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MTGに萌えイラストの次元は存在し得るのか

灯争大戦以降、日本人イラストレーターをゲスト枠的に採用する機会が増えてきています。
ジャンプスタート2022やラヴニカリマスターなどで特殊イラストとして収録され、特に可愛らしいイラスト等を中心に人気になっています。
カードの種類が増えること自体は、(販売店の負担が増えるという問題はあるが、)個人的には悪いことではないと考えています。というか興味がないので選択肢の一つである限りはどうでもいい。
「日本画」と呼ぶのは、芸術のジャンルとして日本画という言葉が既に存在するのでやめてほしいけど。

とは言え、自分もMTGのイラストに「アニメ絵」とか「萌えイラスト」と表現されるような所謂日本において独特に発達した「萌え」文化を象徴するCool Japan的なイラスト(以下「萌え絵」とする)が採用されるのに違和感がないわけではないというのが本音です。
実際に、これに嫌悪感を持って「やめてほしい」と思っている人もいるでしょう。例えるなら、「名古屋でかつ丼を注文したのにソースかつ丼が出てきた」とか「某有名海賊漫画を見てたら悟空が海賊王になった」とか、そういう感覚なのかなと思います。

そういった意見に対し、一つ気になる反論がありました。
「MTGは多元宇宙なんだから萌え絵次元があっても良いじゃないか」

なるほど。・・・多様性。だが、萌え絵次元ってなんだ?仮にそういった次元が存在するとして、如何に表現されるのだろうか?
ふと考えてみたくなったのです。

1 二次元と三次元の共存

前提として、MTGの世界は現実世界をベースに構築されています。空想の世界であるため異常な物理法則、魔法などの存在し得ない概念が描かれているものの、あくまでSFの範疇であり、そこに人間がいて、地面や空やその他生物が存在している現実世界の延長です。イラストも基本的には三次元を三次元として写実的に捉えたものとなっています。空想世界の雰囲気を伝えるのに、さらに曖昧さや誇張表現を重ねると受け手に伝わらないので当然でしょう。
これに対して萌え絵は三次元世界を投影した二次元世界です。リアリティを捨てて抽象性を高め、イラストとしてのかわいらしさなどを追及しています。
三次元世界と二次元世界、普通に考えれば共存し得ないものでしょう。

本来相容れない二次元と三次元ですが、空想世界ならば一つの物語として共存し得るか?という問いであれば「不可能ではない」と思います。
ただ、仮に二次元と三次元を完全に共存させるようなストーリーが描けたとして、それを理解できる人がどれだけいるのか疑問が残ります。難解すぎて、エンターテインメントとしては成立しないのではないでしょうか。
MTGのカードに落とし込むなら、リアルなイラストが描かれているジェイスの対面に萌え絵のチャンドラが立っている状態です。イラストとしては想像できますが、実際の情景としては想像できません。
紙に萌え絵のチャンドラが描かれてジェイスの前においてあるのではありません。紙に描かれた時点でそれは三次元の物質なので、二次元という概念の状態のチャンドラがそこに存在していることになります。それをジェイスが視覚的に認知できるのかどうか疑問で、現代の人間の想像力を超えています。

2 二次元を作る

では、二次元の次元を成立させるためにはどうしたら良いでしょう。
同時に存在するのではなく、分離して存在させるということであればイメージは可能だと思います。我々三次元世界の人間が四次元世界を完全に認識できないのと同様に、二次元世界もおそらく三次元世界を認識できません。なので、三次元世界の中に二次元世界を作ることで実現できるでしょう。
有名な創作物では、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』が例として挙げられるでしょう。主人公であるバスティアンが、はてしない物語という本の世界に入って旅をする物語です。
これ自体は、現実の三次元世界からファンタジーの三次元世界への旅ですが、本の世界に入り込むという方法で三次元の人間を二次元に落とし込んで表現すれば、イメージはできるのではないでしょうか。同様に、二次元世界から三次元世界に飛び出してくる状態を三次元視点で表現するのも難しくはないと思います。
本のような、二次元世界への入り口となる媒介を三次元世界に用意することで、物語の中での限定的な共存は成立する可能性があるでしょう。

3 二次元の次元?

MTGにおいてその媒介となるのは次元であり、その世界に入る方法はプレインズウォークになるでしょう。
現実世界のような連続した宇宙では、あの宇宙のどこかに二次元の星があると言われても想像できません。ですが、そこは分離された多元宇宙であり、その間に存在するのが久遠の闇という理解不能の空間です。
わからないことで可能性を広げつつ怖さを作り出すこの設定を上手く活用すれば二次元の次元も想像、いや創造できるかもしれません。

4 二次元との交流

ところで、現実世界に二次元のキャラクターが顕現した状態をイメージしたことはあるでしょうか。MTGをプレイしに「カードショップに足を運んだら、対戦相手が二次元イラストそのままだった件について」なんてなろう系小説のタイトルみたいな状態を想像したことがあるでしょうか。
まるで絵画のようなイケメンがいた!のではなく、漫画からそのまま出てきたような線画の人間がそこにいたら、自分なら怖くて逃げだしてしまう自信があります。イケメンとか不細工とかいうレベルじゃなく、異形の怪物として認識してしまうでしょう。
目の前にゴジラがいるよりも怖いかもしれません。物理的な危険に対する恐怖よりももっと根源的な不安を感じると思います。
想像するのは難しいですが、三次元世界から二次元世界に三次元描写のまま進入したとすると、そもそも三次元世界を認識できない二次元世界の住人は、三次元世界の人が二次元世界の住人を見た時に感じる以上の恐怖を感じるのではないでしょうか。

5 個人的見解

このようなことから、萌え絵は、萌え絵の状態の人間が存在するのではなく、あくまで三次元を投影する手法の一つとして萌え絵を採用したにすぎないと考えた方が良いのではないかと感じています。
萌え絵次元が存在する可能性を否定するつもりはありません。ただ、三次元と萌え絵次元の共存はあまりに難解で、想像も描写も困難です。
これはあくまで現時点での個人的な検討の結果であり、今後、MTGが想像もできなかったような方向に向かっていく可能性もありますし、人によっては違う見解もあるでしょう。
それらをあーでもないこーでもないと話し合うのもMTGの楽しみのひとつではないでしょうか。

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