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ニューノーマル

感染症禍のニューノーマル

集合時間についたのはギリギリだった。
小走りでここまで来たので、少し息が上がる。
いまだにマスクをつけたまま走るのは慣れていないが、外して飛沫を飛ばすわけにはいかない。

集合場所には気心の知れたいつもの面々が、いつもの様子で待っていた。
でも、皆の顔の下半分も、私と同じようにマスクで覆われている。

事前にWeb抽選された番号に従って、前後の人と距離をとって並ぶ。
1番から25番までのグループは、開門15分前にゲートの前に集まるように指定されている。それ以降のグループも時間が指定されており、いわゆる「密」にならないよう、分散入場の工夫がされている。

いよいよ開門時刻となり、まずはサーモカメラの前に立って体温を計測する。そして、手指消毒液で除菌してから、スタジアムの中に入場する。
少しでも体調が悪いと、スタジアムには入れない。

ホームスタジアムに入場する際の風景は、昨年の今頃とは大きく変わってしまった。

さらに、試合中も選手を鼓舞するために歌ったり、飛び跳ねたりすることもできなくなった。
ゴールが決まった後にタオルマフラーを回すこともできないし、仲間とハイタッチもできなくなった。
試合に勝ったあと、選手や仲間とラインダンスを踊ることもできなくなった。
ただ、目の前のスピーカーから流れてくる「以前の私たちの歌声」と、コールリーダーが叩く太鼓の音に合わせて、手拍子をすることしかできなくなった。

そして、アウェイでの観戦においても変化があった。それまで自由席が一般的だったアウェイサポーター席は、ほとんどのスタジアムで指定席になってしまった。自由席でなくなったことにより、開門の何時間も前にアウェイのスタジアムに行ってシートを張ったりすることはなくなったけれど、多くの仲間たちとまとまって見ることは難しくなった。

また、感染状況によってはアウェイサポーター席が設けられなくなった。
今日の開幕戦、レモンガススタジアム平塚にはアウェイサポーター席は設けられておらず、対戦相手のサポーターはDAZNで見守ることしかできない。

ここまで書いてきたことが、この半年ぐらいですっかり定着してしまった。
まさに「感染症禍におけるサッカー観戦のニューノーマル」だ。

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Jリーグのニューノーマル

そんなこんなで、新型コロナウイルスは収束しなくても、1都3県に緊急事態宣言が発出されたままでも、観客は最大5000人しか入れられなくても、ここ平塚でも2021シーズンのJリーグ開幕を迎えることができた。
こんな世の中でも、大好きなサッカー観戦をすることができるのは、本当に幸せなことだと思う。

開幕戦の相手はサガン鳥栖。近年はサッカー以外のことで話題になることが多かったチームだ。経営状況が良くないことなどもあり、選手はガラリと変わっている。スタメンを見ても、「この選手、移籍してきたんだ」という選手が数人いる。
もっとも、相手からしてみたら、こちらに同じような印象を抱いているかもしれないし、サガン鳥栖を湘南ベルマーレに入れ替えてもしっくりくる。(笑)

昨シーズンの両者の対戦は、鳥栖のチーム内に感染症が蔓延した影響で当初予定されていた平塚でのゲームが中止となり、その代替試合は鳥栖でのアウェイゲームの直前に組まれたことから、短い期間でホーム&アウェイの連戦となった。
いずれの試合もドローで終わっている。

今季は20チームによる38試合のリーグ戦で、下位4チームがJ2に降格する。開幕前の専門紙などでも、あらゆる評論家から下位4チームに予想されることが多かった両者の対戦は、序盤から拮抗した展開となった。
湘南は前半から決定的な場面を作るも決めきれないでいると、後半35分にVARで得たPKを鳥栖の林に決められ先制を許してしまう。
その直後に4人を入れ替えた湘南は終盤に入り再び猛攻を仕掛けるも及ばず、鳥栖に敗れてしまった。

しかし、中村駿が移籍していった金子大毅や斎藤未月の穴を埋めるような活躍を見せ、昨季の終盤から試合に出始めた大橋祐紀や田中聡が躍動するなど、個々人の活躍にフォーカスすると期待できる部分はあった。
あるいは前半に数回あった惜しい場面で決め切れていれば、その後の展開は全く違ったものになっていたかもしれない。

ともあれ、湘南ベルマーレは開幕戦に敗れた。

微妙なプレーにはVARで明確なジャッジが下され、試合中5人の交代が認められ選手層の厚さがものを言うようになり、昨季より4試合多い38試合を戦い、20チームのうち4チームがJ2に降格し、感染症などの影響で中止となった試合が代替できなければみなし敗戦が適用される。
まさに、これら「Jリーグのニューノーマル」は、地域クラブである湘南ベルマーレにとって、より大きな試練となっている。

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収束後のニューノーマル

自分たちの時間を作りながらもゴールを奪えず、VARで判定が下ったPKを相手に決められて敗れるという、なんともフラストレーションの溜まる結末となった。
試合中にチャントを歌ったり、試合後に声を出して選手に声を掛けることができれば、もう少しこの感情も違ったのだろうか。

私たちがつい1年前まで過ごしてきた日常は、いつになったら取り戻すことができるのか。ワクチン接種が進んでからなのか、治療法が確立されてからなのか、全国で感染者が一人もいなくなったらなのか。
いずれにしても、あと数ヶ月というスパンでは無さそうな気がする。

そして、もしかつてと変わらない日常を取り戻したとしても、この記事の冒頭に書いた「感染症禍のニューノーマル」と「かつての日常」が融合した「収束後のニューノーマル」が定着すると考えている。
それは、ワクチン接種の証明がないとスタジアムに入れないのかもしれないし、マスクをしたままチャントを歌うことになるのかもしれないし、これからずっとアウェイは指定席のままかもしれない。
まだまだ、想像もできないことが、この先定着するかもしれない。

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湘南ベルマーレのニューノーマル

試合後の帰り道、こんなことが話題になった。

「今日の試合は、昨年の続きを見せられてたみたい。」

たしかにそうだ。
新しい選手たちが躍動し、前半からチャンスを作ったものの、結果としては昨年と同じだったし、内容としても同じような印象を受けた。
昨季の最終節、ここぞで点が奪えず、最下位に転落した続きを見せられていたようだった。

前述のとおり、私たちがスタジアムで過ごしていた日常を取り戻し、収束後のニューノーマルが定着するまでは、まだまだ時間が掛かるだろう。

しかし、湘南ベルマーレの戦いは、まだまだ時間が掛かるなどとは言っていられない。
これまでの縦に早いサッカーを活かしながらも、状況によっては遅攻を展開するという、浮嶋監督の提言する新しいスタイルを一刻も早く完成させ、結果に繋げてほしい。

早く見せてくれ、「湘南ベルマーレのニューノーマル」を。

大声を出せなくても、なかなか点が取れなくても、次の試合はすぐにやってくる。

立ち止まっている暇はない。

手を合わせられなくても、肩を組めなくても、みんなで気持ちを一つにして、前へ進んでいこう。

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