毎に在庫を準備することができるのですが、中小規模の店舗ではそこまでの準備ができません。1枚だけ残った拡張アートのカードなどは不良在庫として売れ残ってしまうでしょう。

具体的な数字で示すと・・・

これまで通常版20枚、Foil版10枚をシングル販売用にBox開封から確保していたとします。全てが4枚ずつ売れたとして、通常版を5セット、Foil版を2セット販売して売れ残った在庫がFoil2枚になります。

これに対して、通常版10枚、拡張版10枚、通常Foil版5枚、拡張Foil版5枚がパックから出たとすると、通常版2セット、拡張版2セット、通常Foil版1セット、拡張Foil版1セットが売れたとして、売れ残りは通常版2枚、拡張版2枚、通常Foil版1枚、拡張Foil版1枚となり、ほぼ1セット分が多く売れ残ることとなります。

もちろん、4枚ずつ購入するパターンばかりではないため、必ずこのとおりになるというわけではありません。ただ、カードの種類が多ければ多いほど、こういった需給の摩擦は起きやすくなります。この摩擦によって生まれた不良在庫を売り切るためには相場より安価で提供しなければならないのです。

このようなことから、カードのイラストや版の選択肢が増えれば増えるほど、望んだイラスト等で必要枚数がしっかりと揃う大型店舗に需要が集中してしまうことになり、中小規模の店舗の経営は厳しくなっていきます。

次に、店舗運営における経費についてです。
シングルカードを販売する場合、ネット販売であればウェブ上に1ページ、店舗販売ではショーケースの一角をそのカードにあてがう必要があります。
これまで通常版とFoil版だけで済んでいたところ、拡張版が増えるだけでも倍に、さらにフルアートなども加われば3倍以上の手間がかかります。手間がかかるということは人件費がかかり、実店舗であれば手間だけでなく物理的なスペースも圧迫することになります。
手間やスペースは即ち費用であり、費用の増加は売り上げが伸びたとしても利益の減少に繋がります。

これについて、自分も何度かnote等で指摘していますが、以前からWotCは成功した手法を何度も繰り返しすぎるのです。

・モダンマスターズが売れた→種類を増やしながら2年に一度から毎年発売→1年で2個のマスターズを発売→やりすぎたのでマスターズ辞めます→1年程で次のマスターズ発売

・お試しのSLDが売れる→毎月新作発表して売れなくなる

・10年以上ぶりのアンシリーズが基本土地含めて話題になる→3年後にまたアンシリーズを追加して話題にもならなくなる→さら2年後のアンシリーズはレガシーや統率者でも使えるようにして無理矢理売り始める→複雑すぎてMOに実装できない

・ゴジラコラボが成功→SLD限定のコラボ商品発表→ウォーハンマーや指輪物語などコラボカードしか存在しない新規カードを連発

バランスの調整が致命的に下手ですね。

各セットに1つくらい、特別なカードに限って特殊枠やイラストがあっても良いとは思います。また、シングル買いを中心にカードを集めているプレイヤーの視点でも、使用するカードに選択肢があるだけなら別に構わないと感じるでしょう。選択肢のないコラボオンリーのデザインは理解しかねますが。
しかし、種類の多さは販売する小売店の視点からは喜ばしいという声だけではないでしょう。商品展開の幅が過剰になると店舗の負担となり、前述のとおり閉店等の結果に繋がっていきます。
ドコが過剰になる点か、その分岐点を見極めるのが最も大切だと思うのですが、近年は特に目先の利益に飛びつきすぎていて、その能力を著しく欠いていると言わざるを得ません。

新しいことへの挑戦は悪いことではないのですが、挑戦ばかりで土台固めを怠ると立つべき足場を失うことになることを忘れてはいけないでしょう。 

余談2:レイオフ

12月14日に発表されたHASBROの大量レイオフ(Layoffs=一時的な解雇)がネット上で話題になりました。長年プロツアーの実況で活躍していたPaul Cheonが含まれるなど、かなり厳しくレイオフを実施しているようです。
レイオフが正しいかどうか、Paulに雇用し続ける価値があるかどうかなど内部事情は分かりません。ただ、HASBRO内では業績が堅調なWotCの中からもレイオフが出ているのは不安が大きいところです。HASBRO全体がそれほど危険な状態なのでしょうか。
諸悪の根源(?)Chirs CocksがHASBROに出ていった今、HASBROを切り捨てて堅調なWotCの独立が必要なのではないか?という妄想が止まりません。
因みにChirs Cocksは、よく悪者にされていますが、実際どんな人物なのか知りません。ただ、彼がWotCのCEOへの就任した前後から、方針が短期的利益に集中しているのは間違いないでしょう。

因みに「これはアーティストの大量解雇であり、今後はAIイラストを使うようになる」という噂が飛び交っていましたが、流石にデマだったそう。サスガニサスガニ。

個人的な振り返り

2023年は遠征をEWEに絞って節約した1年でした。結局目標としたEWEは2日とも見事に賞品に届かず終わってしまったんですが。
ただ、なんとなく集めていたFoilを手放して、長年の憧れでもあったβのデュアルランドを手に入れるなど、明確に方向性を定めた1年でもありました。

※進捗:アンシー3、ボルカ1、トロピ1(アンシー1がスタック上)

1枚目
2〜5枚目

年間の成績は、リアルは227-118(65.80%)とほぼ例年どおり、MOは696-448(60.84%)と少し低めになりました。

MOで勝てなかった要因として、ここ数年のカードパワーインフレによって超パワーメンコデッキが増えたことにあると感じています。
イニシアチブや黒単、ゴブリンなどコンボデッキにも匹敵する異常な速度を持つ、叩きつけアグロデッキが林立するようになりました。
これらのアグロデッキは運への依存度が高い代わりにゲーム展開が速いのでMOのリーグ周回には最適だと言えます。もちろん、相手にする側としても向こうがブン回らないように祈るしかないのですが。
そういったデッキが多いと、ほとんど相性と運に勝敗をゆだねることになります。そして、概ね自分が使うデッキは受け寄りなので相性が悪いのです。クリーチャーを並べるのが好きじゃない自分にとって、イニシアチブや統治者のような殴り合いを前提とし、それ以外では破壊することもできないフィニッシャー(リソース源)は、増えれば増えるほど厳しい環境になっていきます。

正直、Vintageはアレ回したいコレ回したいと目移りするくらいなのに、Legacyはこれと言って回したいデッキがありません。

今年使ったBUG Orderは面白かったのですが、オークも指輪もきつすぎるし、おそらく豆より弱い。MoMAコンはリアルでは好成績だったのですが、MO周回には、時間がかかりすぎるしチブやゴブリン、というか魂の洞窟というカードからパワーカードたたきつけるだけのデッキにめっぽう弱いから適しません。BUG豆はデッキとしては良いと思うのですが、基本土地大好き人間としてはちょっと違うかなという感じがあります。

そうなると、自分で、コレ!というデッキを生み出すしかないんですよね。2024年は、ANTやUG Omnitellに匹敵するマイデッキを手に入れることを目標にしたいと思います。できればコンボデッキで。

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