shortshort karuizawa
ショートショート創作しています@軽井沢
え、なあに?あたしたち? ええと、何者って言われても…。 大きくてビックリ?うん、それは良く言われる。 あ、彼?彼はうーんと、パートナー?って言うのかな。 すごいでしょ、ムッキムキで。 外向けには、つよっつよなんだけど、あたしには結構心配性でね、 いろいろ言ってくるわけ、あっち危ないんじゃないかとかさ。 ちょちょちょっと止まって、とかね。 あ、声、渋いんよ? でもねえ、そんな心配したって仕方ないっていうか、 心配したら、”そうなる”って思うんだけど。 それに此処って
ぐるぐるぐる。 遠くて近い 夜。 明るくて暗い 空。 熱くて冷たい 街。 よる。 よるがそこに。 僕は言葉を探している。 美しくて醜い 僕の手。 哀しくて嬉しい 窓。 嗚呼 夜が。 夜が僕の言葉を。 僕を飲み込んでいく。 ******** フィンセント・ファン・ゴッホ「星月夜」 1889年 油彩 73.7cm×92.cm ニューヨーク近代美術館 蔵 R
暑い夏の日、アスファルトの上で干からびているミミズを見たことがあるかい。そんなミミズを見たら、そおっと拾ってあげよう。乱暴にすると、ポキっと折れてしまうことがあるから、気を付けないといけないよ。そして、誰かに踏まれないように、道路の脇、土のある場所にそっと置いてあげよう。置いた場所を忘れないように、何か目印を決めておくといいね。前に見える建物や、近くの電柱、自分で分かるものなら、何でもいいよ。 そして、夜になったら、またそこに戻るんだ。マッチとろうそくも忘れずに。昼間に置
けいこおばちゃんが、ワンピースを作ってくれた。ちょっとお姉さんぽい、白いワンピース。ノースリーブで、水玉もついている。水玉模様じゃなくて、本当の水玉だよ。ピンポン玉ぐらいの、ちょっと大きめの、ぷっくりした水玉。お外を歩くと、青い空が映って、白い雲がゆっくりと流れてるのまで見えるんだ。水玉は、お日様の光でキラキラ光って、風が吹くと、しわしわ細かい波を立てて、ぷるぷるゆれるんだ。ぴょん、と飛び跳ねてみると、水玉が上下にぷるんとゆれた。トットットッ、速歩きすると、2つの水玉がくっつ
ついこの前まで、寒々とした枯れ並木だったのに、枝いっぱいに若葉が茂って緑のトンネルになった。木漏れ日が注ぐ道を味わいながらゆっくり歩いていると、さわわわわぁーっと風が吹いて、湖面に漣が立つように、道に写った葉っぱの影がチラチラ揺れた。5月が好きだ。 葉っぱの影をじーっと見ていると、じっとしているはずなのに、自分の影だけが、反時計回りにぐるっと動いた。私は驚いて影を追う。振り向くと、影は二つになっていた。コートにマフラーという季節外れの恰好の二人。黙ったままじーっと向き合う二人
「あ、あそこにもまたひとつ」 「よし、こっちは私に任せろ」 そういうと、黒スーツの男は、ある家の窓からこども部屋に忍び込み、寝ている男の子の頭上にホースをかかげ、燃え上がっている夢を「消火」した。それは、その子がパイロットになって空を飛んでいる夢だった。2軒となりの家では、また別の黒スーツが、バレリーナになりたい、という女の子の夢を消火しているところだった。 彼らは夢消防団。こどもたちの夢をパトロールし、無謀だとおもわれる夢は発見しだい消火していく。出動するのは夜だが、とき
マメは、わたしの小学校への通学路にいつもいる犬だ。森を抜け、お墓の横をとおり、公道に出る手前にある一軒家。ビーグル犬のマメはその裏庭の、畑のいっかくで飼われている。マメは小さな犬小屋の前につけられた1メートルほどの鎖にいつもつながれていて、わたしがとおると、かまってほしそうに、ワンワンほえながら、しっぽをブンブン振って寄ってくる。 マメが散歩に連れていってもらうところは、いちども見たことがない。ということは、朝から晩まで、何年も何年も、マメは半径1メートルの空間のなかだけ
吐く息が白くなるような冷えこんだ朝のこと。のそのそと布団から這い出して洗面所へ向かうと、蛇口から少しずつ垂れた水が、凍って下まで届いたのか、シンクに氷柱ができていた。 「顔も洗えないや。」 冷気を感じて窓に目をやると、文豪の机に置いてあるような羽根ペンの、羽根をもっと大きくしてヨットの帆のようなのが、いくつも並んで、窓の上から下までずっと、扇のように広がって、今にも飛び立ちそうだ。 「きみもヒトリかい?」 窓いっぱいに広げた羽根の真ん中、嘴のあたりから、透き通った声がした。
T :こんにちは。 M :あ、14時に予約した森です。 T :はい、お待ちしておりました。今日はどうされますか? M : どうにもこうにも、まとまらなくなってしまって。広がったりパサついたりで、困ってるんです。 T :もう少し長ければ、三つ編みなんかで、まとめでもいいんでしょうけど、それにはちょっと短いですかね。 M :はい。不器用なので、あまり手のかからないのがいいなと。 T :そうですか。あ、そうそう、最近うちの店、こんなのを導入したんですよ。 店の奥へと何かを探しに行